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声なし姫の紡ぐプレア  作者: 焼肉一番


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9. 辺鄙で豊かな土地

 外に出ると、改めて広大な庭だ。まずは庭の隅にある小さな小屋へ案内される。


「庭仕事用の道具はここにあるから、これでお庭を綺麗に保つのがあなたのメインの仕事よ」


「なるほど、でっけぇハサミだな」


 シロウは両手で扱う巨大なハサミを持ってシャキシャキと動かしてみる。錆びてはいない様だが随分埃を被っていた。


「ゲホッ! 道具も綺麗に扱う様にね。じゃーよろしく。七時になったら部屋に朝食を運ぶわ」


 そう言ってベスティアはシロウに懐中時計を渡しくるりと踵を返す。


「あっ、ちょっと待って。誰か基本的な事教えてくれる奴って居ないの?」


「だから私が色々教えたでしょ」


「いや、庭の手入れの事」


「あのね、この屋敷の使用人は執事のカミル、メイドの私、庭師のあなた、以上よ」


「マジ?」


 どうりで昨日の面接の時から他の使用人を見掛けない筈だ。どうやら嘘ではなく、本当にこの屋敷は今までたったの二人でやり繰りしていたらしい。


「カミルが変態だから今までどうにかなっていたけど、ちょっと事業の方が忙しくなって庭の手入れまで出来なくなったのよ。最悪私がやらなきゃいけない流れになりそうだったから庭師は急募だったわけ。どうしてもやり方が分からないならカミルに聞いてみるしかないけど?」


「あ~、マー君何してんの?」


「マー君って誰よ?」


「だから、昨日俺の面接した人がカミルだろ? 呼ぶ時は親しみを込めてマー君って呼んで良いって言ってた」


「はーっ……」


 毅然とルールを説明していたベスティアだったがとうとう頭を抱えた。


「教える事が山ほどありそうね」


「よろしく!」


「よろしくお願いしますでしょ」


「あいててて……!」


 扉を壊した勢いのまま、シロウにどちらの立場が上なのか分からせたかったベスティアだったが、どうにもやりにくそうな顔をしてまたシロウの頬を抓った。まともに働いた事がないシロウには教えなくても備わっている筈の常識がない。


「あの人はこの屋敷のすべてを任されている執事のカミルよ。私は優秀だし長いからカミルと呼ぶことを許されているけどあなたはカミルさんと呼びなさい。この土地を豊かにしたやり手なんだからね」


「この辺鄙な土地が豊かなのか?」


「まぁ本邸の方も予想外だったのでしょうけど、カミルはこの土地に合う農作物が何なのか研究したり、ただの観光地だった湖で稀少な鉱石の発掘に成功したり、本邸からの援助を受けずにこの辺りの土地を治めているわ。だいたいあんたみたいな新人に高額な報酬を出すんだから、はっきり言って大金持ちよ」


「へぇ~。しかし金持ちになると金の使い方下手になるのか? 俺に百万ゴルも寄越すくらいなら五十万ゴルずつで二人雇ったら良いんじゃねぇの?」


「相応しい人間が居ないんだから仕方ないでしょ。とは言えあなたが相応しいとも私は思っていないけど。とにかくよろしく。私は私の仕事があるの」


 そう言ってとうとうベスティアは立ち去ってしまった。シロウを合格にしたカミルにも本当に相応しいと思われての事なのか不安だ。なにせ昨日は顔も見たくないと言われたのだから。


 うーんと唸ってとりあえず目に付いた庭木に近付く。

 十分綺麗で何をどうしたら良いのかさっぱり分からない。他の庭木と比べて少し大きくなり過ぎている様な気がしないでもないが、切ったところから枯れてしまったりはしないだろうか? せっかくありついた仕事だ。良い仕事をしたい。


 カタン。


 屋敷の方から音がして振り向くと窓からリヴがこちらを見下ろしていた。

 シロウに気が付くと大きく手を振る。なんとも無防備な笑顔だ。誰にでもこうなのだろうか?


「よーう!」


 だが悪くない。この一年どこへ行っても煙たい顔をされて来たシロウにとってリヴの笑顔は久し振りの癒しだ。


「おはよう、あんたも早いんだなぁー!」


 そう言ってみたがリヴはくるりと部屋へ戻ってしまった。やっとリヴの声が聴けると思ったのに、大声で挨拶するなんて品がない事なのだろうか。シロウは首を傾げまた庭木に向き直った。

 すると今度は正面玄関の扉が開き、中からリヴが飛び出したかと思うとそのままニコニコ手を振りながら走って来るではないか。どうもまだネグリジェのままの様だが。そしてシロウの前まで走り寄るとまたニパと笑う。


「ハサミ持ってるから危ないぞ」


 まだ一切使いこなせていないハサミを自分の身体の後ろへ隠す様にしたが、リヴは回り込んでハサミを掴んだ。


「あ、おいおい……」


 逆らう方が危ないと思い素直にリヴにハサミを渡すと、リヴは重たそうにそれを持ってシャキと一本飛び出した枝を切った。なるほど、切っても剥げたり茶色く見えたりはしない様だ。そのままリヴは何本かチョキチョキとやって見せてる。


「もう良いって、仕事がなくなったら俺また一文無しになっちまう」


 そう言ってシロウはリヴからハサミを返してもらう。

 余計な事をしてしまったと思ったのか、リヴはあからさまにしょんぼりと俯いてしまった。


「怒ってねぇよ、俺が途方に暮れてたの見て手伝いに来てくれたんだろ? まぁ何となく分かったし、まずはやってみるからよ」


 リヴはまた元気に顔を上げてコクコクと頷いた。

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