いよいよ下界、フィルガンドへ!
「い、今、なんといったのじゃ?」
「ん?魔王じゃ僕が畏怖されないから邪神として悪行を重ねて悪のカルマを集めればいいと思ったんだけど…ダメだった?」
「い、いや!ダ、ダメくない!ダメくないぞ!」
顔を真っ赤にして焦っている。いや、照れている?
「きゅ、急にどうしたの?」
「そ、その~神々の間での?ある物語がの?流行っておるのじゃよ。神々なら誰もが夢見るような空想の物語での?」
「どんな物語なんだ?」
尋ねると、フィノはさらに顔を赤くし、
「に、人間と神の恋愛物語じゃ。ある人間とある女神が恋に落ち、だがその存在の差で叶うことなく別れたのじゃ。じゃが、その間際に人間は誓ったのじゃ。『神になって再び会いに来る』と。」
「へえ、それで終わりなのか?」
「うむ。その後どうなったかは誰も知らぬ。」
フィノは寂しそうに顔を伏せる。
「フィノはその物語に憧れていたのか?」
「わ、悪いかの?こんなに長く生きているのにみっともないかの?」
「誰もそんなこといってねえだろ。ったく。むしろ嬉しいんだ。」
「嬉しい?なぜじゃ?」
「目標が増えた。」
「ッまさか」
「ああ。その、まさかだよ。」
コウキの足元に魔方陣が輝く。
「待つのじゃ!まだ、まだしたいことが…」
「ありがとうなフィノ。お前のおかげで人生が楽しみになってきた。こんな気持ちは初めてだ。
…………
じゃあな、フィノ。次合うときは神として会いに行こう。」
「うっ、うう、ぐすっ ありがとうなのじゃ。
わかったのじゃ。だから、せめて…」
唇に柔らかい感触。いつものように深くなく、激しくない、軽く触れあうだけのキス。
僕たちは互いに笑いあう。
「楽しかったよフィノ。」
「うむ。妾もじゃ。」
光が視界を染め、目を開けられないほどになる。
これでいい。まだやり残したことはいくらでもある。でも、それをするのは今じゃない。
やり尽くしてしまってはつまらない。だから残しておく。
また会える、その日まで。