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声なし姫の紡ぐプレア  作者: 焼肉一番


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21. キーラの訪問

 翌朝――。


 シロウはゾウの作成に取り掛かっていた。今日はリヴも来ないと言っていたし朝食までになるべく進めてしまおうと張り切っていたのだが……早々に挫かれる。


「あのー……何でしょうか?」


「はぁ?! ここはあたしの別邸なの。ここであたしがどこで何しようとあんたに何も言われる筋合いはないのよ!」


 リヴの代わりにキーラが見ているのだ。まるでその仕事ぶりを見張る様に。


「そうですかい、暇なんだな」


「暇じゃない! 別邸の平和を守る為の大切な仕事よ!」


 キーラは屋敷から一人掛けのソファを運ばせ、そこに悠々と座っている。アゼムはその隣りで地べたに座っていた。


「でもこんなの見てても退屈じゃないのか?」


「だから! 退屈かどうかじゃないっての! て言うか馴れ馴れしく話し掛けてこないでくれない?!」


「へいへい」


 非常にやりずらいが仕方がない。

 何もやましい事をするつもりはないし、むしろ真面目な仕事ぶりを見せ付けてやろう。その前に早々に退屈になって退散するに違いない。シロウはそう思った。


 しかし、横でウトウトし出したアゼムを尻目にキーラは熱心にシロウの一挙手一投足を監視し続けた。朝食後、屋敷から心地良いリヴのピアノの音が聞こえて来て、アゼムが完全に寝てしまってもキーラだけはシロウを見続けた。


「リヴと違ってあんた街から来たんだろう? 面白いもんいっぱいあるってのに良くこんなの見ていられるなぁ」


 話し掛けるなと言われていたが、シロウにその言い付けを守れる道理はない。


「案外面白いわよ……って! 話し掛けないでよ!」


「食いもんも着るもんも色んな店あるし、週末になるとそこらじゅうで楽器の演奏とかしてるしなー。あれ見た事ある? けっこう前なんだけどネズミの形のマリオネットでさー、つってもちゃんとズボンはいてるネズミ。ハーモニカ吹きながら踊らせるんだけどさー……」


「それ! あたしが援助したパペッティアよ!」


 驚きと嬉しさを含んだ声でキーラが目を輝かせた。


「え? マジで?」


「そうよ! 道端でトランク広げてるのを見かけたから、お金持ちが集まるバーでのステージを斡旋してあげたわ。あれはもっとお金も貰っても良い素晴らしいパフォーマンスだと思ったからね!」


「へぇ、そうだったんだ」


 どうも見掛けなくなったと思っていたら金持ちに取られていた様だ。


「あの人形繰り……」


「パペッティアね」


「あいつが居なくなってからあの場所、サンドイッチのワゴンが……」


「そうそう! 食べた事ある?!」


「あるよ。美味いよな。んでその通りから一本奥へ行くとそのワゴンやってる男の奥さんがコーヒーの店やってんだ」


「何それ知らない、美味しいの?」


「ああ、そのサンドイッチ持ち込めてゆっくり食えるぞ」


「あら、ワゴンで買った物は食べ歩くに限るわ。店でなんて邪道よ」


「ははっ、言えてる。お嬢様なかなかアグレッシブでいらっしゃるじゃねぇの。だったら当然あそこは押さえてるよな?」


 ふとしたキッカケだったが、二人はシャンゼルの人気スポットについて大いに会話を弾ませた。

 眠りこけていたアゼムもすっかり目を覚まし、時々二人の会話に相槌を打つ。まるでそれが分かったかの様なタイミングで、屋敷から聞こえて来るリヴのピアノは軽快で楽しげなものに変わった。


 シロウは黙々と作業をするよりも誰かと話しながらの方が捗るタイプで、昨日の遺恨も忘れ楽しく手と口を動かしていたが、それもふとしたキッカケで終わってしまった。


「当然ダナン歌劇場には行った事あるわよね?」


「一時期はよく行ってた。あそこの歌姫はミゼールじゃなくてリアンだと思うけどな」


「そう! そうよ! 分かってるじゃない! でも見た目の華やかさも大切なのよ。だからもうちょっとリアンには派手な衣装も……」


「そこで張り合う事もないだろ、分かる奴には分かるさ」


「もうっ! そんな事言ってるからシリルはダメなのよ!」


 一人掛けソファにゆったり座っていたキーラは予想外のところでヒートアップして立ち上がった。


「え……」


 思いがけず本名を呼ばれて作業していた手元が止まる。


「飲食店、仕立て屋、路上のパフォーマーに歌劇場、そりゃシャンゼルにはたくさんの娯楽が溢れてる。でもその中心にあるのは、スメラフィーズでしょ」


 キーラがどう言うつもりでこんな事を言うのか。シロウは困惑して緩く笑う事しか出来ない。


「デビュー以来負けなしのスーパースター? 泥臭い戦いばっかりで大嫌いだったわ。しかもドープしてあれだったわけでしょ? ガッカリよ。どうせなら派手に勝ちなさいな。コスチュームもダサかったわよね。髪も黒かったけどあれわざわざ染めてたわけ? 今見る限り地毛の色も微妙だから黒は良いとして、それならどうしてコスチュームが緑ベースなの? 地味過ぎ! 年に一度のスメラ祭の時もいつもと同じ服着てたわよね! 他の戦士を見た? 普段通りのコスチュームなのあんただけだったんだから恥ずかしいと思いなさいよ。スメラ祭に参加出来る戦士ならお金がない事ないでしょうに!」


「えっ……うっ……」


 怒涛のダメ出し攻撃にシロウは防戦一方……いや、不意打ち過ぎて喰らい続けるしかない。こう言うタイプは途中で口を挟まず全部吐き出させた方が良い。そう考えたシロウはただジッとキーラの攻撃が止むのを待った。

 髪型、衣装、勝った時のパフォーマンス、いついつの試合内容、次から次へ出て来るキーラのダメ出しは案外的を得ている様な気もする。


「……って事で! 総合的に見たらスメラフィーズのスーパースターとしてちょっと不足だったんじゃないかしら!」


 どうやら終わったと見てシロウは言った。


「……俺の事大好きじゃん」


「はっ……!!! はぁっ?!?! 嫌いよ! 大っ嫌いよ! そう言ってるでしょ!」


「え、ごめん。なんか良く見てくれてたみたいだからそうなのかなーって」


「違っ……!」


「そうだ、キーラはお前が嫌いだ。お前がドープで追放された事を知った時、泣きながら壁に飾っていたお前のサインをビリビリに……」


「ぎゃーっ! ぎゃーっ! 飾ってないバカ! アゼムバカ!」


 ずっと頷き係りをしていたアゼムが援護射撃のつもりで言った言葉はキーラに激しく拒絶される。


「俺のサイン……」


「バカッ!! アゼムのバカーッ!!」


 キーラは激昂し、逃げる様に屋敷へと走り去る。ボリューム満点のスカートを翻しながら。そしてアゼムは不思議そうにそんなキーラの背中を見送った。


「お前本当にバカだなぁ」


「シリル・ロウエンタール、お前の様な卑怯者にそんな事言われたくはない!」


 キーラの為に持って来た一人掛けのソファを持ち上げアゼムも撤収する。

 キーラが自分のサインを飾っていた。本当だとしたら、嬉しいけど悲しい。そんな気持ちだった。

 キーラはシロウの事を裏切者の犯罪者だと言った。応援してくれていたからこそ、裏切られた気持ちになったのだろう。そしてきっと、キーラの様な人間がたくさん居るのだ。

 犯罪者と罵られ、この屋敷を出て行けと言われた昨日より、キーラが自分のサインを飾るほど、そして破くほど、応援してくれていたと知った今日の方が辛かった。

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