ルーパー
11月20日 1週目
通りの街路樹が色づき、街は黄色や赤に彩られている。
木枯らしが吹き、冷たい乾いた風が頬をなでる。
冷気はまるで生き物のように服の隙間から侵入して、僕の身体の熱を奪いにくる。
今日は急に冷え込みが強くなり、薄着で外出した自分を責めたくなった。
そういえば今日、太郎君と道で偶然出会った。
太郎君は白いシャツを一番上までボタンを留め灰色のカーディガンをきてその上にベージュのコートを羽織っている。
薄着で全身黒の服を着ている僕とは違い、街の雰囲気に合った着こなしだ。
太郎君は同じ中学校の同級生で昼休みはサッカーなど、体を動かして遊ぶよりも図書室で読書をするような真面目で大人しい感じの男の子だった。
中学卒業以来、会ってなかったので、約6年ぶりに再会を果たした。
太郎君は偏差値が高いことで有名な大学の物理を専攻にしていると共通の知人から聞いている。
僕達はお互い大学生。
しかし太郎君は落ち着いた大人の雰囲気を醸し出している。
「久しぶりだねー。最近何しているんだい?」
僕は親しげに話しかけた。
「久しぶり。今は○○大の物理学を専攻している。今さっき僕の研究がひと段落したところ。君は?」
「僕は××大。太郎君が行っている大学には遠く及ばないな~。経済学をテキトーにやっているかな」
僕は気後れしたせいで、うつむいてしまう。
ほんとに比べものにならないくらいレベルが違う。
月とスッポンとはこのことだ。
「物理学ってどんなことやっているんだい?」
「僕が特に熱心にやっているのは相対性理論だよ。……あんな美しい数式は夢中にならずにはいられない。」
相対性理論ってなんだっけ?と思いながらも感心したようにうなずく。
それ以前に数式が美しいという感覚は、文系の僕には理解できなかった。
「相対性理論が本当に正しいとするならば、タイムマシンだって実現可能なんだ。僕たちはその可能性について研究し、機械を作成中なんだよ。……実はここだけの話、そのタイムマシンの試作品が今日できたんだ!これが証明できれば、世紀の大発見さ。」
太郎君はよほど売れいいのか、興奮気味に話した。
こんなにテンションが高い太郎君を見たことがない。
「タイムマシンか。……僕には現実的とは思えないよ」
もし、タイムマシンが本当ならば、ノーベル賞ものだろう。
しかし、タイムマシンなんて僕の中じゃ、完全に映画の中のものでしかない。
太郎君のことを疑うわけじゃないが、どこか胡散臭い気がした。
「僕だって最初は疑ったさ。けど、重力や量子力学の関係性、ウラシマ効果を研究するにしたがって、短い時間ならタイムスリップも可能ではないかという結論に至ったんだ!」
「壮大なことを考えるんだね~」
僕は感心したように答える。
真実を確かめようと色々聞いてもよかったが、相対性理論は分からないし、SFのような話にあまり興味がないので話題を変えた。
「ところで私生活はどうだい?太郎君ぐらいの容姿があればガールフレンドぐらい沢山いるだろう?」
「……いないよ。興味がないわけじゃないが、女性となにを話していいのかわからなくてね」
太郎君がそういったので僕は少し得意げになった。
自慢になってしまうが、女性関係には不自由したことはない。
今まで女性にもてるためだけに生きてきたといってもいい。
女性からモテるために、テクニックや振る舞い、女性へのメールの返信を研究してきたからだ。
経済学の研究など二の次だ。
「そんなの簡単さ。まず相手の女性を観察して服装や持ち物、その時やっていることをほめてあげたらいいんだよ。笑顔も忘れずにね。でも身体に関係することは言わないほうがいいな。本当に素敵な女性がいたら、どういう人であれ本気でアタックするんだ」
いかん、また調子に乗って話してしまった。
久しぶりの旧友との再会だというのに、こんな話をしてしまうのも我ながら、どうかと思う。
が、予想に反して太郎君が食いついてくれた。
話を熱心に聞いてくれたことに気を良くして、調子に乗って僕の付き合いたての彼女の話をした。
新しい彼女はカフェで働く店員だった。
黒髪ロングの髪をお団子にまとめ、陶器のような白い肌が印象的で、透明感がある清楚な感じの女の子だった。
僕は一目ぼれし、お店に通い詰め、積極的に自分から話しかけることでやっと交際にこぎつけた。
今日は久しぶりのデートで浮かれっぱなしだ。
「太郎君はこれからどこに行くんだい?」
「僕は研究室の仲間と×○町へ打ち上げに行くんだ」
×○町は県内の最大の歓楽街。
最近ではドラックがはやっていると噂されている物騒な場所だ。
「そっかー。多分大丈夫だと思うけど太郎君、変なところに入り込まないようにね」
僕は軽く注意を促し、太郎君と連絡先を交換して別れた。
僕は彼女とのデートのために頭を切り替えた。
デートの風景を想像しただけでも勝手ににやけてしまう。
ウキウキした気分で足取り軽く、彼女との待ち合わせ場所である時計台の前へと急いだ。
11月20日 2週目
通りの街路樹が色づき、街は黄色や赤に彩られている。
木枯らしが吹き、冷たい乾いた風が頬をなでる。
冷気はまるで生き物のように服の隙間から侵入して、僕の身体の熱を奪いにくる。
今日は急に冷え込みが強くなり薄着で外出した自分を責めたくなった。
そういえば今日、太郎君と道で偶然出会った。
太郎君は黒いシャツを一番上までボタンを留め小豆色のカーディガンをきてその上にベージュのコートを羽織っている。
薄着で全身黒の服を着ている僕とは違い、街の雰囲気に合った着こなしだ。
身なりは落ち着いた印象だが、太郎君はどことなく、そわそわしているように見えた。
僕との6年ぶりの再会に動揺しているのだろうか?
「久しぶりだねー。最近何しているんだい?」
「ああ。○○大で物理専攻しているよ。……変なこと聞くようだけど、昨日、君はこの道を通ったかい?昨日見た気がするんだが……」
「いや、昨日までサークルの仲間と旅行に行っていたからここは通っていないよ」
昨夜まで、仲間たちと隣の県へ旅行に行っていた。
昨日は旅行、今日は彼女とのデートだ。
結構、学生生活をエンジョイしている。
「そうか……夢だった……のか?」
太郎君は変なことを呟いている。
太郎君は中学の頃の同級生で、昼休みには図書室で読書をするような真面目で大人しい感じの男の子だった。
今思えば、あのころから太郎君は周りの友人と比べ少し変わっていたかもしれない。
「大丈夫かい?」
「だ、大丈夫だよ。君は○×大の経済学部だったっけ?」
「!?……なんで知っているんだい?」
僕は目を見開いて驚いた。
僕が通っている大学は県内でも有数の偏差値の低い大学で、恥ずかしさのためあまり人には言ったことがない。学部まで知っている知人は片手で数えるくらいしかいないはずなのだが……
太郎君はそんなに僕のことに興味を持っていたんだろうか?
僕のことが好きだったのだろうかと頭をよぎる。
「いや、風の噂で耳にしてさ」
太郎君は明らかに動揺していた。目がせわしなくキョロキョロと動き、顔が紅潮し、額に汗をかいている。
気味が悪くなり、適当に切りあげたほうがよさそうだと感じた。
「それじゃ、僕はこれから彼女とのデートだからもう行くよ」
「彼女ってもしかして、カフェの?」
言われた瞬間、身の毛がよだち背筋にゾクリと悪寒を感じた。
なぜ、そんなことまで知っているのだ?
僕たちは付き合い始めたばかりで、関係を知っている人間は昨日旅行に一緒に行ったサークルメンバーしかいない。
そのメンバーにしても昨日言ったのだ。
そんなに早く風の噂が広まるほど、僕は有名人ではない。
気味が悪いのを通り越し恐怖を感じた。
僕は太郎君から逃げるように足早に立ち去った。
11月20日 5週目
通りの街路樹が色づき、街は黄色や赤に彩られている。
木枯らしが吹き、冷たい乾いた風が頬をなでる。
冷気はまるで生き物のように服の隙間から侵入して、僕の身体の熱を奪いにくる。
今日は急に冷え込みが強くなり薄着で外出した自分を責めたくなった。
そういえば今日、太郎君と道で偶然出会った。
上下スエット姿で寝起きの姿のようだった。
街の雰囲気とはかけ離れた格好だ。
まあ全身黒い薄着の格好の僕が言う筋合いもないのだが。
太郎君は同じ中学校の同級生で大人しい感じの子だった。
しかし、今の太郎君はどこか興奮していてギラギラしていた。
「久しぶりー」
「やあ。……また会ったね。」
「何言っているんだよ。中学卒業以来だから6年ぶりだろ」
僕は突っ込む。
「ああ、そうだったかな……」
太郎君はあいまいに濁した。
「最近何してんのー?」
僕は砕けた口調で、親しげに話しかける。
「……最近は毎日同じような事ばかりしているよ。何も変化ない日常だね」
そうか。
太郎君は真面目な人間だから型にはまったような生活を送っているのだろうと僕は勝手に推測した。
「結構退屈な毎日だったりする?」
「……退屈どころか大変だよ」
わけがわからない。
太郎君は的を射ない答えをした。
「何かあったの?」
「五日前……いや、昨日か……大学の研究中の機械が暴走して、大変なことが起こった。事態を収拾しようとしているけど、実質、僕しか対応できない状態なんだ。……僕どうしたらいいんだろう?」
太郎君は今にも泣き崩れそうな表情だ。情緒不安定な様子だ。
ここで泣かれても困るからそろそろ引き上げよう。
「そうか。大変なんだね。……何か力になれることがあったら、言ってよ。これ連絡先ね。じゃまた。」
そういって足早に立ち去った。
何か力になれることなどほぼ無いだろうなと思いながら……
11月20日 10週目
通りの街路樹が色づき、街は黄色や赤に彩られている。
木枯らしが吹き、冷たい乾いた風が頬をなでる。
薄着で外出した自分を責めたくなった。
そういえば今日、太郎君と道で偶然出会った。
上下スエット姿で寝起きの姿のようだった。
いくぶん、顔色が悪いように見えた。
太郎君は中学の頃の同級生だ。
「やあ、久しぶりー。何しているの?」
「やあ……久しぶり……だね。今はやるべきことを投げ出してブラブラしている」
太郎君は自嘲気味に顔をゆがめ笑って答える。
こんな子だったっけ?と記憶を探る。
「そうか。まあ、たまには逃げ出すことも大事さ。僕なんか逃げてばかりだからね」
僕は太郎君を励まそうと明るくそう言った。
「はは、ありがとう。君はこれからデート……いや、どこに行くんだい?」
太郎君はデートと言いかけたが、訂正して聞き直してきた。
「ご明察どおり、これから彼女とデートさ。時計台前で待ち合わせしているんだ。俺にもったいないくらいに美人なんだよ~」
自慢げにのろける。
「そうなんだ。ちょっと会ってみたい気もするな」
「だめだめ。太郎君が恋敵になったら僕敵わないし」
太郎君のルックスは悔しいが、カッコイイと認めざるを得ない。
それに頭がいいのだから、鬼に金棒だ。
パッとしない僕がかなうわけない。
「じゃ、楽しんで」
暗い表情のまま太郎君はそういって立ち去った。
11月20日 50週目
通りの街路樹が色づき、街は黄色や赤に彩られている。
木枯らしが吹き、冷たい乾いた風が頬をなでる。
薄着で外出した自分を責めたくなった。
そういえば今日、太郎君と道で偶然出会った。
太郎君は白いシャツを一番上までボタンを留め灰色のカーディガンをきてその上にベージュのコートを羽織っている。
薄着で全身黒の服を着ている僕とは違い、街の雰囲気に合った着こなしだ。
そんなことより、太郎君の隣には見覚えのある女性がいた。
黒髪ロングの髪をお団子にまとめ、陶器のような白い肌が印象的で、透明感がある清楚な感じの女の子だった。
体にピッタリすいつくように黒いセーターを着こなし、体の曲線美を強調している。
この女性は僕の彼女だ。
「ど、どうして……た、太郎君と歩いているんだ?」
僕は頭の中が真っ白になった。
「ふふ、さっき時計台の前であなたが来るのを待っていたら、この人が声かけてきてくれたのよ。すらりとしていて、ハンサムでおまけに頭がいいんだって。甘い言葉に心奪われちゃった。あなたがあまりに熱心で哀れに思ったから付き合ってあげたけど、この人が私にとって運命の人みたい。もう別れて。」
なんて女だ。清楚な外見とは違いこんな尻軽女だったとは。
いや、事の根源はこの太郎にある。
「そんな、あんまりだ。やい、太郎!人の女に手出しやがって。ただじゃおかないぞ」
僕は目から火が出そうなくらい殺気のこもった目で太郎君をにらんだ。
「僕はただ素敵な女性がいたから声をかけただけさ。それに“本当に素敵な人がいたら、どういう人であれアタックしろ“と言ったのは君だぜ」
僕には太郎君とそういう会話をした記憶がない。
しかし、いつも自分の中で唱えている言葉なので言い返す言葉に詰まる。
「彼を選んだのは私よ。あなたが彼を責めるのは間違っているわ」
僕が言葉を探していると彼女が口を出してきた。
彼女に太郎君を擁護されては、もはや太郎君に対して文句が無くなってしまった。
僕は涙を流しながら来た道を引き返し、自宅へ帰って行った。
11月20日 80週目
通りの街路樹が色づき、街は黄色や赤に彩られている。
そういえば今日、太郎君と道で偶然出会った。
目は鋭くひかり、何やら危なげな雰囲気だった。
日があるうちから酒も飲んでいるのか顔が紅潮し、口からアルコールの臭いがした。
中学卒業以来にあったわけだが、当時の彼は物静かで大人しい感じの子だった。
「ひ、ひさしぶり。なんか雰囲気変わったね。」
「ああ、毎日同じことの繰り返しで真面目にやることが馬鹿らしくなっていな。ところで、お前、金貸してくれねーか?」
何たることだ。
約6年ぶりに再会したかと思えば、いきなり金貸せだと?
中学校の頃の太郎君は学校で飼っていた飼育小屋のうさぎに対しても心優しい人間だったではないか。
一体何があったんだろう?
「……悪いけど、僕これからデートだからお金は貸せない」
「そうか。仕方ないな。じゃあいいや。またな」
彼はこれからどこへ行くのだろうと思いながらも、関わらないほうがいいと感じ、見送った。
11月20日 100週目
通りの街路樹が色づき、街は黄色や赤に彩られている。
そういえば今日、太郎君と道で偶然出会った。
眼光は鋭く、何やら危なげな雰囲気をしていた。
僕は太郎君のあまりの変わりように驚き、彼に何があったのか知りたかったが、危険を感じたのでフードで顔を隠しそのまま通り過ぎようとした。
「おい、待てよ。久しぶりの再会でそれはないだろう」
太郎君は僕の肩をつかみ、フードをはぎ取った。
あの心優しい太郎君がこんな乱暴な行動するとは驚いた。
僕が知っている太郎君は、登校中、捨てられた子猫たちを見つけ、学校に連れてきてしまい先生に怒られても、決して再び捨ててこようとせず、最終的に太郎君の家で飼育するほど優しい人だったはずだ。
「悪いけど、金貸してくんない?おっと、デートだとは言わせないぜ。お前の彼女は今日デートには来ないからな。」
何たることだ。何がこんなに太郎君を変えてしまったのだろうか?
いやそんなことより彼女がデートに来ないだと?
「なんでそんなことを……うぐっつ」
僕は口を押えられしゃべれなくなった。
「このやり取り飽きたんだよ。いいから金出せよ」
事の展開に頭の処理が追いつかず、僕は大人しく財布を取り出した。
太郎君は財布をもぎ取り、中身のお札を抜いた。
「やっほい。今日も○×町の風俗行ってくるぜ。じゃな」
僕はその場で立ちすくみ、しばらく呆然とした。
「太郎君……何なんだ……」
僕は彼女のことが気になり待ち合わせ場所へ急いだ。
彼女は待ち合わせ場所である時計台の目にいなかった。
11月20日 300週目
通りの街路樹が色づき、街は黄色や赤に彩られている。
そういえば今日、太郎君と道で偶然出会った。
太郎君の姿は異常だった。目の焦点が合わず、口からよだれが垂れている。
顔からは汗が滲み出て、冬なのに1人だけ汗だくだ。
「太郎君、ドラッグやっているのか……」
僕は信じられないといった様子で太郎君を眺めていた。
最近○×町の歓楽街で若者に出回っているドラックに違いない。
逃げないと……と心の中で叫んだ瞬間、太郎君がこっちに顔を向ける。
太郎君がこちらに向かってどんどん歩いてくる。
目の焦点があっておらず、よたよたと歩いてくる様子はまるで映画の中に出てくるゾンビのようだった。
僕はあまりの恐怖にその場に立ちすくんだ。
「よう、また会ったな。そんな顔するんじゃねえ。俺の姿を見て驚いていんのか?言っておくが俺も好きでこうなったんじゃねえ。毎日毎日同じことの繰り返し、来る日も来る日も同じ場所で同じ人間と同じことを話し、テレビやラジオでも同じ内容だ。こうなった原因である大学の壊れた機械を直そうとしても、次の日には壊れた状態で1日が始まりやがる。相談しても次の日にはみんなすっかり忘れてやがる。この悩みを共感できる人間すらいない。
俺の心は日に日に荒んでいったよ。
女や酒、ドラッグで心の隙間を埋めようとしてももうダメだ。
もう何にも残ってないんだよ!なあ、どうしたら元に戻れるんだ!?教えてくれよ!」
僕は何も答えられなかった。
太郎君の言っていることが理解できないのも理由の一つだが、それ以上に人間の心からの叫びを正面からぶつけられたことが初めてだった。
どう対応してよかったのか僕にはわからなかった。
僕がだまったままでいると、太郎君は僕の傍を通り過ぎ、ゆらゆら歩いて行った。
横断歩道に差し掛かるも、直進し続ける。
その時、歩行者信号は赤色に光っていた。
僕は止めなかった。
いや、この場で僕が何と言おうと太郎君は止まらなかっただろう。
自動車の信号は黄色に変わる。
赤に変わる前に信号を通り過ぎようと大型トラックがスピードを上げる。
衝突音が聞こえる。
僕は太郎君が空に舞い上がるのを見た。
僕には……少し離れていたが……太郎君が一瞬笑ったかのように見えた気がした。
11月21日
太郎君が亡くなった。
全身を強く打ったことによるショック死だ。
太郎君は笑って死んでいた。
“トラックの運転手は業務上過失致死罪になるだろう。“と誰かが話していたのを聞いた。”しかし太郎君がドラッグをやっていたことで減刑されるだろう“とも。
太郎君がドラッグをやっていることは太郎君の周りの人誰一人として知らなかったようだ。
太郎君は真面目で優秀な人柄として周囲の人からも認識されていた。
太郎君は大学の学部の中で常にトップの成績だったらしい。
太郎君が変わった理由と関係があるのか分からないが、太郎君の周りでは不思議なことが起こっていたみたいだ。
たとえば、壊れた花瓶が直り、死んだ金魚が数日間息を吹き返したなど。
太郎君が研究していた相対性理論と理論を応用した機械が関係しているのだろうか。
風の噂で聞いた話によるとその機械はタイムマシンの一種だったらしい……
「君が生きている今日は、昨日の死んだ俺が生きたかった明日だ」
太郎君のことを回想していると後ろから声が聞こえた。
後ろを振り返るとベージュのコートを羽織った見覚えのある男が立っていた……。