□中編:コンタクトの和子
「みんな、ビックリしてたな。驚いた浅倉の間抜け面といったら」
「ウフフ。サプライズ作戦、大成功ね」
週が明けて月曜日のこと。
洗面所にある三面鏡の前で三十分ほど格闘したのち、私はコンタクトデビューした。装着自体は三分と掛かっていないのだが、勇気を奮うのに二十七分ほど掛ったのである。
今まで三つ編みをセットしていた時間を考えれば、プラスマイナスゼロだろう。
「私がコンタクトにするとも思わなかったでしょうし、星くんがメガネを掛けて来るとも思わなかったみたいね」
「だろうな。僕がメガネを掛けてれば、メガネに対する悪口も言えないと思ってさ」
星くんは、私よりも一歩も二歩も先を見据えているらしい。現在時点で手一杯の私には、羨ましい限りだ。
「気持ちを切り替えるにしても、かなりバッサリと切り落としたんだな」
「この顔に合う髪型にってお任せしたら、あれよあれよという間に短くなって、ツイッギーみたいにされちゃったの。長い方が良かったかしら?」
「いいや。輪郭がスッキリして、明るくなった気がする。短い方が似合うよ」
「ありがとう」
私が感謝の気持ちを伝えると、星くんは照れ臭そうにはにかみながら、こう言ったの。
「あのさ。苗字じゃなくて、名前で呼んでくれないかな。星という姓は、あんまり好きじゃないんだ」
「あっ、そうなのね。それじゃあ、えーっと……」
「令一、だよ。覚えてね、和子」
「令一くん、ね。今度から、名前で呼ぶわ」
男子と名前で呼び合うなんて、幼稚園以来じゃないかしら。不意に名前で呼ばれたことに胸を高鳴らせながら、私は、なんとか平生を装って答えた。
変わりたいと思っていても、自分の内面で思っているだけでは、なかなか変われないもの。
だけど、外側からチョットした出来事があると、大きく変わることがある。令一くんは、私にそれを教えてくれたみたい。