戦い方
鼓膜を震わせた銃弾は、トニーの左頬の皮膚を容赦なく引き裂いて背後の巨木へと着弾した。じわりと、熱い鮮血が顎のラインを伝って流れ落ちる。
「あれ~? おかしいな、当たんなかったか〜」
頭をポリポリとだらしなく掻きながら、草むらを分けて一人の男が近づいてきた。鼻を突くのは、安酒と泥にまみれた強烈な体臭だ。男の後ろの暗がりから、さらに数人の不気味な足音と歪んだ笑い声が続く。
追随する別の男が、ひどく落胆したような声を上げた。
「なんだよ、女じゃねえのかよ~」
トニーは背中に腕を回し、恐怖で硬直しているジョンをさっと自分の身体の影へ隠した。
どうする……。俺が囮になって、ジョンだけを走らせるか……?
最悪の思考が脳裏をよぎるが、即座にそれを打ち消した。この生きた迷宮のような森の中だ、五歳の子供を一人にすれば、敵の手を逃れたとしても確実に飢えと寒さで命を落とす。
その時、近づいてきた男たちの濁った瞳が、トニーの顔の造作を捉えてギラリと細められた。
「あれ……? 待てよ、お前、いつかの街にいた保安官じゃねえか!」
男はぐいと、吐息が触れるほどの距離まで顔を近づけてくる。
「おい、あの時、俺の腕を完璧に撃ち抜いたクソガキは一緒じゃねえのか? あいつのお陰で、俺の片腕は今でも使いにくくて不便してんだよなぁ……!」
男はフンと鼻で笑い、トニーの額へ向けて容赦なく銃口を突きつけた。
「まあいいや。お前だけでも、ここで大人しく殺しとくか」
男の指が引き金にかかり、じわりと力が込められたまさにその瞬間――。
男たちの背後の闇から、肉を引き裂くような『パァン!』という鋭い破裂音が轟いた。それと同時に、銃口を向けていた男の身体が、糸を切られた人形のようにドサリと地面へ崩れ落ちる。
「あ、いたいた〜」
「トニーさん、探しましたよ〜?」
緊迫した森の空気を切り裂いて響いたのは、あまりにも場違いで、そして信じられないほど明るい二人の声だった。
「なんだてめえら!!」
「……っ、あの時の、クソガキか――!!」
状況を把握しかねた無法者たちが、一斉に新手の二人へと銃口を転じる。トニーも彼らを援護すべく、腰の銃へと手を伸ばした。
――だが、その動きを、滑るように間合いを詰めてきたフランの冷徹な声が制した。
「トニーさんは、そこから動かないで!!」
「いや、しかしこの人数を相手に、いくらお前たちでも……!」
「あなた、僕らの『戦い方』を知らないでしょう?」
フランはトニーを振り返りすらしない。ただ、その端正な横顔に冷たい殺意を乗せて言い放つ。
「そんな人が下手に参加しても、僕らの邪魔になるだけですから」
トニーが思わずメアリーに目をやると、彼女は静かに、しかし絶対の信頼を寄せる目で深く頷いてみせた。
そしてメアリーは、すぐ傍らに立つフランの衣服の袖を、不自由な左手でぎゅっと掴む。
「フラン……」
彼女の形の良い眉が悲しげに歪み、何かを言いかけた。その瞳には、かつて「殺し屋」として世界を呪っていた彼への、複雑な心配の色が浮かんでいる。
フランは彼女の言わんとするすべてを瞬時に察したようだった。彼は掴まれた腕を優しく解くと、そっとメアリーの白い頬に触れ、この世の誰よりも甘く、美しい笑顔を浮かべた。
「大丈夫。……殺さないから」
彼は銃の撃鉄を起こす冷たい金属音を響かせながら、消え入りそうな声で、しかし確実に、その言葉を彼女の耳元へ囁いた。
「……君の前では、ね……」




