表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
声なし姫の紡ぐプレア  作者: 焼肉一番


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/48

27. 痛い事

「ベス……お前……、お薬の容量は守れよ……」


 そう言ってみたものの、よもやすでに言葉も通じていないのではないか? シロウはそう思ったが、荒かった息が整うとベスティアの瞳はちゃんとシロウを捉えた。


「言ってられないのよ!」


 消えた、と思ったベスティアが目の前に現れて、次の瞬間にはその拳がシロウの顔面を殴り付けた。


「ぐっ……!」


 目を逸らせたら途端に撃ち込まれるだろう。どれだけ食らっても諦めずにかわす努力を続けなければ。


「あぐっ! ぐっ……!」


 さっきまでのベスティアとは戦闘能力が段違いだ。スピードもパワーも、見た目まで別人ではないか。

 薬を飲んだら戦闘能力が増した。

 この事実だけを聞いたら疑い様もない。ベスティアが飲んだのはドープの効果がある薬であろう。

 どうしてベスティアがそんな物を持っているのか、どうしてカミルを殺そうとしたのか、リヴを攫おうとしたのか、考えたくても何もまとまらない。ただ撃たれながら、いまいちどこを見ているのか分からない瞳と、真っ白な髪に悲観的になる。


「くっ……!」


 そしてシロウの身体は逆にどんどん重くなっていく。今までどうにか急所を外させて来たシロウだったが、瞼が切れて鮮血が飛び、視界が悪くなるとたびたび重い一撃を貰う様になった。打撃だけで命が削られて行く。


「ぬあああああっ!!!」


 それでもまだ防ごうと動くシロウにじれてベスティアは唾液を飛び散らせながら声を上げた。まともに入れば内臓を破れる一撃をシロウは掌底でいなす。寸でのところだ。

 それでベスティアの方が疲れたか、荒い呼吸を繰り返しながらまだ立っているシロウを睨む。


「はぁ、はぁ……なんで……」


 白くなった髪が乱れて顔を覆い、片目を隠した。


「なんで……」


 何故倒れないのか、何故反撃しないのか、ベスティアは聞きたかったのだが、シロウは独り言の様にこう言った。


「あーあ……、ベスの黒髪と黒い瞳、好きだったのになぁ……」


「な……」


 体中の血が逆流でもしたのか、白い髪が逆立って隠れていた片目が見えるとベスティアはグッと両足を地面に押し付け、そこで何かが爆発した様に一気にシロウに迫った。


「殺す!!」


 ボロボロの身体を反らせ、ギリギリでかわし、シロウはとうとう反撃に出た。両腕を回しベスティアを捕まえたのだ。


「! 殺してやる!!」


 腰の辺りにしがみ付くと、お互いにバランスを崩してゴロゴロと地面を転がった。

 ベスティアがすぐさま真上から肘を打ち下ろして来る。それをかわして今度は腕を掴む。もう片方の腕を振り上げたのを見てそれも掴む。そしてゴロリと身体を入れ替えてベスティアに馬乗りになった。


「殺す! ぶっ殺してやるーっ!」


 喚き散らすベスティアを尻目にチラリとベスティアの身体を確認する。いたるところの筋肉が痙攣している様だ。そして足首が妙な方向へ曲がっていた。折れているのかも知れない。

 ドープの効き目が切れて来ているのか、大量摂取の副作用なのか、どちらにしてももうさっきまでの驚異的なパワーは感じられなかった。


「もう痛い事するのやめろよ」


「痛いで済ますつもりはない……!」


 ベスティアがギリリと掴まれた腕を押し返そうともがく。


「ベスが痛い事をするなってんだよ!」


 散々痛め付けた相手から想定外の事を言われベスティアは息を飲んだ。痛いのも腹が立ってるのもシロウの筈だ。


「ふざ……けないで……」


「こっちのセリフ」


 シロウには最初から……ベスティアの身体に有り得ない変化が見えた時から分かっていた。これは自分の身体を壊す行為だと。そしてそれは長く続かないであろう事も。アゼムもそうだった。

 もうベスティアにはシロウを押し返すだけの力もなければ、立つ事さえ出来ない。

 シロウはゆっくりベスティアの戒めを解きそっと離れた。


「あー、いてて……。久しぶりにこんなに打たれた」


 そのまま隣りに座り、瞼の上の血を指の腹で拭う。体中痛いがどうやら骨も内臓も無事な様だ。


「どうして普通に動けるの……。私とやり合えている時点で普通ではないけど、どうして普段通りに動けるの?」


 シロウも薄々は感じていたがあの時ベスティアが寄越した飴玉はきっとドープとは真逆の効果があるものなのだろう。


「ま、寝不足くらいじゃパフォーマンスは落ちねぇよ」


 実際は身体が重くて本来もらわなくても良い攻撃をもらい続けた。満身創痍なのだが、なんて事はないとそう答え、ベスティアの飴玉には気付かないふりをした。

 もう上半身を起こす事くらい出来るだろうがベスティアは地面に寝そべったまま白くなった髪を掴んでてボソリと言った。


「シロのせいで……おしまいよ」


「そうかい」


「死にたくない」


「いや殺さねぇよ」


「シロには出来ないでしょうね、私は本気で殺す気だったのに」


「こわ! ショックな事言うな! アゼムにも同じ薬を飲ませやがったんだろう! 俺を殺させて、自分はマー君を殺るつもりだったのか?」


「あいつは頭が悪いから使えると思った……。可哀想な事したわね」


 酷い言い草だがアゼムが簡単に騙されそうな人間だと言うのはシロウも感じていた。ベスティアが力仕事にアゼムを駆り出した事を思い出す。妙な違和感を覚えていたがおそらくその時、言葉巧みに……いや、そう難しい話でもなくアゼムを仲間に引き入れたのだろう。

 ところがアゼムはドープしてもなお、シロウに返り討ちにあい戦闘不能。それも飴玉で弱体化したシロウにだ。一番の目的であろうと思われるリヴの誘拐も、まさかのカミルのファインセーブで失敗。なるほど、どこの誰に雇われていたのか知らないがスパイとしても刺客としても大失敗、シロウが殺さなくても雇い主に殺されそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ