表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
声なし姫の紡ぐプレア  作者: 焼肉一番


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/48

46. 落下

「あれ? お前、俺がシリルに負けた時に暴言吐いた奴じゃないか?」


 エレトはふと、観客の中に知った顔を見付けた。それが本当にそうだったのかは分からないがエレトはそう言って止まってしまった拳をそいつに浴びせた。


「へあっ?」


 ゴキ! と骨の音がして、顔面を殴られたその男は一瞬で崩れ落ちた。首が真後ろへ向いたままグニャリと動かなくなった男を見て、一瞬観客席はシンと静まり返った。


「きゃーーーーっ!」


 観客の一人が悲鳴を上げると、ようやく状況を理解した様に観客席はパニックになった。その場から逃げ出そうとする者が、まだ何が起きたか分かっていない観客とぶつかり合ってごった返す。


「あ、お前もだ」


 目が合った男にそう言って今度は手刀を首筋に斬り付ける。たちどころに鮮血が吹き出し、それはエレトもリヴも、近くに居た観客も真っ赤に染めた。


「お前もだったな?」


 同じ様にもう一人首筋を裂くと、また鮮血が吹き出す。悲鳴が飛び交う。もう遠くに居る観客にもエレトが観客を襲っている事は分かった。


「やめろ!! お前の相手は俺だろう!! 早く降りて俺と勝負しろ!」


 闘技場からそう叫ぶがエレトには届かない。


「お前はさっきシリルを応援したやつ! お前も! お前も!! お前もーっ!!」


 血の雨が降り注ぐ中心で、リヴは全身を赤に染めて口をパクパクしているが、それでももうエレトは止まらなかった。何よりもエレトの殺気が勝っていた。


「あー、そうだ俺……何でだ? 真っ先に殺したい奴がいたのに」


 ぐるりと首を回し、視線の先にリヴを捉えて止まる。


「何で後回しにしてたんだ?」


 血まみれの死体を踏み付けリヴに向かっていくエレト。


「やめろ!!!」


 シロウは闘技場から観客席を見上げてみっともなく叫ぶだけ。

 アゼムは懸命にリヴの元に向かっていたがパニック状態の観客席を逆流するのは容易ではない。

 キーラはもう、見ていられないと目を塞ぐ。もはや誰も、間に合わないと思ったからだ。

 誰もリヴを救えない。もうリヴの声はエレトには届かない。他の観客と同じ様に血を吹いてその場に倒れるしかない。


「じゃあな、セイレーンのお嬢さん」


 そう言って振り上げたエレトの腕は、リヴに向かう寸前で間合いに入って来た何かを捕らえる。


「……?」


 反射的に掴んだのだが、それは男の足……であった。


「お嬢様から離れなさい」


 無様に捕まりながらも毅然とそう言ってエレトを睨む男。


「何だ? お前」


「マー君!!!」


 シロウが叫ぶ。


「カミル?!」


 対面席からキーラも叫ぶ。

 それはいつもの燕尾服に髪を乱れさせたカミルだったのだ。

 ずっと下から見上げていたシロウにはまるでカミルが突然空中に浮かんで現れたかの様に見え、颯爽と蹴りを繰り出したのだが……瞬間エレトに捕まった。そしてふくらはぎ辺りを持たれグイと持ち上げられると、大男のエレトはあっさりカミルを宙ぶらりんにしてしまう。


「お前は知らないな、スメラフィーズ見に来た事ないだろう」


 不意打ちで蹴りを入れられそうになりながら、エレトには取るに足らない事だったらしくカミルの顔をジロジロ観察してそう言った。


「興味ないですよ、野蛮な殺し合いなど……」


 カミルはそう言って掴まれたふくらはぎをどうにかしようともがくがエレトはビクともしない。


「そうか、なら邪魔するなよ」 


 もう片方の手で手刀を作りそれを振り上げると、エレトの足元にリヴがしがみ付き、そのまま噛み付いた!


「あ?」


 だがエレトにとっては指先に蝶が止まった程度の感触だ。みっともなく自分の足元に蹲るリヴを冷たく見下ろす。


「お嬢様!! そんな汚いものを口に入れてはなりませんっ!!」


 それを見たカミルが半狂乱になってそう叫ぶと、エレトのこめかみ辺りに自由だった方の足の爪先が当たった。

 急所に上手い事当たったのか、不意打ちだったからか、それは思いがけずエレトにダメージを与え、エレトはカミルを捕まえていた足を放してしまう。


「な……にっ……」


 そして立て続けに後頭部に鈍い衝撃を受けて前によろけると、今度は真横から、カミルの蹴りとは比べ物にならない強烈な膝で顎を撃ち抜かれる。

 そのまま、エレトの身体は宙を舞い、一体何が起きたのかと空中でそちらを確認すると、そこにはアゼムと……。


「なっ……! ベスティア……! お前えええーっ!!」


 白い髪を振り乱し、真っ赤な瞳で膝を突き出したベスティアが居たのだ。カミルとアゼム、そしてベスティア、おまけに言うとリヴが、ほぼ同時にエレトに攻撃を加えた様な形になり、エレトは観客席から闘技場の方へ弾き出された。


「お嬢様あああぁぁーっっ!!」


 リヴが足元にしがみ付いたままに……。

 すぐに手が解けて空中で分裂したが、リヴの身体もすっかり観客席から飛び出している。カミルは迷わず自らも観客席から飛び出したがリヴまで手は届かない。


「何でマー君まで来ちゃうんだよ?!」 


 闘技場で動向を見守っていたシロウがしっかりリヴの下に待ち構えていたが、どうしたってカミルまでは救えない。

 だがそれに気付いたカミルはホッとした顔を見せるのだった。

 カミルに覚悟が出来ていると見たシロウはしっかりとリヴをキャッチした。その直後にカミルと、エレトが地面に激突した音が聞えて来る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ