アーシュ③
翌朝。
トニーはあくびをしながら部屋のドアを開けた。
一階の酒場はまだ開店前で薄暗い。そこに人影があった。金髪の髪を一つに結び、ブーツを履き、ライフルを慣れた手つきで装着していく。
メアリー……とはどこか雰囲気が違う。アーシュ?いや、あんな格好しないよな……
「まさか三つ子!?」
「いや、アーシュよ」
つい口に出してしまった。横には洗濯物を抱えているメアリーが立っている。
「おはよう。昨日はよく眠れた?」
「ああ……で、あれがアーシュ?」
「アーシュ!!」
メアリーが声を掛けるとアーシュがくるりと振り返った。
「あれ?トニーさんだ!おはよ!」
袖をまくっており腕の筋肉がよく見える。化粧を落としているが美形なのには変わりない。
トニーには笑顔で挨拶するアーシュが光り輝いてさえ見える。
小声でメアリーに話し掛ける。
「ありゃ女にモテるだろ……、俺なんかよりずっと」
「ハハ……女装すれば男が寄ってきて、正装すれば女が寄ってくる感じかな」
「でもあいつ男が好きなんじゃ……」
「好きよ、でも女の子も好きなんだって。
男女平等に愛すんだ〜って昔からよく言ってた」
アーシュは背を向け軽く手を振り外に出て行った。
外では女たちがアーシュを見つけ集まってくる。
「アーシュ〜今日は私のとこ来て〜」
「あたしのとこに来てくれるよね〜」
「どうしよっかな〜。俺昨日フラレたばっかりだから今日は激しいよ〜」
とからかうように微笑む。
キャーーという女たちの声。
「イイな……」
ぼそっとつぶやくトニー。
その夜、
「あーーーー疲れたーーー!!」
と、酒場のカウンターにどっと倒れ込むアーシュ。
「だいぶ疲れてんな〜」
とトニーがグラスを片手にフランを覗き込む。
「誰のせいだと思ってんだよ!!おまえらだよ!!」
「え?俺たち?」
「女の子たちが集まってきて、あの長髪は誰だとか、ふわふわの髪の可愛い男の子紹介してとか、
もう、うるさくてうるさくて仕事やりづれえったらありゃしない」
メアリーが通りかかりながら声を掛けてくる。
「あれー?今日はどこの家にも行かないの?」
「行かねえよ!!もうそんな元気ねえよ〜」
その時、裏口から女の子が入って来た。
茶髪で化粧っ気のない素朴な女の子。
「メアリーさん久しぶり〜!帰って来たって聞いてお菓子作って持って来たよ〜」
「ミア!久しぶりね!元気だった?」
ミアと呼ばれた娘はアーシュの方へ声を掛ける。
「アーシュ!酒場の人がツケ払ってないって怒ってたよ〜」
アーシュが面倒くさそうな態度を見せる。
「うっせ〜な〜。静かにしてくれよ疲れてるんだから〜」
ミアはメアリーと軽く世間話をして帰って行った。
トニーが不思議そうな顔をする。
「アーシュは女の子全員にいい顔すると思ってたけど、さっきの子には違うんだな」
メアリーがニヤニヤしながらアーシュに顔を近付ける。
「だって、本命だもんね」
アーシュが酒を吹き出す。
「ち、違うし!!本命とかいないから!!
何言ってんだよ、メアリー!」
「本命にはなかなか手を出せないのよねー」
メアリーが意地悪そうに続ける。
フランが突然現れ、アーシュの肩を組む。
「わかるよ〜本命には手を出せないよな〜」
トニーが呆れた顔をしている。
「いやお前は結構手ぇ出してると思うけど」
アーシュが思い出したように話し出す。
「いつまでいるの?」
「まだ正確には決めてないけど……
あ!俺たちのせいで疲れさせたよな。早めがいいなら……」
アーシュはカウンターにうつ伏せになる。
「いや、ずっといて欲しいなって……
メアリーが心許してる人たちってこんな居心地いいって知らなかった……」
それだけ言うと寝てしまった。
メアリーがそれに気づく。
「トニー、悪いけど部屋までアーシュ運んで〜」
「ああ」と言いながら抱き上げる。
顔を見るとメアリーに良く似ていた。
後ろからひょこっとフランが顔を出す。
「欲情しないでくださいね」
意地悪そうな顔で囁く。
「誰がするかよっ!」
トニーは間髪入れず答えた。




