イノダコーヒ
ピョートルは亮の出費を気遣って話をした。
「そうでもない、よく聞いてくれ」
亮は人に聞かれても良いようにロシア語で
塩見と黒崎正一郎と絵理子の話をした。
そして、潮見と敵対している山田組との
抗争そしてピーエヌエ-と国城の関係も話をした。
「おいおい、随分複雑な関係だな」
「ああ、確かに。でも1本に繋がっているのも確かだ」
ピョートルとアントンが腕を組んで亮の話を聞いていた。
「ええ、ヤクザの抗争を我々が
焚き付け潰しあってもらうつもりです」
「あはは、それは面白い」
「そしてもう1つ、内閣情報調査室の情報によると
官庁の人間が次々に自殺をしているそうです」
亮は急に小声で話した。
「なぜだ?」
「今日本人の持っている株式、資産、
そして技術が世界の悪人のターゲットです。
日本人は隣国の国民は日本人を好きだと
思っているお人好しの国民で
悪意あるサイバー攻撃を世界一受けている
事を誰も気づいていない」
亮はアントンの質問に答えた。
「サイバー攻撃ならまだしも実際に攻撃を受けたら
あっという間にやられてしまうな」
「はい」
「わかった、俺たち日本に骨を埋める覚悟で戦うぞ!」
ピョートルとアントンが握り拳を亮の前に出した。
「骨を埋める気ならもう少し和食を食べてください。
母が何を作っていいか困っています」
「わかった、努力する。だが亮ナターシャ
たちにロシア料理を教わってくれないか
ママの味が恋しくなる」
「分かりました、祇園にキエフと言うロシア料理店が
ありますからボルシチでも食べましょう」
「おお」
アントンが声を上げるとピョートルが聞いた。
「それで作戦はどうなんだ?」
「まず、京都に行ってから作戦を練りましょう」
亮はまず甲山六助から状況を聞いてから作戦を立てたかった。
「了解」
亮が二人と話を終えて席に戻ると
絵里子は少女のような寝顔で寝ていた。
京人形のような白いみずみずしい肌は
亮が学生の時に憧れた関係を持った
絵理子と変わっていなかった。
「絵理子さん・・・」
亮は絵理子を塩見と黒崎正一郎の魔の手から
命を掛けて護ってあげようと思った。
「何?どうしたの?」
目を開けた絵里子は亮を優しく見つめた。
「今、亮の夢を見ていたわ。ウフフ」
「はい・・・」
絵里子はニコニコして亮の腕に手を組んだ。
~~~~~
「晴田を誰が殺ったんだ!命取られたら取り返す。
こっちとら山田組の看板預かっているんだ。
さっさと探し出してこい」
歌舞伎町の酒井組の組事務所で組長の酒井重夫が
大声をあげ子分たちは親分の怒鳴り声に首をすくめていた。
「組長、晴田はブツを持っていたんです
売人にパケを渡す事になっていましたから」
若頭の井上が酒井をいさめた。
「なんだと、その売人の名前は?」
「橋本優弥、クラブ恋のホストです」
「そのホスト、警察に捕まる前に連れて来い」
「はい」
井上は子分を連れて橋本の部屋に向かった。
~~~~~
亮は絵理子の頭を寄せ合って居眠りしそうになった時
森から電話がかかってきた。
「はい、亮です。その後どうですか?」
「ああ、殺された晴田の財布には50万円が
入っていたままだった。
警察は怨恨かヤクザ同士の抗争と見ている」
「物取りの犯行じゃないとしても金額が大き過ぎます」
「ああ、50万円は集金か取引の金で自分の物ではないはずだ」
「取引ですか?」
「酒井組はヤクを売っていると言う噂がある」
「そうなると犯人は麻薬を売った相手ですか」
「ああ、そう思っても間違いないだろう」
「そうですか、塩見は関係していないですね」
「おそらく」
塩見は菊池が山田組に殺されたと思い
その報復に真田組に殺らせたのかと想像していた。
亮にとって森の答えは期待はずれだった。
「また、教えてください」
亮は元気なく森に伝えた。
「ふう」
亮がデッキから戻って席に着くと
ため息を付いた。
「どうしたの亮?」
絵里子が亮の落ち込んだ顔を見て聞いた。
「昨日百人町で起きた殺人事件の
犯人が僕の予想と違っていました」
「犯人の予想って、サスペンスドラマみたいね。
どんな人を予想していたの?」
「塩見です」
「塩見!?」
亮は菊池のベッドの上の大量の血液と
赤坂に塩見の事務所にヤクザ達が
集まっていた事を話した。
「それは私だって塩見が誰かにやらせたと
思うわ。塩見は悪人だもの」
「ええ、悪人です」
「だって正一郎と組んで私と祐希を
黒崎グループから追い出そうとしている」
「絵理子さん知っていたんですか?」
「すべて六助さんが教えてくれたの。
塩見は私の店に時々来て客の数や客質を見て
様子を伺っていたわ」
「なるほど、何か有ったらいつでも店を
潰せる様にしているんですね」
「それを考えると、塩見が来るたびゾッとしたわ。
祐希がトップに立たせるのが
死んだ黒崎憲治の意志なの、亮助けて」
「分かりました。塩見と黒崎正一郎さんを
切り離して悪巧み未然に防ぎます」
「お願いします」
絵里子は亮の手を握って頭を下げた。
~~~~~
13時18分に京都駅に着くと
亮たちは大型タクシーを貸切り
絵理子の案内で2時間ほどの市内観光を終え
アイザック達を祇園のロシア料理キエフに送り
絵理子と一緒に甲山六助と待ち合わせのイノダコーヒ店に入った。
「イノダコーヒ?」
「そう、ここはイノダコーヒ、伸ばさないのよ」
亮は落ち着いた雰囲気の店内を見回すと
白髪の紳士が立ち上がり頭を下げた。
「御無沙汰しています、絵理子さん」
「六助さん、お久しぶり。こちら團亮さんです」
「團さん?」
甲山は内村に言われていた亮の名前を聞いて
驚いていた。
「うふふ、ごめんなさい。
内村さんが言っていた人物と同じだったみたい」
絵里子は六助に笑って答えた。
「初めまして團亮と申します。私と絵理子さんは・・・」
「言わなくていいですよ。黒崎社長はもう亡くなっていますから」
六助は亮と絵理子の関係を感じ取っていた。
「團さんは祐希の大学の先輩で、祐希がアメリカでお世話になったのよ」
「祐ちゃんが!そうですか、それはそれは」
亮が祐希の面倒を見てくれた人物と知って
六助の顔が急に穏やかになった。
そこに祐希が入ってきた。
「祐希どうしたの?」




