48. 最終回
ベスティアには担架が用意され、リヴもそれに付き添う様にして出て行ったので、カミルに手を貸して一緒に歩き出す。
「応えなくて良いのですか?」
「こんな分かりやすい手のひら返しに応えられる程脳天気じゃねぇや。俺はもう庭師だし」
そう言ってニッと笑うシロウにカミルがおどけて言う。
「何だかもったいないですねぇ」
「はは! マー君が手ぇ振れよ。最後の蹴り、エレトには止められたけどそんじょそこらの戦士じゃ止められないと思うぜ? だいたいあの絶望的なタイミングで間に合った事自体意味不明だけどな」
「私はね、ラーナ様と約束をしたんですよ。何があってもリヴお嬢様をお守りするってね」
「そりゃ……大変だ」
そう言って前を歩くリヴの背中を愛しそうに眺めるカミルに、シロウは猛烈な仲間意識を感じで心からそう労った。
「大変だけど、幸せですよ」
そして控室まで戻ると、リヴが一人一人にハグをして回った。
まずはカミルだ。
「ああ、お嬢様、こんなに汚れてしまって……。本当にお怪我はないのですね? 私は大丈夫ですよ、なんとお優しい!」
そしてベスティア。
「本当に……私をお許しになるのですか?」
コクンと頷き、リヴはまた「ベステア」と声を発した。それを聞いていたカミルは感動に打ち震えている。
最後にシロウのところへもやって来たが、リヴは恥ずかしそうな顔をして無邪気にハグはして来なかった。その顔にシロウも妙に意識してしまう。
「おい、俺は庭師でいたいんだ、だからそう言う顔をするな」
良く分からないままにリヴはとりあえず頷きそして「シオウ」と、また声を発した。
「えっ?!」
リヴが意味のある単語を発した事に感動していたカミルの表情は一変した。
「んっなっなっ……! 何でですか?! 何で私だけ名前呼んでもらえないんです?! お嬢様! 私の名前も言ってみて下さい! カミルと! 金色のワタリドリでもザカエル・アビディでも良いです! ルーディなら簡単ですか?! この際マー君でも良いので!」
懸命に捲し立てるがリヴは困った顔をするばかりだ。
「カミル、お嬢様が困っておいでです」
「そうだぞマー君、それでも幸せなんだろ?」
「いや不幸! これはさすがに不幸!」
「あははっ!」
「いやお嬢様ここは笑うところではありませーんっ!!」
そうして満身創痍の面々は闘技場を後にした。後は社会がエウレスとスメラフィーズを制裁してくれる筈だ。
あれからキーラの活躍もあり、エウレスの闇は世間に広く知られる事となった。
スメラフィーズとの癒着、ドープ薬を使った賭博、違法薬物の精製、実験用保護動物の乱獲や輸入、果ては誘拐や殺人など……。これでもかと言わんばかりの悪事のオンパレードだった様である。
結果エウレスと言う組織は解体され、研究施設で寝たきりだったベスティアの妹、セティは緑の屋敷で静かに療養している。
それを許したのは他でもないリヴだ。
一番日当たりのいい部屋をあてがわれたセティはずっと目を閉じたままだが、その大きな窓からは日の光と共に、良くリヴの笑い声が聞こえて来ていた。
結局、自ら妹の命を諦めた様な気がしてベスティアは塞ぎ込んでいたがもちろんそうではない。誰かの犠牲の上で生き永らえても意味はないし、それにシロウには勝算がある。
「諦めんな、こちとらにはセイレーンが居る。リヴの声が出る様になって、セティに元気になって百まで生きろと言えれば勝ちだ。百までって言っておかないと永遠に生きるだろう」
「そんなバカな」
到底信じられる話ではないが、シロウには奇跡を見せてくれた。
それがプレアなのかどうかは分からないし、もし本当にそんな奇跡が起こるのだとしてもリヴはあれ以来やはり笑い声しか出ず、意味のある声は発せない。
だけどいつかきっと、リヴは自分の祈りでラーナの祈りを覆す筈だ。何故ならリヴが祈りを込めて書いたセイレーン物語のラストでは、ヒロインのセイレーンの姫が大きな声で歌っているのだから。




