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第3章 急接近


「…お姉ちゃん!」


う~ん、誰かが夢の中で私を呼んでいる。

まだ、寝たらないよ~。寝る、お休み……


「お姉ちゃん!ご飯だよ!」


「…う~ん?」


私は寝惚けながら、ちらっと目覚まし時計を見た。


「………あっ、やばい!もうこんな時間!」


深い眠りからようやく目覚めた私は背筋を伸ばした。


慌てる私は制服に着替え、髪の毛をセットした。

その頃、台所の方では良い匂いが漂っていた。

テーブルには味噌汁、鮭の塩焼きに卵焼きなど定番の朝食メニューが並んでる。


「おはよう!」

「おはよう、亜希!!」

今日は父と母の幸子さんの二人が私を迎えてくれていた。


そう、私に新しい家族が増えた。母親の幸子さん、妹の咲。

幸子さんの事をまだお母さんと呼ぶには抵抗があるし他人行儀に接するだろけど、時間をかけて親子関係を築くしかない。


それにしても大勢での朝食なんて初めてかもしれない。


全員、席に着くと父は急に改まって挨拶を述べた。


「四人揃ったかな?それでは、今日から四人での生活が始まるけど皆で助け合って仲良くやっていこう。これからも宜しく頼みます。…それじゃ、頂きます!」


私達は日々、感謝を込めて合掌した。


幸子さんの白味噌ベースの具沢山の薄味の味噌汁は私と父の舌を唸らした。正確に言うと、美味しいという事だ。

ご飯の固さも丁度良い具合だ。

つい、ご飯を満腹になるまでおかわりしてしまい、私のお腹は膨れ上がっていた。

その時だった。


ピンポーン


「あっ、もしかして来たかな?」

インターホンの音にお客さんが誰か検討がついた私は思わず口元を緩ませながら椅子から腰を上げた瞬間、


「あっ、私、出ます!」

「えっ?」

咲は素早い動きで私より先に玄関先へと足を向かわせた。


そして扉を開けると、そこには制服を着た一人の男性が立っていた。


「すいません、どちら様ですか?」


一瞬だが、咲を見て何かが揺らいだ目の前の男。

その男性は、亜希を迎えに来た彼氏でもある巧だった。


「…見ない顔だけど、君、可愛いね、何て名前なの?」

「…えっ?あの、私は…」


咲の背後で私は呆れ返っていた。

何で男って言うのは可愛い女性に弱いのかしら?



「ちょっと巧!私の妹にちょっかい出さないでよ!」


鬼のような形相の私を見て、巧は少し焦り顔になった。


「…冗談だって、真に受けるなって…………えっ?妹?!」

衝撃を隠せない巧は咲の表情を窺っていた。


「…まぁ、取り合えず、行きましょう。遅れるわ。じゃ、咲、行ってくるわ」

「行ってらっしゃい」


玄関先から咲は手を振っていた。

巧が咲の方を何度か振り返る姿を私は見逃さなかった。

私は何となく、咲以外の話で話題を反らそうと考えたが巧の方から先に咲の話を持ち掛けてきた。


「…所で、あの咲って子の事で話があるんだろ?」

「…あっ、うん」

私は仕方なく昨日の経緯を巧に全て打ち明けた。


「亜希のとこも大変だったんだな、でも急に母親に妹って良く受け入れたな?」

「受け入れた訳じゃないわ。ただ、咲の事は受け入れようと思ったわ」

「そうだな。お父さんが亡くなって辛いはずなのにこの現実を良く受け入れたなって思ったよ、あの咲って子」

「そうね」


巧が咲の事を気にかけてくれるのはただの同情に違いないと自分の心に言い聞かせた、私の妹だからって。

それしか少しの不安を取り除く方法がなかったからだ…。

私って、心が狭い人間だわ。



教室に入ってきた私のとこに弾けんばかりの笑顔で美也子が駆け寄ってきた。


「おはよう、亜希~」

「おはよう、美也子。何か良い事でもあった?」

「あら?分かる?」

「顔に出てるよ」

「そう?…実は純と正式に付き合う事になったわ!今までは友達感覚で会ってたけど、五回目に会った時に正式に付き合おうって話になったの!」


満面の笑みの美也子と違って私は冴えない顔をしてる。神経質な性格が吉と出たかな。

今の美也子には母親と妹の件を話しても上の空だろう。

また後日話すとしよう。

ほんとに最悪だと感じたのは、授業が終わって帰ろうとしてた直後の突然の通り雨だった。折り畳み傘も持参していない。


「どうしよう?傘、持ってない、美也子も先に帰ったし。巧も学級委員で遅いし」


立ち往生してる私にそっと傘を差し出した人物が居た。


「どうぞ、僕の傘で良ければ使って下さい」

「えっ?」

それは、別れた直後からまともに話もしていない恭一の姿だった。


「あっ、でも貴方が濡れるんじゃ…」

「大丈夫です、もう一本ありますし。それよりもう睨まないで下さい。あの時の事は謝りますから。ですが、そのお陰で巧さんと付き合えて良かったじゃないですか?おめでとうございます」

「あ、ありがとう」

私は静かに頷いた。

「気にしないで下さい。返すのはいつでも良いですから」

私はお言葉に甘えた。



久し振りに間近で見る別れたばかりの恭一の顔に私は胸をときめかしていた。

恭一への感情も沸き上がりそうなくらいに。

彼氏が居るのに、気が多い女だと自分で自覚していた。

未練がましいと自覚はしていた…。



一方、亜希宅では母、幸子と妹の咲が台所に立っていた。


「咲、今日は夕飯オムライスで良い?」

「うん、オムライス好き!」


母親の幸子が夕飯の支度を始めようとしていた。


「お母さん、何か手伝うけど、どう?」

「そうね…。あっ、卵ない?忘れてたわ!」

オムライスするのに肝心な卵がない事に気付いた幸子に、


「じゃ、私、買ってくるよ」

「えっ?でも雨が…」

「大丈夫、本降りではないみたいだし」


咲は雨の中、傘片手に、スーパーへ買い出しに出掛けた。


店内に入ると、床が雨で濡れていて足元が滑って転びそうになった瞬間、

「…あっ!」


やばい!転ぶ!


間違いなく転倒するだろうと諦めた彼女の体は一人の男性の両腕で間一髪、抱き抱えられてた。


「大丈夫?咲ちゃん?」


「えっ…?」

誰が助けてくれたのかと顔を振り返ると、この雨に打たれて全身がずぶ濡れになっている巧の姿だった。咲は胸が一瞬、締め付けられた。

彼のお陰で怪我せずに済んだが…。


「…あっ、ゴメン。濡れちゃたかな?」

「…あっ、いえ、助かりました」

彼の髪は雨で濡れストレートになっていた。

朝見た時はワックスで髪の毛を立てていた為にイメージが違って一瞬、誰だか分からなかった。


「買い物?」

「はい、卵を買いに…」

「卵だけ?じゃ…待ってるから送ってくよ」

「えっ?」

「遠慮しなくて良いから」

「はい…」


それから十分後、

卵のパックが入った買い物袋を手に咲が戻ってきた。


「お待たせしました」

「大丈夫だよ」


ふと、外を見るとさっきまでの雨が嘘の様に止んで綺麗な虹がかかっていた。


「雨止んでるね」

「ほんとだ、虹が綺麗」

「じゃ、帰ろうか」

「はい」


お互い、何か惹かれる部分があるのを感じた。

複雑な心境の中でも巧は冷静を装っていた。

何と言っても相手は中学生、恋愛対象外のはず。

一時の気の迷いだと願いたかった。


「…今日は卵料理かい?」

「…はい。オムライスなんです」

「オムライスか、良いね」


話が直ぐに途切れて続かない。

年齢の違いで話題も違うのが原因だろう。


「あの、巧さんはお姉ちゃんの彼氏ですよね?だったらお姉ちゃんの事、幸せにしてあげて下さい。何か、巧さんと居る時のお姉ちゃん、凄く嬉しそうで凄く巧さんが好きなんだと感じたから。私はお姉ちゃんとお父さんって存在に出会えた事に感謝してるんです」


中学生の台詞だろうか?と、巧は首を傾げていた。

彼女は自分の意志をしっかり持ってるだろし心も純粋なのだろう。そういう彼女の魅力みたいなものに一瞬でも惹かれた自分が居たんだろうと、結論を出していた。


「咲ちゃんの思いはお姉ちゃん、いや亜希に伝わってるよ」

「ありがとうございます!」


咲の無邪気な笑顔を見た巧は無意識の内に彼女を抱き締めていた…。


















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