接触
「亮、乗客の安全の確保の為に下田さんと根本さんが降りたわ」
新宿で待機している亮に美咲から連絡があった。
「了解です。賢明な判断です。お二人の用が済みましたら
後を追うように伝えてください」
「分かったわ」
「ひょっとしたら、ひょっとするかもしれません」
「何?」
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「うふふ、いらっしゃいませ」
一恵は呟き7号車から来た国城に体をぴったり付けて
バッグの感触確かめた。
固くて重い一恵は国城のバッグの底に発信機を取り付けた。
女装した国城はドア越しに警察らしき二人が降車したので
ホッとした様子で7号車に戻ってバッグの中に手を突っ込んだ。
マギーと早苗と一恵は人の流れに乗じて国城を取り囲んだ。
「逃がさないからね」
マギーがつぶやいた。
三人は国城の行動をつぶさに監視しようとしていた。
国城はバッグの中に繋がる
コードの着いたスマートフォン大の物を
取り出し液晶画面の操作を始めた。
ガタゴトと聞こえる電車の音に重なって
「ピッ」
と言う音が聞こえた。
「仕事をやったわね」
早苗がつぶやいた。
一恵はドアの方に移動して亮にメールを打った。
「国城は大きめのパソコンサイズで3kg位の荷物を持っていて
手元に液晶のコントローラーを持っていたわ。
それからさっきピッと言う音がした」
「間違いなくスキャナーですね」
「ええ。それからバッグに発信機を付けました」
「了解、警察の二人が降りたので安心して仕事をしたと思います。
引き続き監視をお願いします」
~~~~~
「下田さん、そちらの様子は?」
美咲は乗客の事が気になって連絡をしてきた。
「はい、一人は右手の小指を骨折、
もう一人は足の中指の上の方の骨折病院へ
搬送露出した男は駅前の警察官に引き渡しました」
「それで、被害届は?」
「それがただの偶発的な事故だと言って
被害届けを出さないそうです。
通勤途中の怪我なので労災が効きますから」
「わかりました、直ぐに上り電車乗ってください」
「了解しました」
普通骨折と言う大怪我をすれば警察は加害者を
探すのだが下田は美咲の指示が腑に落ちなかった。
「下田さん、何か変な事件ばかりですね。
普通骨折されれば被害届を出すのに
下半身を露出していた男は突然ズボンが脱げて
腰が曲がらなくてズボンが上がら
なかったなんで言い訳しているし」
根本は今まで鉄道警察隊で体験した事のない事件だった。
「ああ、もし犯人が同一人物ならそうとう腕力のある男だろう。
我々が現場車両に着いた向ヶ丘遊園で電車を降りて
他の車両に移った可能性が高い」
「なんて悪い奴なんだ」
下田と根本の頭の中には大柄なスーツを着た
サラリーマンの姿が浮かんでいた。
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「亮、一恵さんが取り付けた発信機の電波確認できました」
「了承」
雪は発信機の電波の確認を取って亮に報告した。
「混んで来ましたね」
亮は西口地上改札に待機している樫村に話しかけた。
「ええ、先ほど原警視から7号車に国城が
乗っていると連絡が有りました。
それでなければ一挙に1000人以上降りて来るんですから
不可能でした」
「そうですよね」
亮は返事をして乗降客の流れを見つめていた。
「亮、駅の周りの防犯カメラをチェックしたら、国城は
歩いて代々木方面から歩いてきたみたい」
防犯カメラの映像のチェックを終えた
麻実から連絡があった。
「分かりました、ご苦労さま」
「まだ、8時。9時から会社が始まる人たちは
ここから乗り換えて次の場所に移動する。
多くは新宿からJRに乗り換えて山手線で渋谷、池袋方面
中央線に乗り換えて四谷、東京。丸ノ内線に乗り換えて
赤坂、霞が関、赤坂で乗り換えて新橋方面。国城は
次どこへ向かうんだろう」
樫村は腕を組んで考えていた。
「国城は朝のラッシュに乗じて姿を消すつもりですね」
白石が言うと亮は国城はなぜ毎日のように電車の乗って
ICマネーを取っているのか考えていた。
「ひょっとしたら機械のチューニングをしているんじゃないか?
国城はまだ我々の動きに気づいていない。自宅に帰らないのは
機械をチューニングするラボがどこかにあるはずで・・・
それが新宿駅まで歩いてこれる場所だった」
亮は国城の身に自分を置き換えて考えた。
「ダメだ、僕には女装は出来ない」
亮は外反母趾になりそうな細いつま先とハイヒールの靴を
想像して首を振った。
「白石さん、ニューハーフって女性に興味がないんですか?」
亮は突然女性である和子にニューハーフの話を聞いた。
「さあ、私は女だから良く解らないけど
テレビに出ているニューハーフや
オカマたちは男が好きみたいね」
「そうですよね。性同一性障害か・・・」
「どうしたんですか急に・・・」
「国城が本物のニューハーフなら彼氏が
居てもおかしくないですよね。
あれだけ美人なんだから」
「ええ、おかしくないと思うわ。アメリカでは
そんな男いっぱい居たでしょう」
「それが男どころか女性もいましたよ」
「とにかく国城の交友関係を調べてみるうちに
何か分かると思います」
「そうですね、そうです」
亮は自分で自分を納得させた。
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7時53分マギーが起こした骨折事件にも関わらず
定時に下北沢駅を出発した。
「下北沢駅定時出発、国城に動きなし」
一恵は詳細に国城の状況を亮にメールで送った。
亮は国城が何処まで切符を買っていたか気になっていた。
もしICカードを持っていたら自分で自分のチャージをとってしまう
という事は切符を買っていたに違いなかった。
「国城は乗車した新宿駅から降りられない
罪を犯した人間はキセル乗車で
駅員に捕まる訳には行かない
つまり国城は新宿駅以外で降りる」
そう確信した亮は無線で一恵に無線で連絡を取った。
「一恵さん、国城はどうしていますか?」
「ええと、少しドアの方向に移動したみたいだけど」
一恵の声の向にブレーキの音が聞こえた。
「国城は南新宿駅で降りるかもしれません注意してください」
「了解」




