依頼ですよ!お兄様!
<気配>
「邪悪な気配がする・・・妹よ、慎重に進むぞ」
「・・・街の外に出たばかりですよ」
リナに紹介された依頼はとある植物の捕獲であった。
ん?植物なのになんで捕獲かって?
今回依頼されたストロングベリー、その名の通りストロングなベリーである。
とにかく飛んでくる。
飛んできたものを捕まえる。
地面に落としてしまったら腐ってしまうという厄介極まりない代物だ。
「そういうわけで妹よ、今回は慎重に進むぞ」
「昔急所を強打されてからトラウマですもんね」
思い出しただけでもゾッとする。
突然ボンっと音がして、次の瞬間には立ち上がれないほどの痛みを受けたのである。
そう、あれはたしか駆け出しの冒険者の頃
「今も駆け出しですけどね」
たしか今と同じような道を歩いていた時だ
「あ、お兄さんそこは危ないですよ」
「えっ?」
飛び出してきたのは赤い身。狙うは我が急所。
このあとしばらく動けなかった。
「ナイスキャッチですけど、さすがにこれは納品できないですね」
妹よ、感想はいいので助けてくれ。
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<依頼達成?>
その後は特に何のトラブルもなく順調にストロングベリーを捕獲していった。
自らこちらに飛んできてくれるのでタイミングさえわかれば実に簡単に捕獲できる。
妹に飛んでいく速度が遅いのと、俺に飛んでくる速度が速いのは少し気になったところではあるが。
「まともに依頼達成したのって今回が初じゃないですか?」
「たしかにな、毎回何かしらのトラブルに巻き込まれて依頼失敗するからなー」
「討伐依頼以外は」
「あれもトラブルなんだよ、自分が妙に弱くなる」
「元々です」
「あ、はい」
簡単な依頼にはトラブルは付き物である。
付き物であっては困るのだが、こういう時は必ず何かが起こる。
例えば目の前に強いモンスターが現れたり、お姫様がさらわれたり、同業者がモンスターに襲われたり
「きゃー、たすけてー」
「・・・なにやってんだ?」
「いや、お兄さんだったら同じ冒険者の女の子の悲鳴が聞こえて、それを颯爽と自分が助けるイメージでもしているんだろうなーと思いまして」
「格好いいだろ」
「もふもふウルフより弱い敵だといいですね」
「くっ・・・」
もふもふウルフは強かったのだ。
もふもふが邪魔だったしもふもふしてきたしもふもふが飛んできたし。
とにかく、やつと戦っているともふもふが・・・
「キャー!!」
悲鳴が聞こえた。距離はそう遠くない。
しかし近すぎてもいない、すなわち妹ではない。
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<危険>
「行きましょう、お兄さんの大好きな女の子です」
妹は俺をどんな兄だと思っているのか一度問いただしたい。
しかし今はそんな余裕はない。
「ああ、お前はここで待っていてくれ」
「嫌です」
妹はじっとこちらを見てくる。
急がなければいけない。
一刻の猶予もない。
だが譲れない。これだけは譲れないのだ。
「ヘルティア、ここで待っていろ」
「力の制御はもう大丈夫です、暴走しません」
「そういう問題じゃ・・・「それに!」・・・」
「ここにいた方が危険です・・・一人の方が、嫌です」
・・・さっき譲れないと言ったが、あれは嘘だ。
譲ろう、譲るしかないだろう。
妹をこれ以上悲しませるわけにはいかない。
「一緒にいくぞ、妹よ」
「・・・ありがとうございます」
「相手が人間だったら逃げろよ」
「わかってますよ、お兄さん」
さて、早く助けに行かないとな。
「素敵ですよ、お兄さん」
「ちょろい兄貴だ、なんて思ってないよな?」
「素敵ですよ、お兄さん」
「おい」
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<戦闘>
相手の動きを見て、躱す。
敵は複数、視点を固定してはダメだ。
奴らは素早い、一瞬の油断が命取りである。
躱す、躱す、躱す。
一瞬の隙をつき、やつの腹に拳を打ち込む。
「何やってんの!かわいそうでしょ!」
「きゃー!もふもふ可愛すぎ!」
何故だ、何故こうなった。
俺は彼女らを助けに行ったはず。
なのに何故彼女らは敵になっている。
なるほど、これが敵の罠か。
もふもふ風情がなかなか姑息なことをやるではないか。
「お兄さーん、早く帰りますよー」
「助けてください妹様」
「もふもふウルフは男性しか攻撃しません。ウルフにとっては人間のオスとの力比べなのでしょう。それに女性が関わるわけにはいかないのです」
「わんころ風情が人間様と力比べとは笑わせる」
「お兄さんにとってはリベンジマッチですけどね」
・・・・・・わんころ強い。
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<予感>
もふもふウルフから逃げ切った俺はストロングベリーを捕獲していた場所に戻っていた。
「嫌な予感、嫌な予感がするぞ妹よ」
「突然どうしたんですか?」
嫌な予感である。
トラブルに巻き込まれた。
大丈夫か!と颯爽と登場したのにひどい扱いを受けた。
もうこれ以上不幸に巻き込まれはしないと思うが嫌な予感がするのである。
「もふもふと戦い一時間、ストロングベリーは残っているのか?」
「大丈夫でしょう、野生の動物たちはストロングベリーには近づきませんし」
「野生の動物たちはな・・・」
「ほら、カゴが残ってますよ。大丈夫そうです」
世の中にはひどい奴らがいるもんさ。
対して価値もないが苦労して集めたストロングベリーである。
「ないな」
「ないですね」
「・・・帰るか」
「帰りましょう」
依頼未達成。
後日、改めてストロングベリーを捕獲したのであった。