主人公はチートです!
<一方その頃>
ヘルティアとリルはイゴイゴを犠牲に捧げた後、盗賊のアジトから逃げ出し、街へと森を歩き続けていた。
「なんとか逃げ切ったようですね」
「あれ?イゴイゴさんは?」
「えっ・・・今更ですか」
どうやらリルは途中でイゴイゴがいなくなっていたことに気がついていなかったようである。
「お兄さんなら私たちを逃がすために囮になると言って盗賊たちに向かって行きました」
「そ、そんな!?イゴイゴさんは大丈夫なのでしょうか?」
イゴイゴは自分たちを守るために囮になった。それを聞いてリルは悲痛な表情を浮かべる。
「そんなに心配しないでもお兄さんは大丈夫ですよ」
「ティアちゃん・・・ティアちゃんの方がつらいはずだよね、ごめんね」
「いえ、大丈夫です。私はお兄さんを信じてますから」
ヘルティアは笑顔で応える。リルはその笑顔に元気をもらったようだ。イゴイゴさんは大丈夫、そう信じてリルは止めていた歩を進めるのであった。
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<逃走中です>
「待てや!ゴラァアア!!」
「ひいぃぃい」
「人が親切に武器を貸してやってんのに投げ返すとはどういう了見だ!!」
「は、話し合いをだな!盗ったものも返したじゃないか!」
武器をもらったから反射的に投げ返してしまったイゴイゴです。現在追いかけてくるお兄さんたちから逃げています。袋に詰めてあったお宝も重いからぶちまけました。後で絶対妹に怒られる。いや、この状況を作ったのも妹だからこれはしょうがない。お互いが悪かったのだ、うん。
「ストーンフォール!」
目の前に大量の岩が落ち、帰り道が塞がれてしまった。
・・・うーむ、非常にまずい。
「これでもう逃げられないぜ」
どうやらもう戦うしかないようだ。こいつらを倒して別の出口を見つけるとしよう。
「俺も逃げるのは飽きてきた頃だ、丁度いい」
「ふっ、やる気か。逃げるだけの男が戦えるのか?」
「ふっ、貴様こそ、追いかけるだけの男であろう?」
「・・・お前は俺が殺す。おいお前ら、こいつ以外にも冒険者が侵入しているはずだ!探して殺してこい!」
集団で襲われるというどうしようもない事態は避けられそうだ。対人での戦闘は久しぶりである。こいつは俺を雑魚だと思って油断している。その油断が命取りだということを教えてやる!
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<イゴイゴの戦い方>
「妹たちに心配はかけたくないからな、一瞬でカタをつけてやるよ」
「・・・お前、本気で俺に勝とうと思っているのか?」
「当たり前だろ、バカなのか」
戦う前から諦めるやつなどいない。相手がどんなに強くてもどこかに勝機はあるはずだ。それにこいつ、そこまで強いとは思えない。盗賊の頭で魔法が使えるといっても、所詮は盗賊である。
「チッ、剣も持たない、魔法も使えない雑魚がどうやって戦うって言うんだ?」
「拳だ、拳があれば十分だ」
人間、最終的には拳こそが最強なのだ。正直まだ俺は最終形態な訳ではないので剣とか魔法とか欲しいところではある。あ、長剣は使えないので短剣の方でお願いします。
「バカやろうが、さっさと殺してやるよ」
そう言いながら相手が突っ込んでくる。
勝負はおそらく一瞬である。あちらの獲物は右手に持った長剣、こちらの獲物は己の拳、距離を取られればリーチの差で確実に負ける。だからこそ、
「なっ!?」
「突っ込む!」
近づいて思いっきり殴る!!
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<主人公はチートである>
「ぐはっ!」
「・・・・・・」
拳が盗賊の顔面に突き刺さり、吹き飛んでいく。どうやらこちらに突っ込んでくるとは思っていなかったようである。作戦はとりあえず成功と言っていい。そしてこの作戦が成功した今、もうすでに俺の勝利が見えていた。
「ふっ、まさか左手を犠牲にしてくるとはな・・・随分と安い対価じゃないか?」
「お前のその顔をぶん殴れたのだから対価としては十分だ」
俺の左手があった場所から血が溢れ出す。そこにはもう腕はなかった。切られてどこかに吹っ飛んでいったようだ。素晴らしくグロい。そして痛い。もう目も当てられない状態である。
「だが、ここからどうするつもりだ?一発殴れたから十分か?」
「ああ、もう十分だ。準備は整った」
俺は歩きながら位置を調整する。位置、角度、最高のポジションだ。
「・・・どこに行く気だ?」
「もう間もなく、お前は死ぬ」
「・・・なんだと?」
「お前の失敗は俺を相手にしたこと。相手にした時点で、もう負けてるんだよ」
「グフッ!?・・・な、なにが・・・?」
「さようならだ」
今はない左腕を前に突き出す。その時点ですでに、盗賊の男は息絶えていた。その胸には穴が空いていた。位置はちょうど心臓のあたり、心臓を潰され即死である。
対人戦は負けなしだな。さすが俺。チートだ。