エポニーヌ
第五場 コゼットの家の中
上手にのみ照明。コゼット、エポニーヌ板付き。
コゼット「何のご用でしょうか、エポニーヌさん」
エポニーヌ「他人行着だねえ、少しは打ち解けてくれてもいいのに」
コゼット「申し訳ございません…」
エポニーヌ「…まあ、無理もないか。同じ家で育ったって言っても、あたしの母親は自分の子供であるあたしと、他人からの預かりモノのあんたを、決して同じようには扱わなかった。むしろあんたを女中がわりにこき使っていた。それが今はあたしは貧乏暮しのままで読み書きすらほとんどできないのに、あんたは修道院の学校で勉強させてもらって、そこそこいい暮らしをしている」
コゼット、黙りこむ。
エポニーヌ「今日はそんなイヤミを言いに来たんじゃないんだ…。これ」
エポニーヌ、手紙を取り出してコゼットに渡す。
コゼット「これは…、なぜあなたが?」
エポニーヌ「そうね…、女の意地かな」
エポニーヌ、上手に退場。コゼット、エポニーヌの背中に声をかける。
コゼット「ありがとう…、お姉さま」
コゼット、立ったまま手紙を読む。読み終わると顔を上げ、部屋の中をあちこちを探し始める。ジャン・バルジャン、上手から登場。
ジャン 「コゼット、何をしている」
コゼット「(ジャンを見ずに言う)ピストルをさがしてるの」
ジャン 「そんなものを、どうして?」
コゼット「革命家の集会に行くのよ」
ジャン 「許さん!」
コゼット、ジャンを見据える。
コゼット「マリウスが革命に参加してるのよ!」
ジャン 「おまえが行く義理はない」
コゼット「あの人はわたしを誤解している! 自分にお金がないからわたしがあの人を捨てるかのように考えている!」
ジャン 「そんな誤解をするような男は放っておきなさい!」
コゼット「そんな風に思ったまま死なれたらかなわないわ!」
ジャン 「どうしても行くというのなら、わたしを殺してから行け!」
コゼット、椅子をつかんでジャンにじりじりと迫る。椅子をぶつけようとしたところでジャンに椅子を掴まれ、奪われる。ジャン、椅子を上手に置く。コゼット、箒をつかんでジャンに打ちかかっていく。ジャン、箒をつかんで奪う。上手に置く。コゼット、ナイフを掴んでジャンに迫っていく。
ジャン 「わかった…」
コゼット「行かせてくれるの?」
ジャン 「そうじゃない」
コゼット、ナイフを構えたままジャンに向かって突っ込んでいく。ジャン、コゼットを平手打ちにする。コゼット、倒れる。
ジャン 「わたしが行こう」
コゼット「え…」
ジャン 「わたしがどんなことをしてもマリウス君をここに連れてこよう。ただし! その後のことは知らん。結婚を認めるなんていう約束はしない。わたしにそれを認めさせることは、自分たちでやりなさい」
ジャン、机の引き出しからピストルを取り出す。上手に退場していく。
ジャン 「だからおまえは、わたしが返ってくるまでは、絶対にここから出るんじゃないぞ!」
コゼット「お父様…、ありがとう」
暗転