18. 問題ありません
「違う! 俺はやってない!」
シロウがバンとテーブルを叩いたがそんなのはキーラを激高させるだけだった。
「一年前もそうやって喚いてたそうね! でも正式にスメラフィーズの調査が入って証拠が出たのよ?! 言い逃れなんて出来ないんだから! だいたい! そうでもなきゃどうして内臓が破裂したままで試合に勝てるのよ?! 説明出来て?!」
「頑張ったとしか言えねぇ……」
「バカにしてるの?!」
「本当に知らねぇんだよ! どうしてそんな事になったのかさっぱり分からない! 何をもって証拠にされたのかも分からない! だけど俺はやってない!」
「名前を偽ってここに潜り込んだ詐欺師が! 結局今も薄汚い犯罪者なのねぇ! 酷いわよ裏切者!」
随分感情的になっているキーラにシロウは何も言えなくなった。
そうだ、一年前だって誰も……ただ一人を除いては、シロウの潔白を信じてくれなかった。今また無実だと主張したところで信じてもらえる筈もない。だったらこんなやりとりは無駄なだけだ。
「クビならクビで良い」
シロウは立ち上がってくるりと背を向けた。後ろでリヴが立ち上がった気配がしたが、また腕を掴まれても困るだけだ。足早に部屋を出ようと歩き出すがカミルが呼び止める。
「シロウ君、ドープしたんですか?」
「してない」
後ろを見ないままにそう言うシロウ。信じてもらえなくても、やってない事をやったとは言えないではないか。
「なら問題ありません」
カミルの声はいつもと変わらない。え? と振り返るとカミルは真っ直ぐシロウを見ていた。その心中を探る様に。
「ふざけないで! 問題があるかないかじゃないわ! この男を信用出来ないって言ってるの! ドープよカミル?! こいつは汚い手を使って名声を手に入れたのよ!」
「本人がしてないと言ってますし私は証拠とやらを見ていません」
「はぁっ?! じゃあスメラフィーズが嘘を言っていると?!」
「アゼム君が言った様に、そんなものでもなければ信じられない強さだったのかも知れませんね。怖かったんじゃないですか? まぁもう話しは終わりですよ。シロウ君は仕事に戻って下さい」
「終わりじゃない! 許さないわよ?! カミル!」
キーラが何を言ってもカミルはもう話し合いをする気はなさそうだった。
同情でこのまま雇われ続けるのであれば大人しく出て行ったと思うが、どうやらそうではないらしい。カミルの態度はシロウを納得させた。此処に居ても良いのかも知れないと。
ベスティアは何か言いたげにカミルを見ていたが結局は何も言わなかった。歓迎されている気はしないが、リヴは喜んでいる様だった。
「マー君……俺……」
シロウが立ち尽くしたままで居ると、カミルの方が先に部屋を出て行った。すれ違い様シロウをチラリと見やって。
「カミル!!」
キーラは作った拳をわなわなと震わせてカミルの背中を見送った後にシロウを睨み、そして今度はベスティアに向き合った。
「ベスティア! こうなったら私こいつがクビになるまで帰らないわ! 部屋を用意して頂戴! 夕食は白身魚!」
「承知致しました」
ベスティアが深々とお辞儀をする。
「リヴ! 部屋の用意が出来るまであんたの部屋に居てあげるから来なさい!」
キーラはリヴにずいぶんきつく当たっていた様だったが、それでもリヴはそう言われて嬉しそうにして後に続いた。すれ違い様シロウにニッコリと微笑んで。アゼムもすぐにその後に続いたがシロウを見る事はなかった。気付けば広い個室に、シロウはベスティアと二人だけになっていた。
「……」
こんな結果を想像していなかったシロウはしばし部屋に佇む。短い時間で、焦ったり怒ったり悲しかったりもした。でもシロウは失わなかったのだ。まだ信じられない。
しかし、クビになるまでここに居ると言ったキーラの言葉を思い出し気が重くなる。
「何なんだよ、あいつ」
「あいつなんて言ってはダメよ。彼女はシャンゼル伯爵亡き今、ここの領主なんだから」
そう言われてある事に気付くシロウ。つまりキーラは本妻の娘と言う事で、リヴと腹違いの姉妹ではないか。
「カミルがふざけた人間で命拾いしたわね」
「あ……」
ベスティアもこの部屋を出て行こうとしたのでシロウは慌てて付け加えた。
「なぁ! 俺本当にやってないんだ!」
ベスティアにもちゃんと信じてもらいたかったのだ。
「でしょうね」
シロウの必死の思いを、ベスティアは何て事ない様にそう言ってお終いにした。だが何か、別の事に心を奪われている様な、何故か追い詰められた顔をしている気がする。基本的にはいつも無表情なのでシロウの思い違いかもしれないが……。




