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101:意地悪

目が覚めると日は大分傾いていて、そろそろ夕暮れ時になりそうな時刻であった。膝には重みを感じ、なんとなく体は怠い。


だが依然とノルの頭は膝に乗せられている。ぬいはそれに気づくと、ほほ笑んだ。これだけ睡眠がとれているのであれば、疲れもましになっているだろう。


ノルは未だ寝ているようだ。今度こそが最後のチャンスかもしれないと、もぞもぞ手を動かす。


拘束から逃れることに成功し、ノルの指をなぞる。目を覆った右手を外し、ポケットからサイズを測る道具を出そうとする。


「……ん、ヌイ?」

落ち着きのない行動に、起きてしまったらしい。ノルの目が薄く開かれる。


「おは……じゃないね、おそよう、ノルくん。よく寝れた?」

「目が覚めても、ヌイがいる……」


まだ夢か現かわからなくなっているのか、ぼんやりとした顔で言う。


「夢じゃないよ」

ぬいは現実を自覚させようと、ノルの頬を押すように触る。すると、その手が取られ軽く口付けられた。起きて早々の行動に、ぬいは顔を赤らめる。


「嫌がっていない?」

指摘されると余計に恥ずかしくなってくるが、ぬいは素直に頷いた。すると、今度は強く押し当てられ。最後は音を立てる。時間帯と場所に似つかわしくない行為をされ、頭がくらくらしてきた。


「あれ、今何時だっけ。うん、まだ夕方でもないよね」

誰に言われるもなく、確認する。幸い周りに人はいないが、それでもいたたまれない。


「本物のヌイなのか」

「だ、だから夢じゃないって、言ってるよね!?」

恥ずかしさから大きな声を出すと、ノルは目を丸くする。数度瞬いた後、長い息をはいた。


「夢を見ていた。ヌイが元の世界にいて、病が治り。あいつと楽しそうにしていた。それは幸せなことかもしれないが、とても嫌だった」


それがいいとも悪いとも言えなかった。可能性の一つであることは、否定できない。


「もしそうなっていたら、僕は嫌がる人と無理やり結婚させられ、十年後あたりに怨嗟の声を聞きながら、死んでいっただろうな」


「絶対に嫌!」

ノルの腕を掴むと、頬に当て摺り寄せるようにする。


「そんなの無理……耐えられないよ」

少し想像しただけで、胸が引き裂かれそうな痛みを覚える。ぬいは改めてノルへの好意を思い知った。時が経っても落ち着かず、日増しに大きくなってきている。


「わたしはノルくんじゃなきゃ、嫌だ」

「……っく、なんでヌイはいつも先に言ってしまうんだ」


口元を抑え、苦しそうに言う。ぬいはノルの腕をそっと離すと、額に指を当てぐりぐりと押し付ける。そのあとで頬をつつく。


意外と柔らかく癖になってきたのか、ぬいは繰り返し続けるとさすがに止められた。


「僕をこんな風にした責任を取ってほしい」

甘えるようにノルは言う。


「うん、取るよ。でも、もう少しだけ待ってね」


「……わかった。でも気が変わったら、いつでも言ってくれ。今日でも明日でも。なんなら今でもいい」


不服そうに了承すると、ノルは体を起こした。長らくあった重みから解放され、ぬいは背伸びする。


「体は大丈夫か?」

ノルに心配され、ぬいは平気だと頷こうとする。だが、ふと思い出し。周りに人がいないか目配せをする。


「前にも言ったが、体調を気にかけるのは仲のいい間柄だけだ」

「あ、そうだったね。元の世界ではないものだから、つい気にしすぎちゃって」


ノルがぬいのことを拒絶していた時。散々体の具合を気にして、何度も怒られたことを思い出す。御業があるからとはいえ、いまだにしっくりこないのである。


「まだちゃんと、わかっていなさそうだな」


「うん。今後もそういうこと、たくさんあると思う。色々と、教えてくれると嬉しいな」

見上げるようにノルに視線を合わせると、なぜか悪そうに微笑みを浮かべた。


「ああ。いいか、僕とヌイは恋人で婚約者だ。すぐに夫婦になっても構わない」

「……う」


気恥ずかしさから目をそらしたくなり、鼓動が早くなる。


「人の目を気にするのは貴族間だけであって……いや、もうどうでもいいか。僕がヌイへの好意を隠すなど、できるはずもない」


「よくないでしょ!ノルくんが見くびられるのは……っう」


急に膝から太ももにかけてしびれを感じた。ノルが退いた直後はなんともなく、油断していたようである。一ミリたりとも、体を動かすまいと停止する。


「ひゃっ……うっ、え、ノ、ノルくんなにするの?」


太ももをつつかれ、ぬいはうめき声をあげる。すると、ノルは意地悪そうな表情を浮かべた。


「ヌイのことを触りたくなっただけだ」


「絶対違うよね!わかってて、やって……っう……はぁ、ううう……なんでこんなことするの?」


基本的にノルはぬいが本気で嫌がることはしない。するとしても恋人同士の接触ぐらいであって、それすらも拒絶すれば止めてくれるだろう。だからこそ、意味が分からなかった。


「かすれ声をあげ、うるんだ目で見てくるのは悪くない。好きな人に意地悪をしたくなっただけだ」


「いや、ノルくん。普通逆じゃない?気になるから意地悪するものだよね?」


「あの態度に加えて、こんなことしたらヌイに好かれるわけがない。そんな間抜けはするか、一刻も早く手に入れる必要があったからな」


つまり今はそういった行為をしても、嫌われない自信があるということだ。


そう言うと、またしびれた個所をつついてくる。何度か声をもらしたあと、口をとがらせノルをにらみつけた。だが、効果はなく。楽しそうに笑っていた。


「先延ばしにして、じらした罰だ。やめてほしければ、今すぐ僕のものになって、娶られることだな」


しびれと恥ずかしさから、顔を真っ赤にしながら耐え続る。ようやくマシになってくると、ノルはぬいを抱き寄せ「悪かった」と言うと額に口付けた。


そんなものでは誤魔化されないと、ぬいは再びにらみつけた。

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