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第4章 揺れ動く心


えっ…?

これは、現実?それとも夢…?



咲の体は巧の両腕の中で優しく包まれていた…。


彼の体温が心地よくて、つい彼の背中に手を回そうとした時、亜希の顔が頭を過った…。


ダメ!

咲は思わず巧を突き飛ばしてしまった!


「あっ、ごめんなさい!」

「…あっ、いや、こちらこそごめん」

そんな彼女の顔は赤面していた。

その姿が余りに愛しく感じて、巧は彼女の耳元でそっと囁いた。

「可愛い」


彼の息遣いが耳から伝わって全身が熱くなった。


「からかわないで下さい!」

「そんなつもりないよ?」

「じゃ、どうして…」

咲はどうしてあんな事したの?と聞きたかったが思い留まった。


「…うん?何?じゃ、何を言おうとしてたか当ててあげる。どうしてあんな事、したの?って聞きたいのかな?」

気持ちを見抜かれてる様だった。


「違います!もうここからは一人で帰れます!さよなら!」


これ以上、彼と一緒に居ると自分の心が揺れ動きそうで怖くて彼の傍から離れたかった。

走り去る彼女の背中を巧は守りたいという気持ちに駆られた。

それは同情からか?恋からなのか?

まだ誰も知るよしもなかった…。




ふぅー。


咲は家の前で足を竦めていた。


「どうしよう、どんな顔したら…」


平常心で冷静に………良し!

ゴクリと息を飲んだ。

覚悟を決めて、玄関のインターホンを鳴らすと、


ガチャ、


「お帰り、咲」


「お姉ちゃん、ただいま」


亜希が玄関まで出迎えに来てくれた。

姉の顔を見ると、さっきの出来事が咲の脳裏に蘇る。


「卵、買いに行ってたんだって?」

「うん、少し遅くなっちゃった」


姉に罪悪感を感じる咲の態度はどこかよそよそしい。


「咲、どうしたの?ご飯にしよう」

「……あっ、はい!」


母、幸子が作っておいたチキンライスに咲の買ってきた卵をかけてふわとろオムライスの完成。後、スープにはじゃがいもや人参などの野菜たっぷりのポトフが並んでる。


「咲、雨の中、わざわざありがとね」

「気にしないで」

「元気ないわね?」

「えっ?そんな事ないよ?」

「そう?でも私は貴方の母親だから」


母には全てお見通しだった。



昔の話……咲がまだ小学五年生だった頃、同級生の男子生徒で名前は梶原努(かしはらつとむ)君っていう男の子が居ました。

恥ずかしながら咲は、その子に夢中でした。

彼はどちらかと言うと、真面目で勉強しか興味がなく成績もクラスで断突の一位!だったが…周りの女の子の心を仕留めるのは下手だった様だ。

唯一、咲だけは彼に惹かれていた。

ある日の下校中、咲は努君に言った。

「私、努君の事が好き!」


彼も咲の事を好きな気持ちはあったが、彼女はクラスの男子生徒達の心を仕留める一番人気の高い女の子だった為、引き目を感じたのか…


「ごめん、君の事は友達としか思えなくて…」


咲にとって、苦い思い出になってしまった。

それ以来、恋には臆病になっていた。


思い出した切っ掛けは、母が作ったオムライス。

あの振られた日の夕飯はオムライスだった、偶然にも。


相変わらず母のオムライスは何度食べても美味しい。

母の料理が父や姉の口に合ってるみたいで美味しく頂いてくれてる。特にポトフの方は二人ともおかわり!と叫んでる。

家族全員が幸せに暮らせて行けたら何よりだな、と中学生なりに密かに願っていた…。




翌朝、咲はいつもより早い目覚めだ。

偶々じゃなく、わざと時間をずらしていた。

巧と会いたくなかったからだ。


咲は朝食を牛乳とバナナで済まそうと考えた。

冷蔵庫を開けると牛乳がなかった。


「牛乳なかったんだ…」



台所から物音が聞こえた為に母、幸子が覗き見にきた。


「咲、どうしたの?」

「あっ、お母さん?ごめん、起こしちゃった?」

「良いのよ。もう起きる時間だし。咲こそ、何でこんな早く起きてきたの?何かあったの?」

「あっ!えっと……友達と朝のお散歩に行く約束してて…」


嘘の口実を作ってしまった。

「そうなの?じゃ、気を付けて行ってらっしゃい」

「…行って来ます」


母は何かを察したみたいだ。でも敢えて、何も聞いてこない、母は昔からそういう人だ、娘を信頼してくれてる。だから母を裏切る様な事はしない、娘として。

咲は静かに玄関から出て行った。


いつもより少し早いせいか、外の空気が澄んでいて清々しかった。

咲は空気を思い切り、吸い込み吐き出した。

「はー、気持ちいい。涼しい~。たまには朝の散歩も良いかも?」


その時だった。


「…あの、もしかして岸元咲さん…?」

「えっ?」


振り返った視線の先に居たのは、咲が小学生時代好きで告白した噂の梶原努、彼だった。


「あっ、久し振り。何でここに?」

「僕、いつもこの時間この道を通ってますよ。咲さんは?」

「えっ?私は今日偶々この道を通っただけで……」


以前、告白した男の子がいつの間にかこんなに逞しくなって目の前に現れるなんて……。

苦い思い出のはずだが、実際、会ってみると嬉しさの余り、笑みが零れる。


「咲さん、今日会ったのも偶然じゃないと思う。今更で遅いと思ってますが、小学生の時の告白の返事、今して良いかな?」

「告白の返事?私、振られたんじゃ?」

「君は気付いてないみたいだけど、君はあの時、クラスの男子が可愛いと思う女子生徒、ナンバー1だったんだよ。正直、あの時の僕は地味で目立たない存在だったから、君と釣り合わないと思ったから断っただけ。だけど、今は違うよ。こうして会えたからチャンスだと思って言うよ。僕と付き合って欲しい」


咲は動揺してはいるが内心は嬉しさが込み上げていた。

嬉しいはずの告白なのに、即オッケーなはずなのに、何かが心の中で引っ掛かる。

そうだ、彼だ、巧さんの影響だ。

彼の顔がちらちらと頭に浮かんできて……。


咲は……彼に玩ばれてるかもしれない、ただの同情かもしれない、最悪、二股を掛けられてるかもしれない、色々な可能性を考えてみた。だけど、それは彼しか分かり得ない事だ。



「ごめん、今更って言うのもあるし、付き合うのは無理です」

「そうだよね、ごめん。僕はチャンスを自ら手放したんだから仕方ないよね。でも久し振りに顔を見れて良かった」

彼は案外、あっさりとした態度で身を引いてくれた。


あぁー、逃した魚は大きいとか言うけど、自分の選択は間違っていない事を祈るだけ…。

彼を逃したのは勿体無いの一言だけでは足りないかも。



一方、その頃、亜希はと言うと…



「亜希!早く行かないと遅刻するぞ!」

「今、行くー!」

「どうしていつも支度に時間かかるんだよ?」

「怒らないでよ!」


毎日の日課にもなってる巧の朝のお迎えは私にとっての楽しみでもある。いつも口喧嘩してばっかりだけど、楽しい癒しの空間とも言えるかもしれない。


「巧、ごめん。怒らないでよ?」

「いや、怒ってないよ。それより咲ちゃんは?」

「咲?今日は友達と会うとかで早く出て行ったけど」

「こんな朝早く?」

「詳しい事は知らないわよ?」


巧は彼女に避けられてるんじゃないかと疑問を抱いた。

やっぱり、このままじゃ、駄目だ。


「亜希、話があるんだ」

「えっ?話?」


彼は真剣な眼差しで私の瞳を覗き込んだ。

嫌な予感がする…。

私は咄嗟に両手で耳を塞いでいた。


「ごめん、聞きたくない」


自分の話に全く耳を傾ける様子のない亜希を見て、


「今は無理そうかな…。止めて置くよ」


今はって?

何の話かは見当が付いてる。でも聞くのが恐い。

今の私にはその話を冷静になって受け止める余裕などないだろう。

ましてや、気持ちが不安定になって荒れたりしないかと自分が心配だった。



あぁー、どうして私の恋は上手くいかないの?

神様、不公平だよ。


今の私には教室の扉を見るだけで憂鬱になる。


ガラッ


「亜希!おはよう!」

「あっ、美也子」


美也子達は上手く行ってるみたいだ。

彼女の顔はそれを物語っていた。

それに比べ、私はどん底に突き落とされた気分だ。


私の気も知らないで、巧も平然と他の男子生徒らと絡み合っていた。


そんな光景を目の当たりにすると自分が惨めになる。


「亜希、元気ないわね?どうかした?」

「あっ、実はね、色々あって……」

「色々?」

美也子は首を傾げていた。


私は彼女にここ最近の出来事を初めて美也子に打ち明けた。

てっきり、私の事を可愛そうだと同情してくれるかと思いきや、


「亜希、貴方はほんとは誰が好きなの?彼氏っていう響きが良くて彼氏欲しかっただけじゃない?」

「そんな事ない!」

「ふーん、どうだか…。亜希ってさ、まだ恭一君に未練が?」

「まさか!有り得ないわ!」

「そうかな?」


ここまで否定的になるのは、逆にまだ恭一への思いを断ち切れてないからなんじゃ?と美也子は直感でそう感じていた。


「とにかく、違うから!」


断固として違うと言い切る亜希。

彼女は一番に見た目を最重視する分、中身は二の次。

小学生の時から友達付き合いしてきた美也子だからこそ分かる事だ。



放課後、私は何気に教室の窓越しから校門に向かって歩いてる恭一の姿が目に入った。


「あっ!そうだ、傘!」

以前、彼から借りたままの傘をずっと返さずにいたのを思い出した。


私は咄嗟に傘を手に持ち、教室を飛び出していた…。























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