メアリーの思惑
「いい加減にしろよ!」
私を置き去りにしてどんどん進んでいく男たちの話に、ついに堪忍袋の緒が切れて声を荒らげた。
トニーとウェインが、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で一斉にこちらを振り返る。
いやいや、驚きたいのはこっちの方だ。なんで私が、見ず知らずの保安官なんかと勝手に一緒に旅をすることになっているんだ。だいたい、お堅い法律の番人と賞金稼ぎなんて相性が悪すぎる。
……いや、待てよ? 出かかった文句を喉の奥で飲み込み、私はハットの庇の下で目を細めた。
これまで、たった一人で荒野を渡り歩くのがどれほど過酷だったか。その苦労は身に染みている。だが、もしこの男を連れて行けばどうだ? 腕っぷしは確かだし、移動式の頑丈なボディーガードとして使える。
それどころか、賞金首の捕縛を手伝わせることもできるはずだ。普段なら一人で手に負えない大物を狙う時、分け前を払って荒くれ者を雇っていたが、この男なら『タダ』で、しかも裏切られる心配もなくこき使えるんじゃないか?
それに、野宿の夜だ。いつもなら野盗や飢えた肉食動物の影に怯え、一晩中神経を張り詰めて浅い眠りしか取れなかった。だが、この大男に見張りを押し付けておけば、私は毛布の中で泥のようにぐっすり眠れる。
……悪くない。いや、むしろ最高の条件じゃないか。
計算が終わった瞬間、私の唇の端が自然とニヤリと吊り上がった。
バンッ! と、勢いよく机を叩いて立ち上がる。
「保安官! よろしく! 一緒に行こう!」
「あ、ああ……!」
突然の私の手のひら返しに、トニーは面食らったように瞬きをしたが、すぐに嬉しそうに破顔した。
差し出された私の手を、彼は大きな手のひらでがっしりと握り返し、力強い握手を交わす。その後ろで、ウェインが「本当に大丈夫かこの女……」と言いたげな、この世の終わりみたいな顔でこちらを見つめていた。
本当なら、この泣き虫な副官もトランクの荷物持ち用に連れていきたいところだが、リーダーの仕事を押し付けられたばかりだから動かないだろう。
少し街の扱いに慣れた頃を見計らって、後から引きずり出すことにしよう。
その後、トニーは胸元に光る銀の保安官バッジに手をかけた。ピンが外され、彼の手のひらの上でバッジが冷たい光を放つ。トニーはその重みを確かめるように一瞬だけ視線を落とすと、ウェインの震える両手の中へ、それを優しく包み込むように渡した。
「俺がいつか気が変わって、また保安官をやりたくなったその時まで、これを預かっておいてくれ」
ウェインはもう言葉にもならず、ボロボロと涙をこぼしながら、何度も何度も激しく頷いていた。
その後、トニーの突然の退職にざわめく他の保安官たちの同意も、トニーの圧倒的なカリスマ性と、ウェインの必死の取りなしでなんとか取り付けることができた。こうして、元保安官と、彼をタダ働きさせる気満々のカウガールは、保安官事務所を後にした。




