自警団
張り詰めた沈黙の中、誰も口を開くことなく、暗い森の奥をただ歩いていく。容赦なく踏み潰される枯葉の音、夜風に揺らされてざわめく葉音、遠くで不気味に響く夜鷹の声……。
それらの環境音だけが、重苦しい空気を満たしていた。
しばらく歩いたところで、前方を歩いていた、縛られている男がぼそりと口を開いた。
「……さっきは、本気で危なかったな」
男は歩きながら、くるりとメアリーの方へ身体を向け、深く頭を下げた。
「ありがとな、お嬢ちゃん」
「……どういうことだ?」
俺が低く尋ねると、男は再び前方へ向き直り、歩みを止めずに話し始めた。
「あいつら、自警団だよ。知らねえのか?」
「ああ。名前くらいはな。保安官とは別に、法の手が届かない場所で犯罪者を捕まえる集団、としか聞いていないが」
「それだけじゃない」
メアリーが、ピタリと足を止めた。ハットの庇を深く引き下げ、彼女は重い口を開く。
「ジェイクたちの自警団は、特殊なんだ。……犯罪者によって、家族や愛する者を惨殺された連中ばかりを集めて、身内で固めている」
「……家族を殺された被害者の会、か。それの何が悪いんだ?」
「犯罪者に対しての、怨嗟の強さが桁違いなんだよ」
メアリーの声が、微かに震える。
「あいつらはね、捕まえた悪党に『しけい』を下すんだ」
「死刑……? 国の法律を無視して、処刑しているということか」
「違う。法律の死刑じゃない。――『私刑』だ。自分たちが勝手に決めた刑罰さ」
メアリーの言葉を奪うように、捕虜の男がガタガタと歯を鳴らしながら言葉を継いだ。
「あいつらはな、捕まえた人間をすぐには殺さねえんだよ。死なないギリギリのラインを見極めながら、何日も、何週間も痛めつける。苦しんで、絶叫して、許しを請いながら死んでいくのを、楽しむように殺すんだ……。自分たちの復讐に、正当性があるかのように見せかけてな」
男は深い溜息をつき、自らの傷口の痛みを忘れたかのような安堵の表情を浮かべた。
「ほんと、あいつらに見つかる前に、あんたたちにボコボコにされて捕まって良かったよ……」
メアリーは月光に照らされた夜の地面を見つめたまま、小さく呟いた。
「だから、あいつらにだけは犯罪者を渡せない。あいつらより先に、どんな悪党だろうと私が身柄を確保しなきゃいけないんだ。
……罪を犯したなら法で裁かれるべき。必要以上の痛みなんて、誰にもいらないんだよ」
彼女の芯のある言葉が、夜の森に静かに染み込んでいく。それからまた、誰からともなく歩き始め、しばらく心地のよい沈黙が続いた。
メアリーの賞金稼ぎとしての覚悟、そしてジェイクたち自警団の恐ろしさ。それらを頭の中で整理しながら、俺は一歩、また一歩と森の泥を踏みしめ――。
そして、気づいてしまった。自分の足元で、不自然にパタパタと揺れる、安っぽいレースのフリルに。
ずっと。酒場から森の激闘、そしてさっきのジェイクとの命がけの対峙に至るまで。
俺は、この金髪がなびく頭に、パツパツのフリル付きお姫様ドレスを着たままだった。そんな格好で、地面に踵落としを決め、凄みのある男たちを睨みつけ、今また『国の法律が~』などと、大真面目にシリアスな会話を繰り広げていたのだ。
すっと血の気が引いていくのが分かった。冷や汗がドレスの背中を濡らす。荒野の夜風が、無駄に露出した俺のデコルテを、冷酷なほど涼しく吹き抜けていった。もう、死にたいくらいに恥ずかしくなった。




