プロローグ:とある智者のひとりごと
――失うわけにはいかなかった。長年の痛苦に耐えた結果がこれだとは、断じて認めない。
未だ未熟な自身の技術だけで実現は不可能だろう。そもそも一握りの天才だけがたどり着けるものであって、ただの努力では報われない可能性もある。
だとしたら、持ちうる力と伝手にすがって頼るしかない。そうするだけの人脈は築いてきた。だが、それらを集結してもまだ足りないだろう。それでもやるしかない。泣き言を吐く時間は皆無である。
どの世界のどの国にするかは、すでに目星をつけてある。特殊な力を行使でき、病も少なく治安もいい。身分差はあれどもそう大きくなく、この世界と変わらない程度であること。
それらの条件に当てはまるとなると、僅かな数しか残らなかった。
肉体の準備はすでに完了済みである。過去の傷を消し去り、最も万全だった状態に戻している。できればより若返らせたかったが、それでは記憶との不一致から拒絶反応を起こしてしまう。そのことはすでに幾度も証明済みだ。
つまり重きを置く問題は精神面である。こればかりはどう策を練ろうが、確実なことは何も言えない。できれば万能の力を授けたかったが、それはきっと嫌がるだろう。
なにより既に大きな力を持たせた者が居る。同時に二人も施してしまえば、バランスが崩壊する。
目立つことを望まないのは分かり切っているし、この国の在り方にも反してしまうに違いない。泣く泣く加護の付与は諦めた。せめてもと、悟られない範囲で細かい調整を加える。
爆弾のようなものを抱えさせ、たとえ人ならざる存在に成り果てようとも、わずかな可能性にかけよう。
失敗した先が延々なる安寧だとしても、この世界よりは幸せになれると、そう信じて。どうかこの想いが報われますようにと、都合よく祈るしかなかった。
よろしくお願いいたします。