無職だけど異世界食堂で謙虚に成り上がり奴隷ハーレムでヒモ生活って、それはないでしょう!
ネット世界では様々な小説サイトが存在している。
その中には、「転生」「異世界トリップ」「ハーレム」という三つの強大なジャンルに支配される――そんな異質な特性を持つサイトがあった。
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通称、「小説家になろう」
そして、その裏にはもう一つの世界が存在する。それは、全てのユーザーの暗黙の了解となっていた。
ユーザーの創り上げたキャラクターたちは、その世界で「小説」を供給源とした「pt」とよばれるエネルギーを使い、様々な手段に用いる。
例えば、
「撤退しろ。夕方のアクセスピークにまた戻る」
ハッキリとした、そして重圧感のある声が響き渡る。
その声を聞いて、すぐに俺は身を低めながら、声の主に近づく。
「撤退!? まだ、ptは残ってるだろ!」
「だめだ。我々の主は『期末試験』に追われている。ここでptを使いすぎると、主の精神が崩壊する可能性がある」
真っ黒なローブに身をまとい、顔も見せない男。彼は、すべての「なろうユーザー」に支給される「サポーター」だ。
彼らは俺たちの主――要するに俺たちの創造者である作者の意向と状況を正確に読み取り、俺たち「キャラクター」に伝える役目を持っている。
彼の言葉は、俺たちの主と同等。絶対厳守だ。
「くそっ! 無職◯生め! あそこまで強大な文章量とお気に入り数を持っていたとは……。攻撃開始から数秒で絶体絶命じゃないか!」
思いっきり地面に拳を叩きつけ、叫ぶ。
俺は、レイン・サイフラ。
あるユーザーに創造されたキャラクターの一人だ。
「機械じかけの悪魔」で主人公を受け持っているが、給料は良くない。俗にいう、社畜だ。
「レイン! まだここにいるの!? そろそろ、ptの結界が持たないわ! 逃げて!」
さらさらな金髪を腰まで伸ばし、エメラルドのような深い輝きを放つ瞳を持つ少女。
彼女は、アイリス・ベルヴァルトだ。
同じ作品でヒロインをしている。
彼女は両手を前に突き出すと、一気に結界を張り出す。
アイリスが「くっ」と苦痛の声を漏らすと、サポーターが口を開いた。
「だめだ。今の結界で27ptは消費した」
それを聞いたモブキャラたちが混乱を始め、口々に言い出す。
「あぁ! 終わりだよ!」
「うちの作者は無名だしな! あんな有名作家に勝てるはずがあるか!」
「もう、やめましょうよ!」
「——黙れ!」
俺の声が響くと、モブキャラたちは黙りこくる。
しかし、その制止も長くは続かなかった。
「おい。後方から『盾の◯者の成り上がり』の大部隊が接近しているぞ? 俺たちの主が紹介文でも頼んだのか?」
「――なっ!」
すぐにタブレットを取り出し、主のメッセージ履歴を調べる。
「ちがう! 挟まれたぞ! どっちも敵だ!」
ほとんどのモブキャラが座り込む。
もうだめだ、と言わんばかりの顔をして泣き出す者もいる。
追撃は終わらない。
キャラ全員の携帯端末がけたたましく鳴り響く。
「次は何だ!」
「匿名掲示板——2chが炎上してるそうです! 『炎上商法乙』『ヒドイなw』『宣伝かよw』『あずにゃんは俺の嫁』などと攻められております!」
どうする?
2chとはいわば、民衆の意。彼らが特殊作戦コード「祭り」を展開した場合——四方八方が敵だらけになる。
「pt切れまで、25pt、22pt、20pt――」
サポーターがカウントダウンを開始し始めた。
これが0になる事が意味するのは――俺たちの主の精神崩壊。そして、作品の連載中止。
俺たちが消えることになる。
「くっそぉ! アイリス! 逆お気に入りユーザーに支援要請を出せ! 俺は、Twitterで宣伝をする!」
「わかったわ」
アイリスが通信機を耳に当て、支援要請を開始する。
それを見て、すぐにモブキャラたちに司令を下す。
「お前ら! キーワードタグに『ハーレム』と『転生』を追加しろ!」
「えっ? でも、『機械じかけの悪魔』はそんな要素ありませんよ?」
「うるさい! 一時的なだけだ!」
できる限り早く!
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↑ツイートボタンをタップし、宣伝作戦を展開する。
同時に、アイリスの支援要請も完了したそうだ。
《こちらは無職◯生の本隊である。直ちに降伏しろ。我々は40000以上のお気に入りと15万ptの総合評価を備えている。繰り返す、直ちに降伏しろ》
くそっ。これが累計一位の輝き!
格が違う……。ジョークのセンスから文体の美しさまで全てが格違いだ!
もう終わりなのか……?
「よし。深夜3時に入った。逃走ルートを確保したぞ。今なら逃げられる」
サポーターの声に合わせてTwitterを確認する。3リツイートがされていた。
感謝の意を込めて、敬礼をする。
「撤退だ! 逃走に使って良いptは一人0.5ptまで! 必要最低限のキャラ設定を持っていけ! いいな?」
***
「逃げ切れた、ようね?」
何人やられたのだろうか? 生き残ったキャラ達が息を切らして座り込んでいる。
ここは、マイページ――俺たちの本拠地だ。
『貴官らの武運を祈る』
サポーターの声が無機質なものへと変わり、シュッとどこかへ消える。
「主は最近、荒れているのではないのか? 累計作品に手を出すなど正気の沙汰ではないぞ……」
銀髪の少年が息を切らしながら、腰の刀に手を触れている。
彼は、ライル。
同作品での知り合いだ。とんでもない刀使いだが、累計作品の前では刀を抜くことすら出来なかったそうだ。
「どうせ、クリスマスがボッチだったのに嫌気が差したんだろ。くそ作者が。自分のキャラクターに苦労させやがって。だから、いつまで経っても俺たちはマイナー作品のキャラなんだよ」
愚痴をグチグチと言いながら、アクセス解析を覗く。
「また、アクセスが減ったな」
そして愚痴をまたポツリとこぼす。
そろそろ、この作品も連載中止なのか?
《警報――警報です》
一気にマイページが赤く染まる。
何が起きた?
「主人公! 作品がダメージを受けてるそうです!」
モブキャラの少年が背筋を伸ばして、報告をする。
「原因は?」
「我らの主が、彼のカーチャンに『小説なんて書いてないで勉強しなさい』と怒られたそうで、連載中止の可能性が78%にまで跳ね上がりました!」
「ちくしょう!」
やばい。
これで主が連載をやめたら、俺たちが消えるだけでなく、既存の読者にまで失礼になる!
「……パクるわよ」
アイリスが拳を握りしめて、呟く。
周りのキャラ達が一気にアイリスを見た。
「おい……。どういうことだよ……」
「今は、一時的なアクセスで主の機嫌を取る必要があるもの……。『無職だけど異世界食堂で謙虚に成り上がり奴隷ハーレムでヒモ生活って、それはないでしょう!』という感じの題名にしておきましょう」
まじかよ……。
アイリスも目尻に涙をためている。苦渋の決断なんだろう。
「叩かれるぞ?」
「炎上商法よ」
「感想欄で怒られたら?」
「その場合は……『こちらは『小説家になろう』自動応答システムです。〇〇様のコメントされた作者は現在、留守にしているか電波の通らない場所にいる可能性があります。ピーという電子音の後にメッセージを残して下さい』とでも返しておけば収まるはずよ」
沈黙。
お互いが顔を伺い合っている。
いいのか? 人としていいのか? いや、待てよ。
「よく考えたら。それ、累計組からの総攻撃を受けるだろ。俺たちはこれ以上、防衛ラインのためにptを注げないんだぞ?」
「……そうね。ちょっと、変な事を言っちゃったかも。ごめんなさい」
アイリスの肩を掴み、話しかける。
「俺たちは、例えどんな戦力差でも抵抗を続ける。例え読者が一人だけになっても、俺たちはその一人のために連載を続ける。そうだろう?」
その言葉に反応してモブキャラが喝采の声を上げ、拳を突き上げる。
「そうよ。連載中止されてたまるもんですか! 主もわかってくれるはずよ!」
『最終話まで安月給で働いてやる!』
――俺たちは累計作品に挑み続ける――
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【隣人の部屋】
「なんか、うるさいですね。お隣さん?」
「あぁ。どっかの無名作家の部屋だったな。たしか……『機械じかけの悪魔』の部屋だな。あいつら、うるさいんだよ」
「はははっ! 我々、書籍組には関係ない話ですよ」
「だな!」
お茶すする音が部屋に響く。




