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クールで男嫌いな高嶺の花が義妹になったら、俺にだけ甘々にかまってきて可愛い。  作者: never_Even


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第7話 ドロドロ体育祭

「我慢なんてしてない!………だって私は………私は、兄さんのこと―――――」


胸の奥が熱くて、言葉がもう抑えきれなかった。


私は勇気を振り絞り、潤んだ瞳で兄さんを見上げる。


「兄さんのことが……!」



―――好き








―――その瞬間、春風が強く吹き抜けた。



花びらが舞い上がり、頬をくすぐるざわめきが、私の声をさらっていった。


「……っ!」


唇は確かに動いたのに、届かない。

春風に散らされるように、私の想いは空へと溶けて消えていった。


「………?ごめん神楽さん、なんて?」


私はかすかに笑って、首を振った。「なんでもない」というでさえ、出てこなかった。



―――届かなかった。



泣きそうなところを見られないように、くるっと回転して後ろを向く。


「…………じゃあ、戻ろっか」


でも、もう勇気は出し切ってしまった。もう一度言うなんて、私にはできなかった。


兄さんの方を振り返ると、兄さんは私に背を向けて歩いていく。


「ぁ……………、っ」


私は、胸の奥をぎゅっと押さえて、春風に溶けた言葉を飲み込んだ。


―――あの時、もし風が吹かなければ。

そんなことを思いながら、私はただ兄さんの背中を追いかけるしかなかった。



「おっ、凛おかえり〜!」


皆のいる桜並木のある広場へ戻ると、綾が手を振ってきた。しかし私に手を振り返す気力はなかった。


視線を落として隣に腰を下ろした。


「……どうしたの? 顔、真っ青だよ」


気づいた綾がひそひそ声で話しかけてくる。私は少し迷ったけど、結局ごまかせなかった。


綾は一瞬黙り込み、珍しく真剣な表情で私を見つめた。


「そっか…………残念だったね」


普段のからかい顔ではなく、静かに私に寄り添ってくれる綾。


「でも、大丈夫だよ。振られたわけじゃないんだしまだチャンスはあるって」


胸の奥がじんわり温かくなる。


「……ありがとう、綾」

「ん、瀬川くんも凛のこと特別な存在だとおもってるよ、だって凛はこんなにも可愛くていい子なんだしっ」

「………うん、そう…………だといいな」



 ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡



花見の後、私は告白できなかったもやもやを抱えながら、綾とカフェへ向かっていた。


店内は柔らかい光に包まれ、どこか温かく落ち着く空間。席に腰を下ろすと、メニューを眺める間もなく綾は素早く注文を済ませる。


「私は……キャラメルラテ、ホットで」


しばらくしてキャラメルラテが届き、ふーっと少し冷やしてから飲む。


いつもなら美味しいキャラメルラテも、今日はそんなに味がしなかった。


「―――兄さん」


ふと、声が漏れてしまった。


慌てて顔を上げると、気まずそうに苦笑いをしている綾がこちらを向いていた。


「……っ、ごめん、綾」

「ま、まあ………今日はこれで気分転換しなよっ!」


綾は、私にクッキーを差し出す。彼女なりの気遣いだろう。少しだけ肩の力が抜ける。


綾はわざと明るい空気を作ってくれる。


「はいはい、凛の沈んだ顔は見飽きました〜体育祭も近いんだから元気出しなよ!」


と言いながら、私の肩を軽めに叩く。


「うん………」


綾と目が合うと、彼女は静かに微笑む。


いつも私のことをからかってくるが、私が本当に辛いときはそっと寄り添ってくれる。


「ありがとう、綾」


私のとても優しい親友。




 ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡



「よーし!今年も燃えていくぞー!」


少し熱量が強い担任の声に、しかしクラスの皆も応える。


「「「「おおおおおおおおお!!」」」」


もうすぐ体育祭。

チーム分けやリレーの選手決めで、クラスは一気に熱気を帯びていく。


「ね、凛はリレー出る? 足速いでしょ」

「え、わ、私は別に……」


近くの綾がヒソヒソと話しかけてくる。


体育祭なんて正直どうでもよかったはずなのに、兄さんの真剣な横顔をちらっと見た瞬間、胸が高鳴った。


と、その時―――


「ねえ神楽さん、アンカーやってくれないかな?」


すると、周りからも賛成の声が高まる。正直、目立つことは好きではない。


けれど、その視線の先で、兄さん――蓮が静かにこちらを見ていた。


なぜだか、引けなくなって。


「……わかった。やる」


自分でも驚くくらい、はっきりと返事をしていた。






そして体育祭当日―――



校庭には白線が引かれ、テントや用具が整えられている。木々の緑に囲まれた校庭には、朝の光が柔らかく降り注ぎ、早くも熱気が立ち込めていた。


賑やかな私たちのクラスのテントには、自然と兄さんの姿がある。何気なく周囲を見渡しているだけなのに、気づけばつい視線で追ってしまう。



「よっ、なんだか浮かない顔だな、蓮」


兄さんを目で追っていると、一人の男子が彼の肩に腕を乗せて話しかけていた。


すると蓮は、小さいため息をつき


「ああ、晴斗か………俺、体育会系じゃないからな……」


蓮に話しかけたのはえきはる。軽く日焼けした肌に、眩しい程のスマイルで、多くの女子を虜にしているらしいが……私にはどこが良いのかわからない。


「……兄さんの方が絶対カッコいいし」

「ん、神楽さんなにか言った?」

「う、ううん、なんでもない!」


危ない。心の声が漏れてしまった。



「おいおい、もっと元気出せよッ!」

「ぐはっ……背中叩くなよ………はぁ、まあお前のリレーは応援してやるよ」


なかなか聞くことのできない、兄さんのかなり砕けた口調に興奮していたのも束の間、とある少女が兄さんたちの会話へ割り込んだ。


「ええ〜?じゃあ、私のリレーも応援してよ〜」


声の主はたちばななた。私は思わず唇を噛む。


「……はい、応援してます」


色っぽい上目遣いと、その体育着で、その双丘が強調されている。


にひひ、と笑う姿は私から見ても可愛い。


目の前で兄さんが橘日向に笑顔を返すたび、心臓の奥がざわつく。手元の応援用の旗を握る指に力が入る。


「ほ、ほら凛……アソコの大きさでは勝てないかもしれないけど、凛のほうが足速いし……フ、ファイト!」


そこに、綾が気まずそうな表情で話しかけてきた。無理に笑顔を作って、私を励まそうとしていることがバレバレだ。


橘日向。難敵が登場し、私たちの体育祭は幕を上げた。

次回、恋のライバル、夜の体育祭も楽しみらしい。……べ、別にいやらしい意味では……。

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