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声なし姫の紡ぐプレア  作者: 焼肉一番


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11. 病気か呪いか

 それからもシロウはリヴと会話をしながら作業を進めた。

 会話と言うのはやはりおかしいのかも知れないが不思議とリヴの言いたい事は良く分かったし、リヴが喋れない事で不便を感じる瞬間もなかったのだ。


「ははっ、そりゃベスも驚いただろ。今度からは気を付けてやらなきゃな! と言うか腹減ったな、今何時だ?」


 シロウはベスティアから貰った懐中時計を確認すると時刻は七時十分、食事を運ぶと言われた時間を過ぎている。時計を見たリヴもあっと言う顔を見せた。


「おし、休憩だな」


 リヴもコクリと頷いて二人で屋敷へ引き上げると、正面玄関にはベスティアが居た。


「お呼びしようと思っていました。食事が冷めますよ」


 リヴは申し訳なさそうな顔を見せすぐに階段を上って行く。自室で朝食をとるのだろう。ベスティアもその後に続いた。

 シロウも扉の破壊された自室へ戻ると、テーブルの上に食事の用意がしてあった。昨日から何も食べていない事を思い出し一気にかぶり付く。

 一瞬であらかた食べ終えてしまい、まだ足りないなぁと名残惜しそうに皿のソースをさらっているとぬるりとベスティアが部屋に入って来た。


「シロ」


「うわっ! ビックリした! 足音出せノックしろあと俺の名前シロウ!」


「シロ、あなたお嬢様の言葉が分かるの?」


 シロウの訴えを全部スルーしてベスティアは話しを進める。


「クソ、犬みたいな呼び方しやがって……。言葉なんか喋ってなかったろ」 


 そう言ってシロウは皿のソースをパンでこそぎ取り、それを口に放り込んだ。最後の一欠だ。


「ええ、それなのに会話している様に見えた。だから私が感知出来ない周波数で分かり合ってるのかと思って」


 至って真面目な顔をしてそう聞いて来るベスティアにシロウは少し笑った。


「いやいや周波数って! どっからそんなもん出すんだよ!」


「だったらどうやって会話したの?」


「顔見りゃ分かるだろ」


「顔……」


 意外そうに目を開いてシロウの言葉をただ繰り返すベスティア。


「正直どんな声かなーとは思うけど、別に不便はないよな。でもどうして喋れないんだ? なんかの病気か? いつか治るのか?」


「さぁね、病気ならいつか治るかも知れないけど、呪いかも知れないわよ」


 どこか脳天気なシロウの質問にベスティアは少し意地悪な返答をする。だがシロウはそれさえも明るく切り返すのだった。


「呪い~?? あいつ人から恨まれる様なタイプなのかぁ? まぁでも病気より呪いの方が簡単そうだけどな!」


「そうかしら?」


「ああ、術者をやっちまえば消えるんじゃないか?」


「単純ね、術者が死んでもなお続く呪いかも知れないじゃない」


「ははっ! 生きてる奴のが強いに決まってるだろ!」


 特に根拠のなさそうな、でも間違いでもない様な、そんなシロウの言葉が気に入ったのか、少し考え込むような仕草を見せた後でベスティアは言った。


「なかなかユニークな考え方ね、ご褒美よシロ」


 ポケットの中に手を入れると小さなリンゴを一つ投げて寄こす。思わずワンと鳴いてシロウはそれをキャッチした。


「食べたら仕事に戻って。昼食はもう少し量を増やしてあげるわ」


「本当か?! ありがとう! ベス!」


 リヴに勝るとも劣らないキラキラの瞳でそう言われたベスティアは、あっさりと餌付け出来てしまったシロウが何だか不憫にも思えた。


「ベスティア、さん!」


 だが甘い顔はここまでだ。ベスティアはきっちり呼び方を注意してプイと部屋から出て行く。

 さぁ、シロウは午後も庭へ出て植木の剪定だ。


「よし、今度はウサギにでもしてやるかぁ!」


 もしかしたら向いているかも知れない。

 まだ初日が終わっただけだがシロウは心地良い疲れに包まれながらそう思った。今日は庭木を何本か整えただけだが、庭木以外にも花壇や噴水もある。花壇は砂漠状態で噴水も藻が浮いていた。やる事は沢山あるがそれらが綺麗になったところを想像してみるとやりがいがある。

 気掛かりがあるとすれば、カミルだ。

 すれ違った時にこちらから挨拶をしてみたが、あからさまに敵意をぶつけて来た。どうもまだ怒っているらしい。当面の目標は庭を生き返らせてカミルの信用を得る事だろう。それにきっとリヴも喜ぶ。


「ああ、そうだ」


 リヴから本を借りていた。眠いが約束だ。少しでも読み進めてなるべく早く返してやろうとシロウはそのうちの一冊を開いたのだが……、そう気合いを入れなくてもそれはあっさり読み終える事が出来た。

 何故ならそれは、大きな文字で書かれた子供向けの冒険小説だったのだ。あんまりすぐに読み終えたので別の本を開いてみたがそれも大きな文字……。リヴが渡した本はどれもこれも、全部子供向けだった。

 薄々感じていた事だが、と言うか初対面で堂々と言ってしまったが、これを読んで喜んでいるリヴはたぶんアホなんだろうとシロウは思う。と言うより、きっとあまりにも世間知らずなのだ。世の中にはもっと面白いものが沢山あると言うのに、このお屋敷からあまり外へ出た事がないのかも知れない。 

 口のきけない、世間知らずな、家族の居ないお嬢様。


「……」


 明日はもっと可愛い庭木を作ってやろうと決めてシロウは眠りについた。

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