幸田美喜
「栗田さんって不思議な人ですね、
銀行の方なのに政治の方に詳しいし
お付き合いも有るなんて」
「あはは、父が政治家だったものですから」
「国会議員ですか?」
「いいえ、市会議員で去年引退しました。
議員の仕事は思ったよりも過酷で収入も少ない。
今は市民オンブズマンの監視が厳しくてジュース1本
経費で飲めないんです。でも私は市のために身を粉にして
働いた父を誇りに思います」
「素敵ですね、本来政治家は欲を捨ててボランティア精神で
するものです」
絵里子は政治家嫌いの亮が普段言っていた受け売りを語った。
「ありがとうございます、黒崎さん」
絵里子は栗田に礼を言われたが実は
なぜ真壁がメインバンクのいなほ銀行ではない
四菱銀行の栗田と一緒にいるか知りたかった。
「やあ、お待たせ。栗田君どうしようか?」
先ほど絵里子を信用していない様子の
栗田に気遣って真壁は栗田に聞いた。
「はい、やはり黒崎さんにお願いしましょう。
先方のお嬢さんも安心できると思います」
「ああ、そうかね・・・」
真壁は態度が急変した栗田の顔をマジマジと見た。
そこにロビンから借りた絵里子のスマートフォンに
電話が掛かってきた。
「絵里子さん、今何処ですか?」
「あら、美喜ちゃんどうしたの?」
「ロビンから亮の意識が戻ったと聞いて
ハワイに来ちゃいました」
「ありがとう。私はアラモアナショッピングセンターにいるの
こっちへ来て紹介したい人がいるの」
「はい、直ぐに行きます」
「真壁さん、友達が来るので少し待っていただけますか?
彼女の方が私よりお嬢様に年齢が近いと思います」
「ああ、いいよ」
真壁は美しい絵里子プラスして
若い女性と聞いて顔がほころんでいた。
~~~~~
「ハーイ」
ピンクのタンクトップに白のショートパンツを履いた。
マギーが病院の裏の通りに止まっていた車の運転席の
男に声をかけた。
「ん?」
男は窓を開けた。
「こんなに暑い所に車を止めて何をやっているの?
暇なら50ドルで遊ばない?」
マギーはそう言って車の後部座席を指さし舌をペロペロ出した。
男はマギーの豊満な胸の谷間を覗き込んで生唾を飲み込んだ。
「今は仕事中だ、あっちへ行け!」
「じゃあフ○ラだけで30ドルでどう?」
「しつこいな!」
男は車の窓を閉めた。
「フン」
マギーはそう言って車の前に回り右手の中指を立て
フロントを蹴飛ばし車を揺らした。
「ビッチめ!」
男は前を歩くマギーのお尻を目で追った。
マギーは木陰の道路を右に曲がると
小妹が立っていた。
「マギー、お陰で車に盗聴器と発信機を取り付けられたわ」
小妹はマギーの手を握った。
「ううん、亮は元気だった?」
「うん、でも下半身が動かないんだって」
「まあ、まだ回復しないの?」
マギーは心配そうに言った。
「うん。それなのに看護師のマリエが亮と怪しいのよ」
「本当?くそ!マリエの奴」
マギーは大声を上げて驚いた。
「うふふ、それが亮なのよ」
マギーが怒っていると小妹がマギーをなだめた。
「とにかくあの男が何処に行くかだね」
「うん、あいつのボスをとっ捕まえてやる」
「ところでジェニファーと連絡が取れた?」
「うん、それが彼らはFBIでも特殊チームらしくて
ジェニファーも良く分からないみたいよ。
今こっちに向かっているわ」
「わあ、ジェニファーもこっちへ
来てくれるなんて心強いわ」
「でもジェニファーは亮と仲がいいから・・・」
マギーはジェニファーに嫉妬していた。
「何を言っているの飛行機内で
敵の半分を倒したのは私達よ」
「でも車輪に付いた爆弾を
撃ったのはジェニファーよ」
マギーは目に涙を浮かべた小妹の胸に顔を埋めた。
「マギー、一度亮に抱いてもらった方が良いよ」
小妹はマギーを強く抱きしめた。
「うん、でも私達兄妹だから・・・
それに1度じゃ済まそうだし」
マギーは自分が亮の妹になった事を
ある意味で後悔していた。
小妹とマギーは止めてあった車に乗り込んで
受信機のスイッチを入れ周波数を
140.000MHzに合わせると
亮の声が聞こえた。
~~~~~
「マリエ、今日何時に出ますか?」
「勤務が5時までだから5時15分には出られるから
夕日を観ながら食事が出来るわ」
「いいですね、夕日」
亮は意識が戻ってから一度も
ハワイの夕日を観ていなかった。
「ええ、特等席をリザーブしてあるから楽しみにしていて、
亮はどんな魚料理が好き?」
「魚の皮なら何でも」
「魚の皮?」
マリエはおどろいて声が裏返った。
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「うふふ、相変わらず亮は魚の皮だって!」
無線を聞いていた小妹が吹き出した。
「亮ってそれだけじゃないの。チキンの皮も大好きなの。
私、亮にいつも取られちゃうもの」
マギーが嬉しそうに話す姿は
マギーが心から亮を愛している様子を
まざまざと見せつけていた。
「マギー大丈夫だよ。亮はマギーを心から愛しているよ」
「うん」
亮の生の声を聞いたマギーは、
心は次第に落ち着きを取り戻してきた
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レストランの真壁と栗田の前に
デニムのミニスカート姿の美喜が現れた。
「お待たせしました」
「あっ、幸田美喜!」
栗田が唖然として美喜を指差し立ち上がった。
「はじめまして、幸田美喜です」
美喜は真壁と栗田に長くて黒いストレートヘアを
垂らし深々と頭を下げた。
絵里子がみんなを紹介し終えると
四人は席に座った。
「絵里子さんの知り合いがモデルの
幸田美喜さんとは驚きました」
美喜のファンだった栗田は喜びいっぱいで
目を逸らし気味に美喜に話しかけた。
「栗田さん、よく一目でお分かりになりましてね」
「はい、ファンでした」
40過ぎの栗田が顔を赤らめて答えた。
「ありがとうございます」
美喜は栗田の腕を掴んだ。
「い、いいえ」
栗田の体は緊張のあまり硬直していた。
「絵里子さんは放っておいてそろそろ
娘の買い物に行きませんか?」
真壁は栗田に気を使い笑いながら言った。