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雨の音を聞いている

作者: 大橋 秀人

瞬くと、濃い闇が六畳一間の境目を曖昧にしているようだった。


気がつけば日が暮れ、自分の手のひらもはっきりと見てとれない。


2月。


朝からしとしと降り続いている雨が闇に重さをもたらしているようだ。


それでも気分は晴れだった。


昨日は、いや今日は空が白んだ頃に眠りに落ち、目が覚めたのがついさっき。


自分の好きなときに眠り、好きなときに起きる。


不思議と腹は減らないが、それでも食べたいものを誰にも気にせず食べた。


そんな生活をはじめて一週間が過ぎようとしていた。


この部屋を密かに契約し訪れた初日は今までのしがらみから逃れた解放感でいっぱいだった。


おれは自由を手に入れたのだ。


誰にも邪魔されない自由。


世間的に道を外れない限りは何も咎められることもない。


好き勝手に生きていける。


いい加減に嫌気がさしていた規則正しい生活や決まりごとなどここには何もない。


全て自分の思いのまま決められる。


金がなくなれば働けばいい。


勝手に死ぬのは良くない。


それは1人よがりだ。


自分は良くても、あとのことを考えると、やはりそれなりに最低限の生活を送る必要はある。


が、今の俺に課せられた制約はそれくらいのものだ。


いわば、社会的に【極めて自由である】と言えるだろう。


そう認識することで気分は晴れになるのだ。



それにしても、妻からは1度着信があっただけでそれから一度も連絡がない。


留守録に無言の10秒が録音されただけだ。


電気をつけると、ウィスキーの空き瓶とコンビニ弁当の残骸が部屋の隅に押しやられている。


眼下には紺色の蓑虫みたいな寝袋姿の自分があるだけだ。


そろそろこの自堕落な生活にも飽きてきたところだから、明日にでも仕事を探し始めよう。


そして自分に合った、自分らしい生活を始めるのだ。


今頃、妻は帰宅して洗濯物をこんで畳んで、子供を塾に連れていき、終わるまでに買い物を済ませ、食事の支度をし、合間に風呂を磨き、週末までの書類や縫い物などを忙しなく処理し、終わらぬうちにお迎えの時間を迎えるのだろう。


きっと夫のことなど気に止める時間などないのだ。


忙しなく動き続ける妻の姿が容易に目に浮かぶ。


部屋は当たり前に静まりかえっている。


おれは遠くの雨の音を聞いている。






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