Episode-1
私の名前は市原春花。春から高校生になった、ピッチピチの15歳だ。
入学式の前の集まりで、皆とLINKという連絡ツールアプリで連絡先を交換していたから、みんなとはもう仲良しだ。
けどやっぱり、LINKを使っていないから、まだあんまり話を出来ていない子もいる。
でもそんな子達も、何とかして自分も入っていこうとする子もいる。その逆で、ずっと本を読んでいる子や、寝ている子もいる。塾の宿題だろうか、勉強をしている子も。
でも、春花が気になったのは、スマホをずっといじている男の子だ。LINKができる環境下にあるのに、見たことがない。そして、最初の集まりでも。
気になった春花は、その男の子に声をかけてみることにした。
「ねぇ、何してるの?」
すると、男の子は一瞬肩をビクッとさせこちらを向いた。
「もしかして、僕に言った?」
その子はうんざりげにこちらをむいて、そう言った。
「あ、ごめんね?最初の集まりにいなかったなって思って。で、何してるの?」
「え?あ。あぁ。今ネットで話題になってる『終点男』ってやつのニュース見てたんだ。」
「終点男?・・ってどんな人なの?」
「正確には男かも、人かもわからない。とあるSNSに『終点はまだ来ない。終りを決めるのは、君たちじゃない。僕だからだ』って呟いたんだ。その直後から、異変が起き始めたんだよね。」
「異変?それってどんな・・・」
「はい、みんな席座って。ホームルームはじめるよ」
その言葉を合図に、みんな席に着き始める。
「また後でね。あ、そうだ、私は市原春花。あなたは?」
「・・・岡峰京。」
「そっか、ありがと!」
そう言って、春花は自分の席に戻った。
先生が点呼している。そんな当たり前になりつつある風景が、退屈になってきた。あぁ、こんな風景、どこかに行ってしまったらいいのに・・・。そんな心の声が届いてくる。あぁ、こんな子の願いまで聞き入れようとする僕の雇い主は大丈夫だろうか?確かに力を手に入れたのはあの人のおかげだ。
大金とともに能力を得られる、その代わりにその人が願いを聞き入れようとさせた奴の嫌なことに終点を迎えさせる、といったものだった。
能力とともに大金が手に入る。こんなうまい話はないと、僕は二つ返事でOKした。
「そこまでは良かったんだが・・・」
雇い主はお人好しなのか、自業自得なことや、そんなことどうしようもないだろう、という人の心ばかり連れてくる。
そのぶん給料も出るのでありがたいと言いえばありがたいのだが・・・
「やっぱり人の人生の一部を勝手に改変するのは気が引けるなぁ。」
そう、終わらせるといっても、嫌に思っていることの一部、それを改変してやるのだ。
ただ、その代償は大きく、7割近くの確率で死んでしまう。
理由はわからないが、なぜだかそんな代償があるらしい。
まぁ変えている僕からしたら、金が入るからどうでもいいんだけど。
さて、今日も仕事をしよう。
なぜだろう、胸騒ぎがする。
今の気持ちのままを保っていたらダメだ。
そんな声が聞こえるような気もする。
じゃあどうすれば?
わからない。
嫌だ。
死んでしまうかもしれない。
そんな不安が頭をよぎる。
いや、まだ嫌だ。
そんな春花を見たのか、京が来た。
クラスがざわざわするのも気にせずに。
「大丈夫。落ち着いて。深呼吸をするんだ。」
春花は落ち着いて京の言う通りにする。
「じゃあ次に、心の中を空っぽにするんだ。」
「そんなこと、できないよ・・・」
「大丈夫。君ならできるさ。強い信念を持って。ほら、大丈夫。」
「わ、わかった・・・。」
目をつぶって言われたように、強く念じる。
ふと、手に仄かな温かみを感じる。
あぁ、なんだか落ち着くな。これなら、何も怖くない。
~数分後~
「ふぅ・・・」
「どう?落ち着いた?」
「うん。ありがとう。」
「そっか。でも、一応保健室に行こう?」
「うん。」
そうして、春花は京の手を取り、保健室へと向かった。
「あれ?」
男は異変に気づく。今回の対象の心から、先程のような気持ちが消えている。
男は雇い主にこのことを伝えようと思ったが。
「まー、いっか!」
とお高らかに声を上げ、次の依頼が入るまでの間、居眠りをした。
~保健室に着くまでの会話~
「あ、そうだ岡峰くん」
「ん?」
急に会話を振られたので、今日は少々驚きがちに応答した。
「異変って言ってたけど、どんなやつなの?」
「あぁ、その件ね。これまでで報告されたので、あの発言以来死亡者数が一気に増えたこと。」
「えっ、それって・・・」
春花の背中が一気に冷える。
「ん?どうしたの?」
京が春花の顔を覗き込んで聞く。
「あ、うん。えっとね」
春花は自分に起きたことを事細かに話した。
「なるほど・・・でも、君の身には何もなかった。」
「もしかしたら何か関係が?」
春花が不安げに尋ねる。
京は少し思案した後
「まぁ気にしなくても大丈夫だよ。」
と、にこやかな笑顔でそう言った。