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第7章 好きです


「美也子!」


私は居ないはずの美也子の名を叫んでみたがやっぱり返答がない。

いつの間にか、彼女は私を置いて一人で純の元へ行ったんだと確信した。



「美也子なら帰ったぞ」

「えっ?あっ、巧…」


まだ教室に一人残っていた巧が久し振りに言葉を交わしてきた。


「美也子と何かあったのか?」

「いや、何も…」

「そうか」

「じゃ、私帰るよ。お先に」


余りの気まずさに耐えられず、私は逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。

わざとらしかったけど。


今は美也子の事なのに、恭一の言葉が頭を過ってばかり。

別れた彼からほんとは自分に好意がありましたと言われ、舞い上がってるのも強ち嘘じゃないし、ほんとは嬉しくて堪らなかった。


私は何か無性に恭一に会いたくて仕方なかった。


「恭一、会いたいよ」


その時だった。

背後からそっと抱き締める両腕に私は強くしがみついていた。

振り返らなくても私には分かった、彼だって。

涙が溢れ出して止まらない。


「亜希さん…」


恭一は耳元で静かに呟いた。

私も溢れ出した感情を彼にぶつけた。


「恭一、好き」


それに答える様に彼は私の頬に手を当て、自分の顔の方へ近付けながら唇を塞いだ。優しく溶け込む様なキスだ。

私は彼の唇の感触がとても心地良かった。

勿論、嬉しさや緊張感など色々な気持ちが入り交じっているけど、私はもう一度気持ちを伝えたい!


「あの、恭一」

「何?」

「ーー好き!」


私は彼に思い切り抱き付いた。

そして強く抱き締め合った。



二人の思いが実を結ぶ中、美也子は一人、純の帰りを校門近くで待っていた。

連絡なしで来たから驚くかもしれないが…真実が知りたい。


と、何やら喋り声が耳に入った。

もしかして純?…と思いきや、女性の声だったと諦めて帰ろうとした時、衝撃な光景を美也子は目にしてしまう。

その女性の横に居たのは純、彼だった。


「えっ?美也子?」


良く見ると、二人は手を握り締め合ってる。

流石の純もこの場を誤魔化す事は不可能だと、察した。


「美也子、彼女はその…」

「もう良いわ、言い訳聞きたくない」


彼は一人の女性で満足出来ない、二股を平気でかける男だった。

あたふたする彼に美也子は苛立ちを感じると、思い切り純の頬を叩いた。


パチン!


少し赤く腫れた頬を純は触りながら、


「ごめん。ほんとに美也子の事も良いと思ってたけど、今の彼女の事も良くてどちらか選べなくて」

「そうですか。私、二股されるの嫌だから」

「ごめん」


結局、彼は一人の女に絞れないから浮気をしたって事だ。

付き合い続ける度、毎日不安と押し潰されそうな日々を過ごす事になるならいっその事…


「別れよう」

「別れる?そうか、分かった」


美也子の決断にあっさり了承した純。

彼にとってはその程度の気持ちだったのかと思うと、寂しさや悔しさ、彼と付き合った事に対して自己嫌悪を感じた。



そして美也子は「さよなら」と良い残し、その場を立ち去った。

未練を断ち切るのは簡単じゃない。

だけど精神的に耐えられないのが今の現状、別れるしか仕方がなかった。



そんな美也子の後ろ姿を遠くから眺めながら、純は小声で呟いた。


「女性に叩かれるのって初めてだな…」


彼女に対しての罪悪感は感じていた。

だけど、彼は彼女を追いかけようとはしなかった。

一人歩く美也子は必死に涙を堪えていた…。




そんな状況になってたとは、その時の私は知る良しもなかった。



色々あったが無事に復縁する事になった恭一と私。

恭一は私を自宅まで送り届けてくれた。


「ありがとう」

「ここが亜希さんの家?」

「うん、マンションなの」


お互い緊張で言葉が見つからず、沈黙状態だ。

そう、キスの余韻が残ってるせいか、顔も見るのも恥ずかしくて真面に見れない。

巧もそうだったが、恭一もキスが上手だった。

体が火照りそうな私を冷ます様に恭一は口を開いた。


「あの、亜希さん」

「えっ、な、何?」

「手、大丈夫?」

「えっ?あっ!」


と、視線を手元に向けるとお互いの指を絡めながらの恋人繋ぎをしてるせいか緊張で手が汗ばんでいた。


「だ、大丈夫!」

「ほんと?」

「うん!それに……」

「それに?」

「…手を離したくないし」


寂しがる私にそっと、恭一は私の頬に軽く口付けした。

顔を真っ赤にする私に更に恭一はこう囁いた…。


「トマトみたいに真っ赤だよ」


気障な台詞だが今の私には贅沢なご褒美だ。

そこで私は彼に提案した。


「あの、さん付けは止めない?付き合うならね?駄目?」

「いや、良いよ。当たり前の話だよ。……亜希」


名前を呼ばれると胸がドキドキして照れ臭くなる。


「何か、恥ずかしいね。でも嬉しい、ありがとう」

「こちらこそ、ありがとう」


恭一は私の真ん丸の重たい体を両腕でしっかりと支えながら抱き上げた。

私の足も宙に浮いている。


「恭一、駄目!私、重いから」

「大丈夫だよ」


私は恭一の澄んだ綺麗な瞳を覗き込んでいた。


「亜希、余り見ないで欲しい、恥ずかしいだろ?」

「はーい」


この時、私は痩せて綺麗になる為にダイエットを始める事を決意した。

毎回ダイエットするも、失敗。大体、初めても三日坊主で終わるのだ。

今回は続けられるだろうか?自信はない。



恭一と別れ、自分の部屋に戻った私は美也子に謝罪のメールを送信した。


結局、この日は、美也子から返信は来なかった。














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