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声なし姫の紡ぐプレア  作者: 焼肉一番


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23/48

23. 雨

「奇跡だ……。私がいくらギャグを飛ばしても一切笑い声を出さなかったのにどう言う事でしょう?」


「滑ってたんだろ」


「そんな筈ありません!」


 聞こえない様に言ったつもりだったシロウの独り言はすぐさまカミルに拾われ、余計な事を言わなければ良かったとシロウが後悔する。


「今から鉄板の滑らない話しをお聞かせしますから口に牛乳を含みなさい! 私のパンツが空を飛んだ時の話です」


「ぜってぇ嘘じゃねぇか」


「あははっ!」


 また聞こえた天使の笑い声に秒速でリヴを振り返るカミル。確かに、またリヴが声を出して笑った。


「あ……ああ……リヴお嬢様……! 今のは私が面白かったのですか?!」


 コクリと頷くリヴに、カミルはとうとう膝から崩れ落ちた。そして顔を覆って……どうやら泣いている様だと気付いたシロウは驚いて言った。


「おいおい、今初めて笑い声が出たのか? 良かったじゃないか! じゃーきっとそのうち喋れる様にもなるな!」


 そう言われたリヴはエッ! と目を丸くしてから嬉しそうに顔を紅潮させた。そうなったらどんなに良いだろうかと。


「なっ……! それは……!」


 リヴの笑い声を天使だと言って涙を流したカミルは急に険しい顔を上げた。シロウの言葉にリヴと一緒になって喜んでも良いのにと思ったシロウは、カミルの意外な反応に違和感を覚える。


「それではまるでリヴお嬢様が喋れない事が悪いみたいじゃないですかっ!? 別にこのままでもリヴお嬢様は完璧なんですからね! 変な無茶はさせないで下さいよ?!」


「そんな事言ってねぇよ」


「あ……う……ん!」


 リヴがまた声を発し、その場にいた全員がリヴを見る。


「あ……ああ! リヴお嬢様……!」


「う!」


 声は出ているが単語にしようとすると難しいのか、リヴはもどかしそうに口をパクパクしている。カミルはそんなリヴの正面に立つと、粛々と言い聞かせる様に言った。


「リヴお嬢様、私としたことが取り乱し申し訳ございませんでした。リヴお嬢様は今のままでも天使です。変に声を出そうとして何かあったら一大事ですから決して……無茶な真似はなさらないで下さいね」


 誠心誠意、リヴの為なのだろうと思う。だがこれが、リヴの笑い声を聞いて泣いて喜んだカミルの本心だろうか、やはり違和感は拭えなかった。それにリヴも複雑そうな顔をしているではないか。


「さ、お嬢様、今日はお部屋に戻りましょう! そろそろ雨が来そうですし!」


 だがカミルは、まるでそんなリヴの顔を見まいとしているのか、ギクシャクしながら少し強引にリヴを屋敷へ連れ戻したのだった。


「……雨?」


 シロウは良く晴れた空を仰いでから、去って行く二人の後姿を見送った。屋敷の玄関にはベスティアが立っている。カミルが大騒ぎしたので何事かと出て来たのだろう。


「何よあれ」


 カミルの様子が不自然だと思ったのはキーラも同じらしい。


「変だよな」


「変よ」


 思いがけない出来事でキーラと意見が合った。 


「リヴの事となると全然冷静じゃなくなるんだから」


 カミルの能力を認めてこの土地を任せているのだろうが、キーラは肩を竦める。


「リヴに……執事以上の感情を持ってそうだよな」


 シロウはその感情が恋愛感情だと思ったワケではないのだが、キーラはそう解釈して会話を繋げた。


「まさか。カミルはリヴが生まれる前からここの執事をしてるのよ。恋愛感情があったとすればリヴの母親の方でしょうね」


「そうか、好きな人の娘なら大事にしたいよな。リヴの母ちゃんってどんな人だったんだ?」


「ある日突然うちへ転がり込んで来て、あっという間にリヴを妊娠した女よ」


「なんか嫌な女だな!」


 キーラの話しだけを聞けば間違いなく嫌な女だ。だがそれはあくまで何も事情を知らないキーラの言う事で、キーラ自身もそんな簡単な話しではない事を理解している。


「ま、お母様はあたしを産んですぐに死んじゃったし、リヴの母親……ラーナがやって来たのはその後だったからね。お父様もお寂しかったんだとは思うわよ」 


 キーラはそう言って自分の父親に理解を示した。実際、リヴの父親でもあるシャンゼル伯爵はキーラの事を一番に思い、リヴを妊娠したラーナを別宅で暮らす様に整えたのだ。不器用で、少々だらしない所もあったかも知れないが、決して悪人ではなかった。

 それでも妾の女に別宅を渡すとなれば面白く思わない人間も少なくはなかったので、辺鄙な土地に、見習いの執事が一人と言う、贅沢な環境ではなかった。

 だが、当時十五歳のその若い執事がこの土地を見事に豊かにしたと言う話しだ。


「ラーナはリヴが六つになる前に病気で亡くなったって聞いたけど、それはそれは美人だったんですって。そんな美人とずっと一緒に苦楽を共にしたらさすがのカミルもポッとなっちゃうんじゃない?」


「ポッとなってたかは分からんけど、死に際に娘を頼む的な事言われたらちょっと頑張っちゃうかも」


「実際頑張っちゃってんでしょうね」


「頑張り方間違ってね?」


「間違ってるわよ。来る度に思うんだけどさ、カミルってリヴにね……」


「うんうん」


 結局、今日もシロウはキーラと会話を弾ませた。

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