36. 進捗良好
「良くやったキーラ! さすがだ! お前じゃなきゃ出来ない仕事をしっかりやり遂げた!」
「あったり前でしょっ!」
褒めてオーラが凄かったので素直にシロウが褒めてやるとキーラはどこまでも昇った。
「でもこの後であんたにしか出来ない仕事もあるんだからね? ベスティアもよ? 皆が完璧にやらないと上手くいかないんだから足を引っ張らないでよね?」
「おう、任せろ!」
「お任せ下さい」
キーラが良い仕事をした事で緑の屋敷の士気が上がった。リヴもいつもよりキリリとした表情に見えるし、キーラの腕を摘まんで自分も頑張るとアピールしている。
「あんたは欠陥品だから大人しくしてれば良いのよ」
「あっ! お前またそんな言い方……!」
「リヴお嬢様は完璧です!」
どうしたって深刻になり切れない連中と言うのは居るもので、基本的に緑の屋敷にはそんな人種が集まっている様に思う。ただ、ベスティアだけはやはり表情を崩す事はなかった。それはいつもの事とも言えるが、無表情の下に隠された何かがいつもよりも深刻、なのだ。
これからベスティアはキーラ以上の仕事をしなければいけない。そして一旦エウレスに行ったらしばらくはもどらない計画だ。もしかしたら……何かあったらもう二度と緑の屋敷には戻って来られない可能性だってある。でもやるしかないのだ。
それから――。
二日後にはベスティアの髪は元の美しい黒髪に戻った。アゼムもだ。
「これ以上後回しにする理由はありません。すぐに発ちます」
両手で杖をついてしゃんと立ち、ベスティアはカミルにそう報告した。同じ部屋にシロウとリヴも居る。キーラとアゼムはエウレスからのリアクションにすぐ対応出来るよう本邸に戻っている状態だ。
「リヴお嬢様誘拐実行の前に、運悪く森の野生動物に襲われ両足を負傷。その為カミルに暇を出されてしまったと言って一旦エウレスに戻ります」
ここからは本当に綱渡りだ。暇を出されたベスティアはそれでもエウレスに戻れるのかどうかも心配である。
「そこでシロのスメラフィーズ復帰戦フォローをしますから」
戻れたとして、シロウのフォローになんて回れるのか……。
「信じてるぜ」
シロウは不安げな表情のベスティアにそう言って親指を立てた。
「しっかりやっていただく条件で生かしている様なもんですからね、頼みますよ」
カミルもカミルなりの激励をする。
二人ともちゃんとベスティアを信じているのだ。だけど本来一番脳天気そうなリヴが一番暗い顔をしていた。
「馬車の用意も出来ていますので、これで」
部屋を出ようと歩き出したベスティアに、リヴは急に抱き付いた。ベスティアの怪我を良く理解しているので急にとは言え、そっとだ。
「あっ?」
細い腕で細い身体を抱き締める。リヴが甘えている様にも、ベスティアを慰めている様にも見える。
「どうして……リヴお嬢様はこんな風に人にくっ付きたがるんですか?」
不思議そうな顔でそのままにさせてやっているベスティアにシロウが短く教えてやる。
「好きだからだろ」
「……」
ベスティアの胸に顔を埋めるリヴはそうだとも違うとも反応せず、しばらく動かなかった。何だかリヴだけ、自分とは違う何かを感じているのかも知れないと少しシロウの胸が騒いだ。
「行って来ます」
そうして、杖をついてひょこひょこ馬車に乗り込んだベスティアをシロウ達は見送ったのだった。
後はベスティアから良い知らせが入る事を祈って待つのみだ。
ただ待つだけでは気持ちを持て余すので、庭仕事もそこそこにシロウは身体作りを始めた。
とは言え、今までも実は一日とて休んだ事はない。庭師の仕事に就いてからも、寝る前や仕事の休憩時間に決められた身体作りのメニューをこなしていたのだ。あまり人に見られたくはないのでもちろんこっそり。
だがもう隠れている場合でもないのでもう少し本来の感覚を取り戻せるようなメニューをやり始めた。相手を想定しての一人組手や、野生動物との追いかけっこ等。幸い森深い場所にあるこの屋敷の周りにはすばしっこい小動物がたくさん暮らしていたので相手には事欠かなかった。
昼食を取りに部屋に戻るとカミルの用意した食事が置いてある。正直ベスティアが用意した物より格段に美味かったが、もうすでにベスティアの味が懐かしい。
コンコン――。
また開けっぱなしの部屋の壁をノックする音が聞こえた。シロウはもうリヴだと分かっている。




