第10章 本気の愛
再び、またあの女が現れた。
もう二度と会うはずないと思ってた女なのに…。
目の前に居る一人の女は不気味な笑みを浮かべながら私達の様子を窺っていた。
何故か、胸騒ぎがした…。
恭一との関係が崩れるかもと……不安が頭を過った。
「恭一君、今日は一人じゃないのね?もしかして、彼女?」
「あんたには関係ない。……亜希、行こう」
恭一は私の手を掴み、ぐいっと引っ張った。
その姿を見た女は不愉快に感じたのか、顔を少し歪ませながら私に向けてこう吐き捨てた。
「貴方、恭一君と釣り合ってると思ってるの?」
私の容姿、全てを女は否定した。
流石の私も腹の中、煮えくり返ってる。
けれど、女の言う事も内心は当たってる。
不釣り合いなのは分かってる、でも…
「黙れ。あんたとはもう終わった。彼女の事を悪く言うな。あんたに悪く言う資格もない」
「でも!恭一君だって私に未練あるでしょ?」
「ないよ」
冷めきった態度の恭一に女は少し戸惑いを隠せずにいた。
「もう、良いだろう。二度と現れるな、迷惑だ」
女の思惑通りに行かなかったのか、余裕の笑みから表情は一変、険しく雲っていった。
そして、恭一にしっかりと手を繋がれながら、女の横をすれ違う際、私は微かだったが女の心の叫びが聞こえた。
「このままで済まないわよ」
女の捨て台詞の様な物だが、私は嫌な予感を感じた。
咄嗟に私は恭一の顔をじっと眺めていた。
「どうかした?僕の顔に何か付いてる?」
「えっ?」
「いや、僕の顔をじっと見てるから」
「うん、そうだね。あの……」
「分かってるよ、言いたい事。ごめん、さっきは嫌な思いさせて」
私は黙って首を振った。
そして、恭一は重たい口を開いた。
「話すよ。…さっきの女の人は僕の母親の職場の同僚だった人で良く家に来てたんだ。あの当時は年齢は二十歳だったかな。僕は中学二年だったから、勉強とかも教えて貰ってたよ。それから色々と彼女と話す機会が増えて気付いたら子供なりに彼女の事を好きになっていって、告白した。そして、関係を持ってしまった。勿論、自分の親には内緒で付き合っていた。でもそんな幸せは長く続かなかった。…暫くしてからある現場を目撃してしまった。彼女が違う男性と居てるのを。そう、彼女にとっては僕はただの遊びだった訳さ」
「結局、その後は?」
「その後?勿論、別れたよ。彼女もその男に夢中だったみたいで直ぐ様、別れようって事になった。それっきり連絡もしてないし、会ってもいない。なのに…急に現れて訳も分からない事を…」
私は少し間を置いて訊ねた。
「ねぇ、恭一はまだ彼女が好きなの?」
「…好きじゃないよ。未練もないし」
「ほんと?」
「うん」
私の不安を取り除く為に言ってくれてるの?
本心なの?
嫌なら付き合わないよね?
だけど……
彼の気持ちを信じるしかないけど……。
「ほんとに未練ないの?あんな綺麗な人なのに?流石、イケメンは見る目が違うよね?綺麗な人に弱い訳?」
あっ、私今、気分を害する言い方してる…。
彼の気持ちを疑う訳じゃない。
けど、自分に自信が持てない私は彼に対しての気持ちが空回りしていて、つい感情的になってしまった。
「亜希」
彼に名前を呼ばれただけでも、胸を焦がすぐらい、ドキドキしてるのに…彼は違うの…?
そう思うと涙が溢れて止まらない。
気付いたら、私、恭一の事が凄く好きになってる。
どうしよう、涙が止まんない。
そんな私の涙を恭一は手で拭いながら、
「ごめん。情けない男で」
「何で謝るの?」
「自分の過去のせいで亜希を傷付けたから」
「私は、そんな謝罪の言葉はいらない!私が欲しいのは……」
ギュッ、
恭一が強く、私を抱き締めた。
そして激しく口付けを交わした。
「……好きだ」
それは私が一番欲しかった、待ち望んだ言葉だった。
私の全てを受け入れてくれる人。
感極まった私は彼の頬に軽く口付けをした…。
「恭一、好きです」
私は満面な笑顔を弾け飛ばした。




