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声なし姫の紡ぐプレア  作者: 焼肉一番


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35. グッジョブ

 翌日シロウが目を覚ますと、キーラはもう屋敷を発っていた。ずいぶん寝過ごしてしまった様で窓の向こうの太陽が高く昇っている。


「いっ……!」


 やってしまったと身体を起こすと昨日のダメージが残っている。考えてみれば準備運動も無しに昨日だけで二戦もしたのだ。


 ベスティアに貰った飴玉の効果も残っているのか、ただ単にダメージなのか、良く分からないが身体に力も入らない。シロウはもう一度ベッドに身体を倒してしまった。

 起きなければと思いつつボーっと部屋の天井を眺めていると、コンコンとノックの音が聞こえた。見ると、リヴが扉のあったところに立っている。


「あ……おはよう」


 リヴの持ち物と言えば大概スケッチブックか本なのだが、今日は……のこぎりを携えていた。

 リヴの方も色々とショックな事を聞いた筈だが、表情は明るい。


「元気か? のこぎりなんか持ってどうしたんだ?」


 リヴはおずおずと一歩部屋へ踏み入れると壊れたドアを指差した。初日に壊したきり開けっぱなしだ。そしておもむろに備え付けのクローゼットの方に振り返り、のこぎりを振り上げた。


「うぇっ?! おいおいおい! まさかそれ切って扉代わりにするって事?! いや案外ワイルドと言うか雑と言うか……やっぱりアホだな!」 


「あははっ!」


 慌てふためくシロウを見て、リヴは笑った。


「……もしかして冗談だったのか?」


「んっ!」


 シロウの質問にリヴはコクンと頷く。


「意外だな、人を笑わせる才能があるぜ。もしかしてワンピースを後ろ前に着たりするのも冗談か?」


 シロウにそう言われたリヴは慌ててワンピースを確認したが今日はちゃんと着れている様だ。冗談だと気付いたリヴはその瞬間真っ赤になって頬を膨らませた。


「ははっ! ごめん意地悪のつもりじゃなかった」


 笑っている自分に気付いてシロウはリヴに慰められたのだと気が付いた。

 リヴだって色々と辛い思いをした筈なのに、ありがとうと言う言葉が出かかったが何だかそれも無粋な気がしてやめた。


 その日、結局シロウは身体が痛くてろくに動く事は出来なかった。

 午後になり、ベスティアが足を引き摺りながら食事を運んでくれたので慌てて仕事を手伝ったが、あとやった事と言えば庭に水を撒いたくらいだ。カミルも何も言わなかった。


 そして夜遅くにエウレスへ出掛けていたキーラが帰って来た。その足取りと表情を見るに手応えは十分だった様だ。早速皆でキーラを囲んで進捗を確認する。


「ベスティアの言った通り、通された部屋にはエウレスの代表と、相談役とか名乗ってエレトも居たわ。きっとあの代表はエレトの言いなりね」


 出来れば何かの間違いであって欲しかったが、シロウの憧れのエレトがエウレスに大きく関わっている事はやはり紛れもない事実の様だ。


「で! 案の定二つ返事だったわよ! 期限は二週間後にしたわ。十分よね? ベスティア」


「はい、ありがとうございます」


 次は髪色が元に戻るのを待ってベスティアがエウレスへ行く計画だ。


「二つ返事とはいい気なもんですね。すべてが上手く行っている時は何も疑問になど思わないのでしょうか、相手が脳天気そうな奴で助かりましたよ」


 カミルがじっとりと半目を開いてそう言うと断固キーラは自分の手柄を主張する。


「あら、あたしの話術のお陰って言って欲しいわね!」


 キーラがお手本の様な得意顔で腕を組んだ。確かにこの若さで大人相手に商談を持ち掛け、丸く収めて来たのには感心する。


「どんな風に切り出したんだ?」


「どんなも何も、ベスティアが立てた計画通りに事が運んで面白い様だったわ! まずはここ最近の組織の著しい成長を称え、それから資金援助を持ちかけたの。その時の代表の顔の緩み様ったら可笑しかったわよ! てかエレトの顔も初めて見たけど風貌からして胡散臭い男ね」


 シロウの思い出の中のエレトは大男でありながら紳士的な、褐色の肌に長めの黒髪が良く似合うイケメンだった筈だが、キーラからしみてるとただの胡散臭いおっさんの様だ。

 それでそれでと続きを急かすとキーラも気持ち良く続きを話してくれた。


「だからそれに相応しいかどうか見極めさせ欲しいと注文を付ける。当初の計画通りにあんたが今シャンゼル本邸の護衛として雇われていると話したんだけど、エレトの顔はちょっとだけ引き攣ってたかしらね? 案外顔に出るタイプよ」


「ざまぁですねシロウ君」


「はは、さぁな? もうどうでも良いよ」


「でね!!」


 話しの途中でカミルが余計な事を挟んだのでキーラが声のボリュームを上げて注目を向ける。


「シリル・ロウエンタールはスメラフィーズに未練がある様だから、あたしが口をきいたと言えば喜んで戦うでしょうって言ったわ! そこで、今度こそ勝ってみせてちょうだいって、それだけ言ったのよ」


「ドープ薬の事は言わなかったんですか?」


 カミルがそう言うとキーラは大丈夫大丈夫と頷いて続けた。


「そんなに勘の悪い奴らには見えなかったわ。悪知恵は働くんでしょうし、これがどう言う事なのか分かると思って言わなかったのよ」


 伝説の戦士、シリル・ロウエンタールに勝ってみせよ。

 それをエウレスのトップに話すと言う事は、こちらがドープ薬の存在に気付いていると言う事だ。そしてシリルが無罪だと言う事も。

 一年前は勝てなかったシリルに勝ってみせる事でドープ薬の可能性を示すのが資金援助の条件なのは簡単に思い至る。


「なるほど、あまりこちらからドープ薬と言う単語も出したくないし賢明でしたね」


「そうよ! それにちゃんと、そちらはシリルに対してスメラフィーズの代表を出して下さいとも言ったわ。清廉潔白な、スメラフィーズが信頼している戦士を出す事。それで負ければスメラフィーズも赤っ恥。それくらいの覚悟はありますか? ってね」


「そしたら?」


 合いの手を待ってからキーラはカラカラと笑って言う。


「もちろん! ってこれまた二つ返事! だからそこそこの金額の手付金を渡してやったわよ。これであたしが納得すればかなりの援助が受けられると思い込んだ筈ね!」

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