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第9章 純の過去


えっ?

何で純がここに?


別れた男が目の前に居るという、目を疑う光景に怒りや嬉しさ、色んな心情、感情が美也子の中で激しく揺れ動いていた。


彼がイケメンな故に女達の注目を集めるのは仕方ないが、彼の周りに群がってる女達のキャーキャーという叫び声は美也子にとって耳障りでしかなかった。


その時だった!

美也子の姿を目にした純は彼女の元へと近寄ってきた。



「美也子、授業終わった?」

「…別れた女に何の用?」

「偉く冷たいな」

「何しに来たの?」

「迎えに来た」

「えっ?」


そう言うと、純は美也子の手を掴みヘルメットを彼女の頭上に軽く被せた。


「えっ?ヘルメット…」

「取り敢えず、今は言われた通りにしてくれ。文句は後で聞くから」


美也子は小さく頷くと、バイクの後ろに足を跨ぎ、純の腰辺りに手を回し落こっちない様に彼の体にしがみついた。


「しっかり掴まっといて」


純はバイクに美也子を乗っけると、群がってる女達の前で断りを入れ、バイクを走らせた。

彼の身体からはシトラス系の良い香りが漂う。

香水の様だ。

でも純って香水してたっけ?

それに今更、何の用だろう?

色々な思いを巡らせた。


「ねぇ、何処に行くの?」

「もうすぐだよ」


暫くすると、線香なのか、微かに匂っていた。

そうここはお墓……

と、思った瞬間、純は駐車場にバイクを止め、エンジンを切ると、


「着いたよ、降りて」

「うん」


純に連れられてある人の墓石の前で足を止めた。

そして、こう呟いた。


「久し振り、明日香」


彼は鞄に入れていたチョコパイを二つ、墓石の前にお供えしていた。


「これ、彼女が好きだったからここへ来たらいつもチョコパイをお供えしてる」

「そうなの。…もしかして、彼女は…」

「うん。本気で好きになった彼女だよ。まさかこんなに早く逝っちゃうなんて思わなかった。そう、病気だった。元々心臓の持病があってね。その当時も今みたいに黒髪で落ち着いてたよ。染めるなんて頭になかったけど…彼女の容態が急変してからそのまま…あっという間だったよ。それからだったよ、髪を茶髪にしてピアスを開け出したのは。勿論、荒れて女性との関係も激しかった。もう本気の恋愛はしたくなくて遊びまくってた。美也子と出会った合コンもそう、初めは遊びだった。その間の暇潰しのつもりで。だけど、美也子は他の女性とは違うって感じてはいた。それに美也子に叩かれた時、思った。自分のせいで美也子を傷付けた、もういい加減にしないとって。今更、こんな話しても遅いけど、ほんとにごめん、君を傷付けて…」


自然と美也子の目からは涙が溢れ出ていた。


純は彼女の涙に驚きを隠せなかった。それと同時に罪悪感も重たく、のし掛かかってきた。

ただただ純は頭を下げた。

それを見て美也子は、


「頭なんて下げないで。もう分かったから」

「うん。ごめん」




そして二人は場所を変える事にした。

偶然、喫茶店が目に入り、ここでゆっくりお茶でも、となった。


店内にはコーヒー豆の香ばしい匂いが漂っていた。

だけど、注文した飲み物はお互い、ミックスジュース。

二人は声を立てて笑った。


暫くすると、


「お待たせしました。ミックスジュースです」


注文したミックスジュースを前に美也子は純に言った。


「何で純もミックスジュースを?」

「えっ、何で好きかって?昔からミックスジュースは好きだったよ」


他愛もない会話だったがその場の空気は凄く和んでいた。

それに楽しかった。

と、ここで話は本題に……



「どうして、ここへ私を連れて来たの?別れたのに…」

「そうだな。でも、君を傷付けた事を謝りたかった。それと、過去を話して君の誤解を解きたかった。後は、もう女遊びは止めようと思って」

「えっ?ほんとに?無理してるんでしょ?」


純は黙って首を振った。


「そんな事ないよ、違う」


美也子の不安を掻き消す様に断固として否定した。


「だから、もう一度やり直そう」

「えっ?本気なの?」

「あぁ」


美也子は笑みを浮かべながら、ゆっくりと首を立てに振った。

彼女の返事に純も微笑み返した。


二人の恋愛は今、まさに始まったばかりだ。




一方、この騒がしい二人はと言うと、


「だから、私はこの映画が良い!」

「いや、僕はこっちの方が良いです!」


映画館の前で恋愛か、ミステリーかで言い合っていた。

端から見たら幼稚に見えるだろう。

でも、私にとっては嬉しい悲鳴だ。


そう、美也子を乗せた純のバイクが走り去った後、恭一が私を映画に誘いに来てくれた。


お互い手を繋ぎながら初々しいカップルの様に街中を歩いた。

そして、今に至る。


「じゃ、これで決めるしかないね」

「えっ?何?」

「そりゃ、勿論……じゃん、けん、ぽん!」




暗いスクリーンの中での感動シーンにハンカチで涙を拭っている。

そう、最終的に二人が観てるのは…恋愛映画だった。


「はーぁ、良いわ、やっぱり。恋愛は」

「確かに感動だね」


ふとお互い視線が合った。

恋愛映画を観てたせいか、変に感情輸入してる自分が居る。

でも感情輸入してるのは私だけじゃなかった。


その瞬間、恭一は私の手を握り、そっと軽く口付けをした。


「えっ、誰かに見られたら…」

「大丈夫、誰も見てないよ」


恭一は私の唇を吸い付くす様に何度も口付けをする。

彼の激しい息遣いと胸の鼓動が伝わってきて、半端ない緊張感が私の心臓を煩くさせる。

そして両肩に置いてた彼の手が次第に私の胸辺りに下がっていく…。

どうしよう。さすがにここでは、駄目……!


と、思った時だった。

暗かった照明が段々と明るくなってきて周りの観客の声が微かに聞こえてきたのは。

はっと、興奮してる自分を抑える恭一の姿に私も内心ほっとしていた。


「亜希、ごめん」

「何が?私は大丈夫」

「ありがとう、じゃ、遅くなったしそろそろ帰ろうか?」

「うん」


そんな幸せ絶頂の私達を壊す出来事が直ぐ様、起こった。


映画館を後にした二人は何気にその辺のショップを見ながら帰宅途中のデートを楽しんでいる最中、背後から呼び止める女の声に私達は揃って足を止めた。



「…恭一君、また会ったわね」




振り返った先に居たのは、以前、校門の前で恭一と言い合っていた女。



恭一が手を挙げようとしたのを私が止めた、あの時の女だった…。

私は嫌な胸騒ぎがした……。












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