魔物の娘 ウルリカ 学園で土木工事を始めました
「『あなたはこれから人の中で生きていかなくちゃいけないの。だから、どんな事があっても絶対に人を殺しちゃダメ。約束して』」
ママの最後の言葉を思い出す。
あの日、私は暴走してママとの約束を破るところだった。もし約束を破ったら、私は私を許せなくなる。
だけどそんな私をメリアースさんは救ってくれた。それ以来、私はこの人のために生きていこうと決めた。
「ウルリカさん、3Fの非常階段が壊れて使えなくなってる」
「ウルリカさん、中庭に引いてある水道管が破裂しちゃった。花に水を撒けないと枯れちゃうから急いで直してくれるかな?」
「ウルリカちゃん、女子更衣室の天井に穴が空いてるの、天井にトリモチを置いてくれない?あ、穴を塞ぐのは犯人を捕まえてからね」
あれ以来、魔物が混じった半端な私を学園のみんなは受け入れてくれた。
それどころかこうして色々と頼ってくれる…少し頼りすぎな気もしなくもない。
そして今私は校舎の壁に空いた大きな穴を塞いでいる。
なぜ塞いでいるかというと…
ドガアアアァァァーーン!
「またメリアースさんですか!校内で魔術具の無許可使用はダメだと、何度言ったと思うんですか!」
「んーーと、267回?」
「そこは素直に答えなくてよろしい」
そう、尊敬するメリアース様の尻ぬぐ…後始…アフターケアを行っているからです。
ウルリカの土木工事は一点を除けば大好評だった。補修した壁など、外気に触れる部分はつるつるとした表面にする事で耐久性をあげて、床などには規則的な細い溝を入れて、滑らないように工夫していた。
さらに特筆すべきは、魔力を練り込むことで元の状態よりもはるかに耐久性が増して頑丈になっていた。
ここで、前筆した一点を除けばの一点だが、ウルリカは隙あらば至る所にメリアースの顔を彫り込もうとする。
「私としては全てにメリアース様のお顔を彫り込み、全ての人にメリアース様のすばらしさを知ってもらいたい。いずれはメリアース教を広め、世界中にメリアース様の像を建てて崇め奉るのです」
との事であった。
ー≪心理の泉学園 副理事長室≫ー
「一体どうなっている。来年には校舎の建て替え工事を始める予定だったではないか。せっかく理事会で校舎の建て替え予算760億コルを通したのに、このままでは契約が白紙になってしまう。役員共の買収に使った金も馬鹿にできないんだぞ」
「すっすみません、火球速やかに対応します」
副理事長の秘書が平身低頭、返事した。
「大変です、排水管が壊れて汚泥の漏れで周りに悪臭が広がっています。老朽化がひどく普通に修理しようとすると逆に壊れる恐れがあります」
学園の用務員が報告した。
「これだけ入り組んでいると排水管だけを取り替える事は無理ですね、コレは校舎を建て替えないと対応出来ませんね」
秘書がここぞとばかりに、校舎の建て替えを主張した。
しかし用務員の報告は想定外のものだった。
「あっいえ、すでに全排水管は修理が完了しつつあります。1年生のウルリカさんが排水管に自身の体を流し込んで内側からコーティングしました。前よりも水の流れがスムーズになりましたよ」
「大変です、トイレのペーパーフォルダーが何者かによって壊されています」
学園の用務員が報告した。
「なんだと!それでは用を足した後にお尻が拭けないじゃないか!これはもう校舎を建て替えるしかないな」
秘書がここぞとばかりに、校舎の建て替えを主張した。
しかし用務員の報告は想定外のものだった。
「あっいえ、すでに全トイレにウォシュレットが完備しました。大変快適だと大好評です。ただノズル部分にメリアースさんの顔を付けているため用を足す際に若干抵抗がある生徒がいます。逆にそれがいいという生徒もちらほらと…」
「大変です、音響室が何者かによって壊されています」
学園の用務員が報告した。
「なんだと!それでは心地いい音楽が聴けないではないか!これはもう校舎を建て替えるしかないな」
秘書がここぞとばかりに、校舎の建て替えを主張した。
しかし用務員の報告は想定外のものだった。
「あっいえ、すでにウルリカさんが壁にすぐれた吸音性能の壁で音響室を作り直してくれました。音のエネルギーを反射せずに熱エネルギーに変換する仕組みが盛り込まれています」
「大変です、非常階段が何者かによって壊されています」
学園の用務員が報告した。
「なんだと!それでは万一の事があった時に生徒の安全が確保できないではないか!これはもう校舎を建て替えるしかないな」
秘書がここぞとばかりに、校舎の建て替えを主張した。
しかし用務員の報告は想定外のものだった。
「あっいえ、すでにウルリカさんが非常階段の代わりにウォータースライダーを設置しています。生徒みんなが普通の階段を使用せず、非常階段を使用するほど大好評です」
「大変です、食堂のサンプルメニューがデカ盛りにすり替わっています」
学園の用務員が報告した。
「なんだと!それでは優良誤認で労〇にウチの学園が訴えられるじゃないか!これはもう校舎を建て替えるしかないな」
秘書がここぞとばかりに、校舎の建て替えを主張した。
用務員は心の中で「なんでやねん」と突っ込んだ。
しかし用務員の報告は想定内のものだった。
「あっいえ、すでにウルリカさんがメリアースさんの怒りを鎮めています」
副理事長の秘書が、策略をめぐらすもことごとく失敗した。
もう任せておけないとなった副理事長は、最後の手段に打って出た。もうばれても構わないと、校舎を大爆破する事にしたのだ。
ドカーーン!! ボカーン!! バカーン!!いやーん!!
「どーだ、これならさすがに貴様でも直すことなどできまい」
副理事長が全壊した校舎を指差しながら、ウルリカに勝ち誇った。
「いや、校舎爆破って、やばすぎだろ」
「副理事長、頭がおかしくなったんじゃないか?」
そして学園に警邏官が来た。
「あ、警邏がきた、こっちこっち。この人が犯人です」
「なっなんだ貴様は、儂はこの学園の副理事だぞ。はなせ!」
副理事長は抵抗も空しく、警邏官に連行されていった。
澄み渡る青空の元、全壊した校舎が静かにたたずむ。
「明日からどこで勉強するんだよ」
「せっかく入学したのに」
生徒が口々に想いを口にした。
それを聞いたウルリカが、本気を出した。
全身をゴーレムに変えて巨大化、さらに体中に魔力を満たす。
液状化した状態になり全壊してガレキと化した校舎の残骸を全て飲み込み再構築していく。
しかし、ウルリカが全力でやっても、学園の後者は半分ほどしか直せない。
「はぁはぁ、ま…だ…やれる」
ドサッ! ウルリカが魔力の使い過ぎで倒れた。
アースが傍まで行くと、ウルリカを抱き上げた。
「ウルリカよく頑張ったね。あとはわたしに任せて(ラウレッタ)」
「……ラウレッタ、うるさい」
アースが、腹話術の真似事でふざけたラウレッタを睨みつけた。
「ふふふ、メリアースさんの心の声を代弁しただけです」
「まぁ、やる事は同じだけど…」
そう言うと、アースが魔力を凝縮しゴーレムを出す、出す、出していく。
気が付くと1000体を超えるゴーレムが生み出され、次々と壊れた校舎の残骸と同化していく。
「んあ? はっ私は…」
気が付いたウルリカの目の前には生まれ変わった学園の姿があった。
どおだ!とばかりにメリアースが(無い)胸を張った。
「ふふふ、メリアースさんが、子供の後始末は親の責任って訳のわからない事を言いながら頑張ってたんですよ。どうですかこの学園は満足ですか?」
ラウレッタから、メリアースの想いを聞いてウルリカは満面の笑みで言った。
「メリアース様の顔が彫られてないので0点です!」
――おわり――
お読みいただきありがとうございました。
魔物の娘『ウルリカ』のスピンオフです。
本編を読むとさらに面白く読めますので是非そちらもお願いします。
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