第2章 突然の訪問者
巧と結ばれた夜から二日経った日のある日の事、幸せに浸ってる私に衝撃な事実が発覚する。
それは昼間の暑い時間帯。エアコンのきいた涼しい部屋で父と二人寛いでる休日であった。
父と一緒に昼食を終えた私は後片付けで台所に立っていた。
その時だった。
♪~~
電話の音に私は何気に受話器を取った。
『はい、もしもし、谷村ですが?』
『…………』
『もしもし?』
応答がない?と、電話を切ろうとした時、
『……亜希なの?』
電話口から聞こえる聞き覚えのない女性の声。しかも私の名前を呟いていた。
一体、誰?
『…あのどちら様ですか?』
ブチッ、プープー
えっ?嘘?電話切れてる?
「亜希、どうした?」
「父さん!」
私の家族は父親、谷村茂明が一人だけ。
産まれて直ぐに両親は離婚したと聞かされてる。
だから母の顔は良く覚えてない。
今も父とマンションで二人暮らし。決して裕福ではないけど今の暮らしに何も不敏はないし不満はない。
「父さん、今、電話口から私の名前を呼ぶ怪しい人から電話あったんだけど…父さん心当たりある?」
「あぁ、そうだな……」
父の顔付きが険しくなった。
「ねぇ、父さん?何か変だよ?」
「な、何もないが」
私は挙動不審な父に更に追い討ちをかけた。
「何か隠してるでしょ?」
「…えっ!」
「ばればれだよ」
父は昔から嘘が付けない人なのを私は知ってる。
すると、父は重たい口を開いた。
「実は、今日お客さんが来るんだ」
「えっ!聞いてないよ」
「済まない。…もうじき来ると思うんだ」
「えっ!こんな汚い部屋に上がって貰うの?」
私は大急ぎで部屋中に掃除機をかける。その後は拭き掃除。
そのせいか床がピカピカ光っている。
「よし!これで良い」
暫くすると…
ピンポーン
玄関にインターホンが鳴り響いた。噂のお客さんかな?
私が玄関の扉を開けるとそこには四十代ぐらいの女性と綺麗で大人っぽい中学生ぐらいのショートへアの女の子が立っている。
「父に用ですよね?」
すると、その女性の目からは思わず涙が溢れ出ていた。
そして呟いた。
「……亜希?」
えっ?誰?私を知ってるの?でも見覚えがない顔だった。
でもさっき電話口から聞こえてた人と声が似てるかも?
「…あの、どちら様ですか?」
「あっ、私は…」
女性は感動の余り、言葉に詰まっていた。
その時だった。
「亜希!」
父の声がする方へ私は振り返った。
「…亜希、彼女は、お前の実の母親、旧姓、岸元幸子さんだ」
「……えっ、母親って…。産まれて直ぐに離婚したんじゃ…?」
「……父さん、昔、母さんと結婚してからもお互い喧嘩や意見が食い違ったりとかで上手く行かなくて結局、離婚して亜希を私が引き取った。でもその後、後悔はしてた、離婚した事に。それから十数年も経ったある日の事、久し振りに幸子から連絡が来た。そして再婚した今の夫が病死した事を聞かされた。私と離婚した後に再婚した夫との間に子供が居る事も知った。それが彼女、岸元咲ちゃん、中学二年生で亜希より三つ下の妹になる子だ。それを聞いてまた一緒に四人で暮らす事が出来たらと考えた。まぁ今のマンションに四人では少し狭いだろうが、一部屋空いてるからいけるだろ?」
私は現実逃避したい気持ちでいっぱいだった。初めて父に怒りを覚えたが、でも大好きな父の頼みならば受け入れざるを得ないだろう。
だけど!私は心の隅では一緒に暮らすなんて嫌だと言ってる!
でも……ちらっと母親の連れ子の女の子、咲に視線を向けた。
すると、咲は私に微笑み返した。
えっ?何でこの子は笑えるの?この事態に冷静沈着を装ってるだけだろう、きっと。
「……まぁ、外ではなんだし上がって」
「…はい、お邪魔致します、ほら咲も」
「…お邪魔します」
咲は一礼すると履いてきた靴を綺麗に揃えてる。
常識は弁えてる様だ。
父は二人を自宅に招き入れると、
「じゃ、この部屋なら使ってないから。好きな様に使って」
「ありがとう。…貴方、亜希は大丈夫かしら?」
「大丈夫だ。心配ない。…それから咲ちゃん、これから父親として頑張るから宜しくな」
「はい」
咲は笑顔で頷くと、
「…あの、亜希さんの部屋は?」
「…えっ?亜希と話するのか?もう少し落ち着いてからの方が良いんじゃ?」
咲は首を振った。
「今、話します」
「そうか、分かった」
咲は亜希の部屋の扉をゆっくりとノックした。
コンコン
「…あの、亜希さん。少し良いですか?」
えっ…?私に何の話…?
急に妹が現れた混乱してるのに。
今は余り、会いたくないな…。見た目も中身も私より勝ってるみたいやし。
どれだけ悩んでも答えが出ない。
仕方なく私は扉をそっと開けた…。
ガチャ…
「…私に何か用?」
「…少し話そうと思って」
咲は緊張で表情が固かったが、必死に骨格を上げ笑顔を作っていた。
「緊張してるのね?」
「はい。いざ話そうと思っても何も出てこなくて。ごめんなさい」
「お父さん、亡くなられたって言ってたけど…大変だったでしょ?」
「はい。お父さんが亡くなってからどうなるのかと、途方に暮れちゃってたんだよね」
「そうだよね」
少しずつだけど、他愛な話や馬鹿みたいな話をする度に曇っていた二人の表情も微かだが和らいでいくのを感じた。
全くの赤の他人じゃなく、血が繋がっている姉妹だからこそ通じる物があるのかもしれない…。
「…ほんとに貴方が私の妹になるのね」
「…はい。私も貴方がお姉さんだなんて、不思議です」
「姉妹のくせに顔は似てないのね?…私より貴方の方が綺麗で可愛いわ」
「そうですか?でも私はお姉さんの方が綺麗で可愛く見えますよ?」
「お世辞が上手いわね」
お互い笑いを飛ばした。
私は彼女の笑顔に心が癒されていった。
まるで私の心を見透かされてるかの様だった。
そして、私は彼女に手を差し出す事にした。
「これから宜しく」
「はい、ありがとうございます!」
私達は握手を交わした。
お互い緊張のせいか、手汗が凄かった。
「……お姉ちゃん、ありがとう」
咲は愛しそうな眼差しで私を見つめていた。
その見つめてる目からは涙が頬をつたって流れている。
咲は必死に涙を手で拭っていた。
「…咲」
私はそんな彼女を軽く抱き寄せた。
彼女からは心地よい匂いが漂っていて私の心を満たしていた。