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声なし姫の紡ぐプレア  作者: 焼肉一番


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41. 絶望せず

「何でだよ……」


「何でって?」


 シロウは心のどこかでまだ、何かの間違いだと思いたいのだ。だけどエレトの口から飛び出すのは、シロウの望まぬ事ばかり。


「この試合はドープ薬の力を見せつける為のもの。お前はスメラフィーズに戻りたいが為にシャンゼルのお嬢様に差し出された憐れなモルモット、こう言うシナリオなんだろう?」


 こっちの計画が全部筒抜けだ。


「ベスはどこだ……」


 シロウはベスティアが裏切ったのだとは少しも思わなかった。だがこの情報を知り得るにはベスティアがしくじったと見るしかない、きっとどこかに閉じ込められて酷い目に合ってるのだろうと。


「あそこ」


 隠そうともせず、エレトはくいと顎で観客席の一部を差した。エレトから視線を外す事に抵抗があったシロウは差された方を眼球だけでそっと覗き見る。だがそこにベスティアの姿を見付け、結局は身体ごとそちらを向いてしまう。


「なっ……?!」


 要人席にベスティアが悠々と座っている。もっとも、ここからだとあまり表情は分からないのだが。


「あれ? 俺がベスティアを脅して吐かせたと思ってるのか? 違うぞ。あいつはエウレスを裏切れない」


 何もかも、シロウは信じたくない。


「嘘だろ……何でだよ……」


「どうしてベスティアを信じたのかそっちの方がおめでた過ぎて俺は理解出来ないぞ。あいつの妹はエウレスの作る薬で生かされているからな、エウレスじゃなきゃ出来ない薬で」


「妹……?」


 いつだったか、ベスティアが妹からだと言って手紙を大事そうにしていた事を思い出した。確か、セティと書いてあった。

 なるほどベスティアに感じていた重い空気の意味が分かった。いつも無表情だから分かり難くはあったがベスティアの様子はあれからずっと変だったではないか。自分でこの計画を立てておきながらずっと心に何か引っかかった様な顔をしていたではないか。

 きっと、リヴだけはそれに気付いていたのだ。


「それ……、まさかセイレーンの魔力……プレアが必要って事か?」


「いいや? その薬を作る工程で使用が禁止されている希少な小動物の肝を使うらしい。エウレスはそれを手に入れて、証拠を揉み消せるだけの組織だって事だ」


 ならベスティアはエウレスに脅されている様なものではないか。そしてそれを、エレトは良しとしているのだ。


「クソ……。全部分かってて、なんで茶番に付き合うんだよ」


「んー? まぁ、資金援助は受けられそうにないけどセイレーンの味方になったお前を堂々と殺せるんだ。悪い話しじゃない」


「俺やっぱ信じたくねぇ……こんな事になった今でも……エレさんがそんなせこい人間だったなんてよぉ……」


「せこい?」


「せこいだろ! ドープで金儲けとかよ!」


「金儲けか、はは、そりゃせこいな」


 シロウの絞り出す様な訴えも聞き流し、エレトは音もなく眼前まで距離を詰めると、簡単に足払いで倒しては馬乗りになってシロウの首を絞めた。


「ぐ……あ、あ……」


 きっとエレトは簡単にシロウの首を折ってしまえる筈だ。だがまるでこの時を楽しむかのようにエレトは少しずつ少しずつその手に力を込めた。


「がはっ……!」


「馬鹿馬鹿しくなるだろ。悔しいだろ。圧倒的な力の差に絶望するだろ」


「まだまだ……これ……から……だ」


 シロウが片目だけをどうにか開いてエレトにそう言った。何の説得力もありはしない。


「なら、見せてみろよ」


 そう挑発されて、シロウは自分の首を絞めるエレトの手をペロリと舐めた。


「いっ……?!」


 想像もしていなかった感触に思わずその手を離してしまうエレト。シロウはその隙にエレトの下から脱出して素早く距離を取った。ぜぇぜぇと大きく肩で息をしながらどうにか状況を打開しようとエレトを見る。


「はははは! なんだよその攻撃は! いや攻撃でもない! でも俺は実際に手を放しちまった、やられたよシリル! さすがだ! はははは! 舐めるとか……! あははは!」


 そう言って大笑いするエレトはツボに入ったと言うよりは終始ご機嫌で、今この一時一時が楽しくて仕方がなさそうに見える。

 シロウの方はちっとも笑えないが、その隙に落としてしまった剣を拾った。エレトは甘んじてそれを許した様だ。


「この状況から反撃を試みるかぁ~、ああ、凄いなシロウ、やってみなぁ!」


 やってみろと言ったわりにエレトは自分から攻撃を仕掛ける。

 これも薬のせいだろうがエレトの爪は太く固く鋭くなっていて、それをシロウに向けて高速で打ち込むのだ。


「?!」


 とっくに人間の限界を超えているスピードに反応し、シロウはそれをかわした。かわされた事に驚きの表情を見せるエレト。


「ふっ……! よっ……ほっ……!」


「なっ……!」


 しかも一度だけではなかった。


「おいおい本当に凄いなシリル、何でこんなにすぐ対応してきやがる……!」


 ギィン! と、エレトの爪とシロウの剣がぶつかって不快な音が響く。かわして、受けて、遂には剣を突き出す。

 思えば一年前、スメラフィーズで覆面の男と戦った時も最初は絶望的だった。それなのに何度も立ち上がっては、その度にシロウは弱るどころか覆面の攻略に近付いて行ったのである。

 シロウの強さは絶望しない事だ。

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