悪神フィアルノリア
「え?迷子?」
「違うのじゃ!妾はフィアルノリア!悪を司る神なのじゃ!
こう見えても創世記から生きておるわ!失礼な奴じゃのう。」
「え?あ、すみません。これは失礼いたしましt」
「やめんか。気色悪い演技は妾の前ではなしじゃ。」
なぜばれた?いや、神なら当然ともいえる。さっきの神はポンコツだったりするのかね?
「まあ、おおむね間違ってはいないのじゃ。」
「ッ、心を読んだのか?」
「そうじゃよ?神ならばできて当然じゃ。まあ、ティアの奴はろくに確認もせずに使徒にしてしまったがな。」
「ティア?」
「善神オーレスティスのことじゃよ。あ奴は何かにかけて妾に対抗しようとしてくる。」
あーなんかめんどくさそう
「おお!わかってくれるか!其方は妾の唯一の理解者じゃ!」
唯一?友達いないのかな?
「うぐっ!痛いところを突くでない!わ、妾にだって友達の一人や二人…」
段々と声が小さくなっていく。
「ああ、すまん。友人がいない気持ちはよくわからん。」
「ぐはっ!」
「そんなことよりさっき言っていた使徒ってのは何だ?」
「…」
なぜ体育座りをしているのだろうか?
「わかってやっているのじゃろう!友達のいない妾を笑っているのだろう!そんな奴に話すことはないのじゃ!」
ちょっとからかいすぎたかな?
「ほら!やっぱりじゃ!妾をからかって遊んでいたのじゃ!この外道!鬼畜!」
「悪神が何言ってるんだよ。」
「それとこれとは別じゃ!プライベートでは別に悪じゃないのじゃ!」
「そうなんだ…」
なんだかなぁ
っと、違う違う
「で?使徒ってなんだ?」
「どうしようかな~妾、悪神じゃしな~親切に教えてあげるのもな~」
「…」
プツッ
コウキは悪神にアイアンクローをかました
「い、痛い痛いイタイ!あ、頭がわれるのじゃ~ああああ」
「…」
コウキは無言で手に力を加える。
「ご、ごめんなさい!もういわない!もうしないから離してなのじゃ!」
邪神は涙目でコウキに訴える。
「なら早く話せ。使徒とはなんだ。」
「使徒というのは妾たちのような神が従える、其方のような下位の存在のことじゃよ。
今、其方は善神と悪神の使徒になっておる。」
「は?今なんて言った?」
思わず手に力が入る。
「い、痛い!イタイ!イタタタタタ!ご、ごめんなさいなのじゃ!妾、今まで何人も使徒に誘ったのじゃが、皆、断られてしまっての?もう時間がないし話す前に力を与えておこうと思っての?あ、あのもう頭が割れそうなんじゃが?やめてなのじゃ!妾はこんなところで死にたくないのじゃ!」
涙があふれそうになっているのを見て、コウキは手を離した。
「ひゃ!あ、あう、ううう」
危険を感じたコウキは急いで耳を防ぐ。
「うえええええええん!!いあかっらよお!もおひんじゃうかとおもっらよお!」
コウキは対応が間違っていなかったことに安堵し、目の前の幼児が本当に神なのか疑った。
「ひっ、ひっく」
「あー、その、なんだ。悪かったよ。」
「ほんとじゃぞ!ひっく
いくら人間だといっても其方は2柱の神から加護をもらっておるのだからな!下手な下級神なら死んでおるぞ!」
え?
「ま、待て待て。冗談じゃないのか?」
「何が冗談なものか!もう本当にダメかと思ったぞ。うう…」
マジか。僕、そんなにつよくなってたんだ。
「その強さはあくまでも精神の強さじゃからな!受肉すれば妾に勝てるとは思わぬことじゃ!」
ん?てことは僕、精神体か何かなの?
「そうじゃよ?おぬしの肉体は今、グランドポート王国にあるぞ?」
「どこだよ!」
聞いたことないぞ!
「そりゃ異世界の国じゃからのう。じゃが安心せい!時間は止まっておるからいつまでもいてもよいのだぞ?」
「そうだ!カエデは?アキラは?あいつらはいったいどうなった?」
「おや?他のクラスメイトは心配ではないのか?」
「そいつらはどうでもいい。僕は僕が興味を持ったことにしか行動しない。演技をするなといったのはアンタだろう?」
「ふふ、そうか。安心せい。其方のクラスメイトは皆グランドポート王国におるよ。
じゃから、その…」
「そうか。元の世界には帰してくれないのか?」
「すまんのう。そればっかりはできんのじゃ。あ、いやできないこともないのじゃが、浦島太郎のような状態になるぞ?」
「時間の流れが違うからってか?」
「そうじゃ。ついでに言うと、今は第六次世界大戦が終わろうとしているところじゃ。誰かさんのおかげでのう?」
「まじか」
どうやら戦争を起こすことはできても参加できなかったようだ。
これはなかなかにショックだ。六年かけて、この六年ずっと楽しみにしていたのに参加できず、
ネタバレされた。
「ま、まあこれから行く世界フィルガンドは人間と魔族の争いの絶えぬ世界じゃ。魔法もあるし、其方も存分に楽しめると思うぞ?」
「マジで?行く!行く!異世界行く!今すぐ行く!」
「え、もう行ってしまうのか?」
悪神は寂しそうに言う。
「なんで残念そうなんだよ?」
「だって、久しぶりなのじゃよ、誰かと話すのは。久しぶりなんじゃよ、誰かに触れるのは。ずっと、ずっと見てるだけじゃった。ちょっと怖かったけど、嬉しかったのじゃよ。だから少しでも長くいて欲しかったのじゃ。すまんのう。」
なんでそんな顔をするのかな
昔のカエデを思い出す。
僕はため息をつき、
「時間は止まっているんだよな?」
わかりきっているが、聞いた。
「え?ああ、そうじゃよ?」
「なら教えてくれよ。フィルガンドのこと。グランドポート王国のこと。魔法のこと。色々と。せっかく時間があるんだ。有効活用しない手はないだろう?」
僕は笑う。
やがて意味を理解したのか、悪神は、
「いてくれるのか?ここに?何もないぞ?」
もう泣きそうになっている。
「お前がいるだろう。」
「うっ、ひっく、ありがとうじゃ。ありがとうなのじゃ。」
まったく、本当に悪神なのかね。
「…ノじゃ。」
「え?」
「フィノと呼んでくれ。」
「…わかったよ、フィノ」
「うむ。何が知りたい?できる限り答えよう!」
と見惚れるような笑顔で言った。
なるほど。これは、
「悪い女だ」