金色の髪の少女
街での騒ぎの報せを受け、すぐさま現場へ駆けつけた俺を待っていたのは、信じられない光景だった。
見慣れない小柄な少年――いや、ハットを落としたその正体は、泥にまみれた一人の女の子。彼女が十人もの盗賊をたった一丁の銃で圧倒していたのだ。
とりあえず身元を確かめるため保安官事務所へ連れてきたはいいが、机を挟んで向かい合った彼女は、すこぶる機嫌が悪かった。目が合うたびに、まるで親の仇でも見るかのような鋭い視線で俺を睨みつけてくる。
俺は苦笑いを噛み殺しながら、彼女の正面の椅子に腰を下ろした。
「まず、名前から教えてもらってもいいか? 俺はトニー。この街の保安官だ」
「……メアリー」
ぼそりと、掠れた声が返ってきた。
「メアリー。いい名前だ。まあ、温かいコーヒーでも飲んで話をしよう」
淹れたてのカップを差し出す。だがメアリーは手をつけるどころか、立ち上る湯気にわざとらしくそっぽを向き、視線すら合わせようとしない。沈黙が事務所の空気をごつごつと尖らせていく。
「えっと……。良ければ、なんでそんなに怒っているのか教えてもらうわけにはいかないか?」
銃を持てば一級品でも、中身はまだ若い少女だ。俺は少し遠慮がちに、声を和らげて聞いてみた。
「……あんたらが余計な真似をしたせいで、賞金がもらえなくなる」
忌々しそうに吐き捨てられた言葉に、俺はパチクリと瞬きをした。詳しく聞けば、彼女は賞金稼ぎとして荒野を渡り歩いているらしい。盗賊を捕まえて保安官に引き渡し、その首にかかった金を貰うのが彼女の生業だ。
しかし、保安官である俺たちが自ら出向いて泥棒を捕縛してしまうと、手柄は保安官のものになり、彼女には一セントも入らなくなってしまうのだという。
「なんだ、そんなことか」
思わず肩の力が抜けた。少年と見間違えられた屈辱に怒っているのかと思いきや、彼女の頭にあるのは純粋に経済的な問題だったのだ。なかなかにタフで現実的なお嬢さんだ。
「『なんだ』とは何だ!」
メアリーがバンと机を叩いて身を乗り出した。その瞳に、今度は年相応の激しい感情が灯る。
「こっちには生活がかかってるんだよ! 飯も食えなきゃ、馬の飼料だって買えないんだ!」
死活問題だと声を荒げる彼女を見て、俺の口元は自然と緩んでいた。降参、とばかりに両手を軽く上げて、にっこりと笑ってみせる。
「やるよ、賞金」
「え……?」
メアリーは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、えらく驚いた様子で固まった。
「い、いいのか……!? 私が最後まで捕まえたわけじゃないのに」
「ああ。全額出すのは規定上難しいが、半分くらいなら俺の裁量でなんとでもする。お前があの場で奴らを足止めしてくれたお陰で、住民に怪我人は出なかった。数人には逃げられたが、残りはきっちりお前の手柄だ」
それを聞いた瞬間、メアリーの肩からすっと強張りが抜けた。
「……本当だな? 嘘ついたら承知しないからな」
眉間の皺がみるみるうちに消えていき、ハットの影に隠れていた少女らしい素顔に、ぱあっと花が咲くような笑顔がこぼれた。ずっと尖っていた彼女が初めて見せたその瑞々しい笑顔に、今度は俺の方が一瞬、言葉を失う番だった。




