第8章 気になる存在
チュンチュン
小鳥の囀りが聞こえる、もう朝か。
私は窓を全開にした。
恭一と再び復縁を果たした私は喜びの絶頂に立っていた。
その一方で親友の美也子の事も気掛かりだった。
結局、昨日は美也子から連絡はないまま。
今も携帯電話を近くに常時してる。
「電話してみようかな…」
コンコン
「お姉ちゃん、入って良い?」
「あっ、咲。良いわよ」
私は扉を開け、咲を部屋に入れた。
「おはよう、咲。どうしたの?」
「うん……美也子さんはあれからどう?」
「分からない。今日会ったら聞くつもりだけど、ほんとの話は他にあるんじゃないの?」
「えっ……?」
咲の反応に私は図星か?と彼女の心を見透かしてみた。
「咲、私ね。好きな人が出来たの」
「えっ?」
「だから、気にしないで良いからね」
「えっ?好きな人?巧さんはどうなるの?」
唐突な話で咲は困惑してるのか、少し挙動不審にも見える。
全く、素直じゃないんだから…。
「巧とは別れるよ。お互い違う人を好きになってしまった以上、一緒には居れないし」
「何かの冗談?」
「冗談じゃないよ。私達は最初、軽い気持ちで付き合った。それが良くなかったんだよね。でも結果的には良かったと思ってる」
「そうなんだ…」
私の話を半信半疑で咲は聞いていた。
敢えて、他に出来た好きな人の事には触れずに…。
咲は二人が別れるのは自分の責任だと自分を責めた。
折角、出来た姉の彼氏だった人に惹かれた自分に……。
その為、咲は登校時間を少しずらすなどして巧と会うのを避け続けた。
姉を慕っているからだ。
だけど……感情的な気持ちを抑えるにはどうしたら良いだろう…と登校中、頭を悩ませていた。しかし、不可能に近い。
咲は心を押し潰すしかなかった。
はぁー。
大きな溜め息を付いていた咲の背後に何やら気配を感じた。
咲の足は次第に早歩きになると、背後の足音も早歩きになっていた。
やばい!
ストーカー?!
徐々に早歩きから小走りになる咲を背後から追いかける一人の男の手が素早い動きで彼女の手を掴むと、振り返るのも怖い咲はただ大声で叫んでいた。
「…嫌!止めて!放して!」
「…咲ちゃん!」
えっ?と我に返る咲。
ストーカーじゃなく、巧の姿だった。
「た、巧さん?」
「ごめん。声かけようと思ってたんだけど、かけにくくて。怖い思いさせてごめん」
「いえ、ストーカーだと思い込んでしまってたから」
「そうか、済まない」
二人の間に重たい空気が流れた。
言葉が見つからない二人はただゆっくりと歩幅を合わせて歩いてた。
「あの?」
「うん?何?」
「えっと…お姉ちゃんとはどうなんですか?」
他愛もない会話でこの場を誤魔化す咲に、
「それを今聞くの?」
巧は呑気に笑って答えた。
「何が可笑しいの?」
「咲ちゃん?」
「私が悩んでるのを見るのがそんなに可笑しい?私はお姉ちゃんの事も大好きだから。だから…」
「ごめん。君が亜希を好きなのは分かってる。自分のせいで悩ませてるのも知ってる。だけど、初めて君を見た時からなぜか気になる存在だった。でもそれはただ、亜希の妹だからかな?とか、色々考えてたけど…やっぱり君の事が気になるんだ。ごめん、中途半端な男で」
咲は頬を少し緩ませながら笑った。
「咲ちゃん、いや、これからは咲って呼ぶよ。意味分かるよね?」
「はい…」
コクンと頷く咲を巧は優しく抱き締める…。
暫く、二人はその場で強く抱き締め合った…。
その頃、「おはよう!」の私の一声で教室は賑やかになっていた。
私のすぐ後だった、美也子が教室に入ってきたのは。
「あっ、美也子、おはよう」
「あっ、おはよう」
うん?案外、落ち込んでない?
浮気じゃなかったとか?
私は美也子の耳元で呟いた。
「純君とは結局、どうなったの?」
と、美也子から予想外な返事が返ってきた。
「あっ、別れたわ。あんな男、別れて正解だったわ。心配させてごめんね」
「えっ?別れた?」
平気そうな素振り見せてるけど、本当は…。
私は美也子が無理をして意地を張ってる様にしか見えなかった。
その時、巧も教室に入ってきたのを見計らって私は彼に駆け寄った。
「巧、おはよう」
「亜希、おはよう」
二人のぎくしゃくした関係も少し解消されていた。
以前の様な友人関係に戻れると淡い期待を持った。
キンコーン、カンコーン
わあっ~やっと終わった!
勉強が苦手な私はこのチャイムが心地良かった。
「ふー、今日も終わったわね。亜希、何か嬉しそうね?」
「やっぱりそう見える?」
美也子は何気に教室の窓から校門辺りを眺めた時だった。
校門に何やら人が群がっていた。
「何か校門が騒がしくなってるみたい」
「えっ?じゃ見に行ってみる?」
私達二人は様子を椅子から腰を上げた。
すると、確かに人が群がってる。その中から微かにバイクのエンジン音が聞こえた。
「一体、何の集まり…………、って、えっ!?」
美也子の目に飛び込んだのは茶髪の髪を黒色に染め直した純の姿だった。