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声なし姫の紡ぐプレア  作者: 焼肉一番


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17. シリル・ロウエンタール

「ねぇカミル、この土地はあなたに任せてもう何年にもなるし、以前よりだいぶ豊かにした事は評価するわ。でもね、いくら辺鄙な土地だからってこのシャンゼルが主に何で栄えて来たか分からないわけじゃないわよね?」


 少しは落ち着いたのか、キーラは理路整然と順序立てて話しを進めてくれる様だ。

 この言い草からするとやはりキーラは間違いなくシャンゼルの領主なのだろうとシロウは理解した。若過ぎるので娘、あるいは孫と言う線も考えられる。


「はい、スメラフィーズなる野蛮な場所で行われる興行……賭博と言った方が早いですね」


「スメラフィーズで行われる戦いは戦神スメラに捧げられる神聖なものよっ!」


「はいはいそれで?」


 キーラがシャンゼル領の領主様なのであれば、カミルの態度は随分と舐めている。この土地を豊かにした事を認めている様だがそんな態度が許される程の功績を上げているのだろうか。


「それで! こいつはシリル・ロウエンタール! 一年前までスメラフィーズで戦士をしていた男よ! 髪型も髪色も変わっていたから一瞬分からなかったけど、それでも街中で見掛ければ大半の人間には気付かれる筈だわ! それを、こんな辺鄙な田舎で髪型変えて髪色変えて名前を偽って!」


「落ち着いて下さいキーラ様、じゃあシロウ君は知名度抜群のスメラフィーズのスターだったと言う事ですね? 立派じゃないですか~。お強かったわけでしょう?」


 またあっと言う間にヒートアップして来たキーラにカミルはそう言ったが、その言葉はますますキーラを熱くした。


「お強かったかですって? え~え、お強かったわよぉ~。それはそれは無敵の強さだったの。シリル・ロウエンタールが出る試合じゃ賭けが成立しない程みんながみんなシリルに賭けるくらいにはねっ!」


「はぁ、素晴らしい。何がいけないんです、お嬢様に欲情しないスメラフィーズのスターなんて不採用にする理由がありません」


「強過ぎた……」


 アゼムがぼそりと低い声でそう呟いた。勝手に喋り出したアゼムにキーラはムッと眉を寄せたが何かに気が付いた。


「ああ、あんたも元戦士だったわね」


「戦った事はないけど、強過ぎた……。おかしいくらいに。何がそう強いのか良く分からない。ただこいつはとにかく、負けない」


 喋るのはあまり得意そうではなかったアゼムだが、まるで語らずにはいられない様にポツリポツリと言葉を漏らす。


「だから、それの何がいけないんです?」


 話しが進まないとカミルが口を挟んだ。


「一年前……、シリルに新しい挑戦者がやって来た。戦歴のない、謎の覆面男」


 当事者に近い言葉の方が良いと思ったのか、キーラは話すのをアゼムに任せた様だ。


「当然、オッズは大きく傾いた。得体の知れない新人に賭ける者などいない。金持ちも貧乏人もみんなシリルに賭けた。万が一シリルが負けるような事があれば多くの人間を失望させる事になる」


 カミルがフムと顎を撫でる。


「他人に金を賭けるなんて私には理解出来ませんが……まぁシャンゼルで生まれ育ったら当たり前なのかも知れませんねぇ」


「ああ、当たり前だ。当たり前にシリルに賭けて当たり前に勝つ。そこまで全部当たり前だった。だけどその日、シリルは早々に膝を付いた」


「おやおや」


 深刻な顔をして語るアゼムをどこかバカにしている様な相槌を打つカミル。まぁそれはいつもの事だ。


「口から大量の血を吐いて。誰が見ても内臓をやられたのは疑いようがない」


「まあまあ」


「覆面男は強かった。同じ戦士ならすぐ分かる。だがそれを差しい引いても、あの時シリルは油断していたと言うほかない。試合開始の鐘がなってもまだ観客に手を振っていたからな。それで開始早々決定的な一撃を許したとなれば、観客は覆面男が強いと言うよりシリルがやらかしたと思う」


「なるほど! つまりシロウ君はそれはそれは大勢の人の期待を裏切ったのですね。派手にお金を賭ける人もいるでしょうからその人たちの人生を台無しにした可能性だってあるわけだ。そりゃスメラフィーズで成り立ってる街でそんな派手なやらかし方したらそこには居られませんねぇ。まぁでも逆恨みも良いとこでしょう。先程も言った様に他人に金を賭けるなんてのがそもそも……」


「違う、勝った」 

 

「へ? 勝ったの?」


 シリル・ロウエンタールは勝った。最初の一撃であばらを折り、内臓を損傷し、身体が宙を舞う程強烈な二撃目を喰らったのにも関わらず、勝ったのだ。


「あの絶望的な状況を、シリル・ロウエンタールはひっくり返したんだ。ワケが分からねぇ。傷付いた身体で、口から血を吐きながら、覆面男をぶちのめした。思い出しても……おっかねぇや……」


 本人を目の前にアゼムは怯えた様な目を向けた。シロウより倍はありそうな逞しい男がだ。


「はは……」


 こうやって曖昧に笑うシロウが、本当にそのシリル・ロウエンタールたる人物なのか、知らない人間には想像も出来ないだろう。


「まぁ悪魔的強さなのは分かりましたよ。分かったけどそれでも分かりません。何が問題なのです? 観客のご希望通りに大事な試合で勝ったのでしょう? しかも大逆転勝利! 称賛されこそすれ……」 


「ところが翌日、シリル・ロウエンタールはスメラフィーズを追放された」


「追放? 何故……」


 カミルのもっともな疑問にキーラが答えた。


「ドープ。薬物……あるいは魔法で身体を改造して試合に出ていた事が分かったからよ」

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