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声なし姫の紡ぐプレア  作者: 焼肉一番


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12. セイレーン物語

 翌朝はベスティアに叩き起こされる前にちゃんと目を覚まし、仕事道具の整理から始めた。

 昨日は巨大なハサミ一本ですべて済ませてしまったがもっと細かくて可愛い庭木を作るなら道具を使いこなさなければ。


「お、良いのがあるじゃないか、これならウサギの髭なんかも表現出来るかも……ん?」


 コンコンと音がして振り返ると、道具小屋の外にリヴが立っていた。今日はネグリジェのままじゃないし、ワンピースもちゃんと着れている様だ。


「よう、おはよう」


 リヴの口が元気良く「おはよう」の形に動く。そして楽しみな事を早く早くと急かす様に両手を拳にして胸の辺りで軽く振っている。


「あー、本? 読んだ読んだ」


 リヴの顔がなお一層明るくなった。


「部屋に置いて来ちまった。返さなきゃな」


 そう言ったシロウにリヴはぶんぶんと首を横に振り、うずうずとまた拳を握る。


「正直に言って良いか?」


 リヴが何を求めているか分かったシロウがそう前置きするが、リヴはもちろんと大きく頷いた。


「どれも面白くなかった」


 リヴの目がギョッ! と大きくなり、口もあんぐり開いてしまう。正直に言って良いと了承を得た筈だが、こんな感想は少しも想定していなかったらしい。


「いやっ、まぁ別に悪くもないけど王道過ぎるって言うかよ、例えばほら、モンドハット浪漫譚って言ったか? あれとか結局最後は王子様が勝ったよな」


 シロウがこの後に何と言うのか、とても興味深そうにコクコク頷くリヴ。


「しかも普通に強くて勝ったよな」


 コクコク。


「まぁ例えばだけど王子様は王子様だから魔王より弱くても良いと思うんだよな」


 まるで「えーっ!?」と声が聞こえて来そうな分かりやすい表情を見せるリヴにシロウが続ける。


「それだと負けちまうだろ?」


 コクコク。


「だから仲間とか増やすんだよ」


 シロウのこの案も別に何の捻りもない展開だがリヴは目を輝かせた。


「んでまぁ仲間との絆とか……、いやこれも王道だなー。仲間だと思ってた奴がな? 実は魔王の手下なんだよ」


 また聞えない筈の「えーっ!?」が聞えて来て、挙句リヴはひっくり返って尻もちをついた。なんて良い観客だろうか。シロウも乗って来る。


「最後の戦いで裏切って王子様大ピンチになるだろー?」


 立ち上がってコクコク頷くリヴ。 


「ギリッギリのところでやっぱり王子様を助けるんだよ」


 この展開にリヴは「おお」と目を輝かせたが、直後に「どうして」と首を傾げた。この急展開に付いて来れない様だ。


「そりゃ一緒に居るうちに情が沸いちまったんだろ」


 シロウの補足を聞いてもリヴはきょとんとした顔で反対側へ首を傾げた。


「だからー、好きになっちゃったって事だよ」


 この使い古された結末に、リヴは衝撃を受けて一層目を輝かせた。胸の前で両手を組んで感極まった表情を見せるリヴにシロウは少し恥ずかしくなってしまう。


「なーんてな! 別に俺は作家じゃないし文章も書けないけどよ」


 言いながらハサミを持って仕事に掛かる。リヴはその後ろを付いて行って何やらうずうずとしている様だ。


「他の本か? そうだなぁ、ルイス戦記とかは山場が少なかったよなぁ……」


 借りた本は全部で六冊あったが、シロウはその全部にダメ出しをした。

 実はそのどれもが子供向けの文学作品としては名作ばかりなので、シロウが思い至らない部分で色々と計算された素晴らしい本なのだが……。


「精霊伝説とか言うのも、そもそも悪い事したのは人間なわけでさぁ」


 音楽や演劇など、街の中心で色々な娯楽に触れた事のあるシロウからすると、エンターテイメントとしては物足りないと感じてしまうのだろう。


「えーとあと何だっけ、ああ、セイレーン物語か」


 借りた本の中に少し毛色の違うものが混じっていて、それがセイレーン物語だった。海に暮らしていたセイレーンをヒロインにした悲しい童話だ。

 ヒロインは足を貰う代わりに声を失い、恋に破れ、挙句死んでしまう。もしかしたらリヴは声が出ない自分と重ねているのかも知れないが、だとしたらあまりに救いがなかった。


「逆にこれの何が良いんだ?」


 単刀直入にリヴにそう聞いてみるとリヴは最後のページをめくって指差した。


「ふむ、愛を貫いたヒロインは天使に連れられて天国へ旅立ちました……ってか? もうちょっとこの世で良い事あっても良かったろ」


 なら……? とリヴはシロウに一歩迫った。先程の様に違う展開をシロウに語ってもらいたい様だ。


「いや無理だって。さっきは超適当に喋っただけで俺物語なんて思いつかねぇもん。あっ、自分で書いたらどうだ?」


 突然の提案にたリヴはこぼれ落ちそうな程目を丸く見開いた。自分が物語を書くなんて全く考えた事もなかったのだ。シロウはリヴの想像を超えた事ばかり言う。


「そんな難しく考える事ないだろ、プロじゃないんだし、好きに書いたら良いんだよ。なら俺が書けって? いや俺は庭師だからやる事いっぱいあるんだよ、あんたは本読んでた時間を使うだけ。それに文字を書く練習にもなるじゃないか。マー君喜ぶぞ」


 シロウが庭木をチョキチョキし始めながら言うと、リヴは色々な顔を見せたが最終的にはニッコリ笑って頷いた。どうやら書いてみる事にした様だ。


「おう、適当に頑張れ~」


 リヴの背中に緩いエールを送ると、リヴはもう一度くるりとシロウを振り向いた。


「んー? 俺なら……声も戻って恋も叶って、すごく幸せになりましたーって書くよ。だけどそれじゃ文字通り話しにならないからな!」


 シロウのどうしようもない改編にリヴは嬉しそうに笑ってまた歩き出した。

 シロウも細かい作業に入る。このウサギの耳にはリボンを付けてやろう。

 そうして庭木に集中すると、朝食前の仕事にしてはつい熱中し過ぎてしまった様だ。気付くと朝食の時間は過ぎ、またベスティアに呼びに来られてしまった。

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