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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

弾ける先に

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 ふ~む、ふむふむ……ここのところ、個人的な不祥事が取りざたされることが増えているねえ。

 お金、暴力、異性関係……いずれも、世界にこれらを取り巻く概念が生まれてから、トラブルが絶えない事項だろう。それだけ分かりやすく、影響力がでかいことともいえるわけだが。

 その大きい力ゆえに、自分が今まで築いたものを一瞬で崩しきることもできる。一発でこちらはハコ点どころか、マイナスまであり得るんだから役満放銃どころの話じゃない。

 見せしめの意味合いもあるのだろうけど、一発でほぼリカバリー不能なダメージを負わされるって、治世にひそむ爆弾かもしれないな。炎上する点も含めて。


 爆弾は爆発してこそ存在が知られる。

 弾けなければ、それはただのオブジェとして、かえりみられることなく寿命を迎えていくだろう。

 どこに何が潜んでいるか、僕たちは十分に把握しきれていないことしばしばなのだと思う。そいつは果たして幸か不幸か。これも弾けて初めて分かることなんだろうねえ。

 ちょっと前に友達から聞いた話なんだけど、耳に入れてみないかい?


 友達の祖父は生前、しばしば足を引きずるように歩くことが多かったのだという。

 戦時に爆弾の破片がかすったせいだ、とわけを話してもいた。実際、祖父の右足の側面、内股側にはくるぶし上から、膝小僧の横あたりにまで及ぶ長い裂傷の痕が見られたのだという。

 物心ついたときより、祖父のそのような姿を見ていたから、身体の調子がよろしくない人に対しさほど嫌悪の情を持つことはなかったという友達。それが、自分の小学校高学年あたりのとき、にわかに祖父の足の具合が良くなるときが来たそうなんだ。


 以前は歩くのにも不都合が見られたのに、その時期は走る姿も見せたという祖父。

 もしや、長い間の古傷が回復したのか? いやいや、長く付き合い続けたものが特効薬でも見つけたかのように、いきなり取っ払われる可能性などあるのだろうか。

 そう思う友達は、祖父が風呂に入る前後を待ち伏せて様子をうかがってみたのだそうだ。

 いわずもがな、例の右足を見やるためだった。祖父の寝間着は薄着の上にはだしなので、あの長い傷の一部だけでも確認するだけなら、たやすい。

 注意深くうかがった友達は、祖父が風呂場から出てきた瞬間にはっきり目へおさめた。

 祖父の右足の傷が、すっかりなくなっているのをね。


 病院で、あのようにはっきりと治すすべがあるのだろうか。

 お医者さんにそこまで関心のない友達としては、怪しく思うところだった。

 そして祖父自身も、それから半月程度ははつらつと動いていたのが、以降になるとまたちらほら精彩を欠く場面に出くわすようになる。一か月も経てば、また以前のようなびっこを引くようになってしまい、あの時期は何だったのだろうという気持ちも首をもたげてくる。


 ――ひょっとすると、近く祖父はまた足をどうにか治すんじゃないだろうか。


 友達の勘だった。

 もし、長年苦しんでいたものがいっときでも良くなり、それがまた元の状態に戻ろうとしてしまうなら、また良くなろうと考える。

 ある意味、依存症ともいえるかもしれない。一度味わった蜜の味を、簡単に捨て去ることなど容易なことではないからだ。

 ハードルがそこまで高くないとすれば、なおさら。そうでなくては「常習犯」などというものが、この世にたくさん生まれようはずがない。


 そう思い至った、翌日の夜明け前。

 遠く、花火にも似た音を聞いて、友達は目を覚ましたらしい。

 じっと様子をうかがうと、音はそれから何度も、しかも大きさを少しずつ増しながら耳へ響いてくるのが感じられた。

 ここからさほど遠くないところからだ。

 思い切って、上着を着ながら起きた友達は家の人が目を覚まさないよう、気配を殺しながら玄関へ向かう。

 途中、祖父の寝室をのぞいてみた。早朝から起きていることも珍しくないが、彼の姿はなかったらしい。ただ、家の中にも祖父はいなかったのだとか。


 家の外へ出て、またもう一発。よりはっきりと、音の出どころをとらえられた。

 自宅の道路をはさんで向かい側は、延々と畑が広がる友達の家。その奥地から、音は響いてくるんだ。

 出どころも具体的につかめた。また新しい音が鳴った際、畑の一角で同時に草たちがおおいに舞い上がる影が見えたのだから。

 まだ陽は上りきっていないゆえ、はっきりとした詳細は見えない。けれども、音がした直後に残った影の一部が、こちらへ向かってきているのはかろうじて確認できた。

 見間違いでなければ、かすかに足を引きずるようなかっこうで。


 とっさに物影に隠れた友達は、そのびっこを引いていたのが自身の祖父であることを見て取った。向こうは友達に気づいた様子はなく、そのまま家の中へ入っていく。

 カギはもともと開いていたから、怪しまれることもないだろう。用心のため、いま履いている靴も普段並べているものではなく、靴箱に入れてある予備のものだ。自分の外出はすぐには気取られないだろう。

 かといって、猶予がどれほどあるか分からない。

 友達は早足で畑を突っきり、現場へ急行したんだ。


 土に混じり、飛び散っていたのは赤い破片たちだった。

 血の塊にも思えたが、いくらかは立体的な高さを有するものもあったという。

 中には長々とした身を持つものもあったが、その一片はいつぞや友達が祖父の右足に見たのと同じ、茶色い傷痕を思わせる筋を浮かばせていたそうだ。

 祖父はというと、亡くなるまでの数年間。

 びっこを引く時期と、やたら足の調子がいい時期とを、何度も行き来していたのだとか。

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