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声なし姫の紡ぐプレア  作者: 焼肉一番


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5/5

5. 面接開始

「お連れしました」 


 少女は入口から一番近い扉へ二人を案内し、扉越しにそう声を掛けた。


「どうぞ」


 中から男の声。少女が扉を開けてシロウ達に頭を下げ、肩までのストレートヘアがさらりと揺れた。入室を促されている様だ。


「どうも~」


「失礼しま~す」


 扉の向こうには上等な絨毯の上に置かれたアンティークな机と椅子。

 面接官である声の主はそこに座り、金色の髪を光らせていた。

 男の容姿になど興味はないが、これはイケメンだとシロウは思った。そうでなければ燕尾服姿に白い手袋なんて、違和感なく着こなせないと思うからだ。随分と渋い格好だが三十そこそこくらいに見えた。


「必要書類を」


「必要書類?」


 開口一番、男はそこに座ったままシロウ達に書類を促した。一緒に入った男は「はい」と懐から紙を取り出してそれを面接官に渡す。


「求人チラシに必要書類について記載してる筈ですが」


 戸惑うシロウに面倒そうな顔を見せて面接官はそう言った。丁寧な言葉を使ってはいるが表情や声色にどこか人を舐めた気配を感じる。


「すっ、すんません見てませんでした」


 早く到着する事しか考えてなかったシロウは完全なる自分のミスにうなだれる。


「こいつやっぱり失格だろ!」


「ではこちらで書類を埋めてしまいますのであなたはちょっと待ってて下さいね」


 面接官の寛容さにチと舌打ちをする男。シロウは気まずそうに部屋の中央にニ脚並べて置かれた椅子に座った。


「じゃまずお名前を」


 ――来た。間違えて愛称を言ってしまったバカになれば良い……。


「シロウ」


 ドキドキしながらそう名乗った。

 何か言われやしないかと面接官の様子をジッと眺めたが、彼はこちらも見ないままさらさらと書類に何やら書き込んだ。一緒に部屋に入った男の方もチラリと横目で確認するが特に気にする様子もない。


 ――やった……! ――


 まだ面接は始まったばかりだと言うのにシロウは心の中で拳を突き上げた。たった今自分は新しい自分に生まれ変わったのだと。


「年齢を教えてください」


「はい! 十九です!」


 シロウは出来る限り丁寧な言葉を使い面接官の質問に淡々と答えた。

 前職は何をしていたとか、庭師の経験はあるのかとか、今どこに住んでいるのだとか、聞かれて当然かつ答えたくない質問が来たら適当な嘘を吐いてやろうと思っていたのだが、何故か一切聞かれなかった。

 服のサイズとか、アレルギー食品の有無とか、採用された場合に必要そうな質問ばかりであった。採用する気はちゃんとあるらしい。


 本来シロウが自分で書いておく筈だった書類の空白を埋めると、面接官ははようやく始めましょうと言った。

 片眉を上げ、銀縁眼鏡の奥の三白眼でシロウ達を見据える。やっとまともに目が合ったが歓迎されている様には感じない。

 

「改めまして、私はここの執事を任されているカミル。人に名乗る時は金色のワタリドリって二つ名を使っていますが公の場ではルーディです。まぁ本名はザカエル・アビディって言うんですが、呼ぶ時は親しみを籠めてマー君って呼んでくれても大丈夫。さて一次審査ですがせいぜい頑張って下さい」


 何やら要らない情報も大量に喋り、カミルはごそごそとパネルを数枚用意した。

 なにせ高給でまだ誰も合格していない試験なのだ。よっぽど難しいに違いないと、シロウは生唾を飲んで背筋を伸ばす。


「はい、ではまず……これと、これ。どっちですか~?」


 どこか間延びした言い方、あまり期待しているとは思えない態度でカミルは先程用意したパネルのうち二枚を机の上に並べてシロウ達に見せた。


「どっち……?」


「どう言う意味だい?」


 二人とも質問の意味が分からない。

 一枚はセクシーな女性の絵、もう一枚はまだ幼い少女の絵だ。やたらと胸元が強調されている。言い換えれば巨乳と貧乳の絵と言う事になるかも知れない。


「ええ、どっちが好みのタイプですか?」


 好みのタイプを選ぶだけで、この二枚ならシロウは悩むまでもなかった。


「右」


 セクシーな女性、巨乳の方を指差す。


「あなたは?」


 もう一人の男はううんとイヤらしく顎をさすりながらこう言った。


「まぁ今後のお楽しみって事で、左だな」


「はい、あなたは不合格です。出て行って下さい」


 するとカミルは男に厳しい声でそう命じる。


「はぁ?! 何が? 何がだよ?!」


 当然男は納得出来ない。好みのタイプを正直に答えて合格も不合格もあるかと言ったところだろう。


「いちいち説明する義務はありません。出て行って下さい」


 もう一度出て行けと言われ、男はとうとう激高した。


「ふざけるな! こんな辺鄙な所へ来て理由も分からず不合格だから帰れたぁ……!」


「ベスティアさん!」


 男の言葉を遮ってカミルは扉の向こうへそう言った。すると間髪入れずにその扉は開かれ、あの少女が現れる。


「お帰り頂いて下さい。彼は失格です」


「かしこまりました」


「ちょっと待て! 理由くらい……!」


 なおも男は収まらない。だが男の怒りももっともだとシロウは思う。


「お帰りはこちらです」


 ベスティアと呼ばれた少女は自分よりも遥かに大きいその男になんら臆する事なく近付くとその腕を取った。


「おいおい待ってくれって言って……うおっ?!」


 それを振り払おうとした男は……一体何が起きたのか、その身体を床に伏せられているではないか。


「な……なん……」


「お帰りはこちらです」


 腕を捻られて胸を床に付けている状態だ。ベスティアは床に這いつくばった男に顔を近付けて同じ言葉を繰り返す。


「わ、分かった」


 結局、男はしなくても良い痛い思いをしてからすごすごと部屋から出て行ったのだった。

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