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声なし姫の紡ぐプレア  作者: 焼肉一番


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33/48

33. エレト・エルディ

 現シャンゼル領の領主、キーラ・シャンゼル。

 生まれた時から人の上に立つ事を約束されたキーラのその言葉は妙に迫力があり、一番取り乱していたカミルも我に返った。ようやく自分がキーラから椅子を奪った事を理解したのである。


「も……申し訳ございません……」


「次大声出したら土下座してもあんたを解雇するわよカミル。だいたい、ベスティアを雇ったのはあんたなんでしょ。何も知らずにシリル・ロウエンタールを雇ったり、組織のスパイを雇ったり、ほーんと、人を見る目がおありだ事! 半分はあんたのせいでしょ!」


 返す言葉もないカミルは下唇を噛んで耐えた。容易にまたキィと大声を出してしまいそうだからだ。


「でも、度々様子を見に来ながらベスティアを疑わなかったあたしにも責任があるわ。あんたに任せているとは言えここはシャンゼル領なんだから」


 何だか急にキーラがカッコ良く見えてシロウはその姿に見惚れる様だった。ずいぶん間抜けなところや意地悪な瞬間ばかり見てしまっていたが、こんな一面もあるらしい。


「あたしだってアゼムを傷付けられて心底頭に来てるわ。でも一度は信用してこの屋敷に招き入れ、今はこうして頭を下げている。見る影もない、真っ白な頭をね。お金を借りて何をしたいのか聞いてやっても良いんじゃないの?」


 喋りながらアゼムを目だけで動かし、カミルに奪われた椅子を用意させてまた座る。


「内容によってはあたしが貸しても良いわよ。お金だけじゃなくて何ならシャンゼル領主って名前もね」


「それは……」


 ベスティアは顔を上げた。願ってもない話しだったからだ。


「何だよキーラ、ベスティアの計画分かるのか?」


「全然? でもこうして頭下げに戻って来たって事はエウレスとやりあおうってんでしょ? それならお金も権力もなきゃ話しにならいじゃない」


 嫌味にもならないくらい堂々とキーラはそう言った。事実キーラはその両方を持っているのだ。


「仮にそうじゃないなら、そうしろって言うけどね。だってそうしないとあんたの大事なリヴお嬢様が安心して暮らせないのよ? あんたもラーナも逃げる隠れるって選択をしたけど、そのお陰でリヴはとんだ欠陥品になった。それって幸せなの?」


「その考えに俺は概ね賛成だ。だけど、お前はもうちょっと言葉を選べよ……」


 カミルに言いたい事を言ってくれたキーラに内心で拍手を送る一方で、リヴを欠陥品などと表現するキーラはやっぱりどうかと思う。


「回りくどいのは嫌いなの」


 反論は許さんとばかりにキーラがそう言うとカミルも握っていた拳を解いた。


「分かりましたよ……。本当は嫌ですけどキーラ様に免じて話しくらいは聞いてあげますよ。ただしその計画に少しでもリヴお嬢様が危険に晒される可能性を感じた場合はすぐ殺しま……だからリヴお嬢様! 意地悪な目で見ないで下さい! 分かりました分かりましたもう立って下さいよ」


 カミルが根負けした様にベッドに腰を下ろし、ベスティアに椅子を薦める。ベスティアは震える足を隠して椅子に座り、淡々と説明を始めた。一度きりのチャンスでエウレスに勝つ方法である。


「まず先にお話しておくと、エウレスとスメラフィーズをずぶずぶの関係にしたのは元戦士です」


「一介の戦士が?」


 意外そうに首を傾げるカミルにベスティアは重ねる。


「ええ、男の名はエレト・エルディ。あのシリル・ロウエンタールを発掘した人物としても名高いわ」


「え……」  


 急に知った名が聞えて思考が停止した。エレトはシロウの憧れであり、何もなかったシロウにスメラフィーズと言う場所を与えた恩人なのだ。シロウがスメラフィーズを追放された時に最後までシロウを信じてくれていた人でもある。


「どう言う事だよ……? エレさんが何でエウレスと!?」


「エレさん……? そんな風に呼んでるなんて、随分と懐かせたものね」


「そんなんじゃ……!」


「真実を知りたいのなら黙って聞きなさい」


「……」


 そう言われてシロウは黙った。


「かつての英雄エレト・エルディが、自分が発掘して育てたシリル・ロウエンタールとの試合で戦士としての致命傷を負い、スメラフィーズを引退せざるを得なかった……。当時ものすごく騒がれたわね」


 その通りだ。

 全力で来い、エレトはそう言い、シロウはそれに応えたに過ぎない。だからこの結果に何も後ろめたい気持ちは……もちろん、ないとは言えない。

 だがあれは事故の様なものだ。戦士をしていればいつ誰が同じ目にあってもおかしくない事だったのである。だからエレトはこの結果を受け入れた。シロウのせいではないと言い、ちょうど良い引退のタイミングだと笑ったのだ。


「戦えなくなったエレトはそれでもスメラフィーズに残り、新人の発掘や運営に関わるようになった。怪我をした戦士なんて普通はお払い箱だけれど……エレトが強いだけの男じゃなかったって事です」


 だからシロウはますますエレトに憧れた。エレトの分も立派な戦士になろうとそれまで以上に励んだ。


「エレトは強いだけじゃなくて、お金を生み出す才能もあった」


「ふぅん、一番必要な才能ですね」


 緑の屋敷を豊かにしたカミルが顎を撫でる。


「スメラフィーズの内部事情を知ったエレトはそこにドープが蔓延っているのを知った。そしてそれを告発するどころか、ひっそりと行われていたドープ賭博をもっと組織的に、ある種事業として成り立たせる事に成功したの。それによって富を得たエウレスも全面的にスメラフィーズに協力。今二つの組織を動かしているのはエレト・エルディだと言っても良い」


「マジかよ……」


 エレトはシロウに、必ず誤解を解いてまたスメラフィーズに呼んでやると約束してくれた。シリル・ロウエンタールの味方なんかをしたらエレトの立場も悪くなるだろうに、それでもそう言ってくれる事が嬉しくて、見捨てないで居てくれてるんだと思っていた。

 それなのに実質エレトがエウレスを動かしていた言う事は……。


「俺を追放したのは……俺にドープの疑惑を掛けて……証拠が出たとか嘘を吐いて、それで俺から居場所を奪ったのは……エレさんだったって事なのか……?」


「そうね、エレトは言ってたわ。シリル・ロウエンタールは俺の犬だって。最期に育ててやった恩義を返してもらおうとしたけど裏切られた。だから捨てたって」


 自分の身体から、嫌な物が吹き出している様だとシロウは思った。良く分からない、黒い物が急に身体の中に現れて、綺麗だった思い出を真っ黒に染めていく。


「ああ、そう……なんだ、ははっ」


 可笑しくもないのにシロウは笑った。


「はぁ、馬鹿みてぇ……」

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