美奈子
「うーん、あの二人が東京に帰ったとなると
あんた、いや團さんには用がないな
・・・ちょっと上に聞いてみる」
その間に亮のスマートフォンのメールが鳴った。
「塩見正長は大日本経済研究所所長。京都に本部を持つ総会屋で
山口がいなくなった今、東京と大阪を押さえる
日本最大の総会屋です、部下には相当乱暴な
連中がいるので気をつけて」
「了解、ありがとう」
「おい、その製品を明日東京で
俺の上人間に見せられるか?」
「はい、分かりました」
「わかった。俺の名前は宮部誡だ」
リーダー格の男は照れくさそうに言った。
「よろしくお願いします。その胸のバッチ三階菱紋ですね。
三階菱は清和源氏を祖とし武田家の子孫である
小笠原家もしくは塩見家の家紋です。関係が有るんですか?」
「そ、そうだ」
宮部はバッジを見て塩見と言う名が出てきた事の驚きの表情に
亮は宮部が塩見の子分である事を確信した。
「では、明日東京で会いましょう」
亮がそう言って四人に握手をした。
「じゃあ、またね」
マギーもニコニコ笑って四人と握手をした。
そして、そこに宮部の電話がなった。
「團です、この電話番号で良いんですね。
メールはショートメールで」
「はい・・・」
当初亮を脅かすつもりで米倉庫に連れてきた
宮部は突然電話がかかってきて唖然としていた。
「なぜ?分かったんだ・・・」
「さあ、何故でしょう。明日話しをします」
亮は笑いながら倉庫を出て行った。
「亮、何故宮部のスマートフォン番号分かったの?」
「さっき三瓶君がスマートフォンを
いじっている時に宮部と言う名前が有った、
その上が美菜子、彼女の名前かな?」
「はあ、なるほど」
マギーは亮の頭の構造がどうなっているか不思議だった。
「そういう訳で今夜は宮部は恐ろしくなって
僕達に手出しをしないはずだ」
「野田さんたちを東京に逃がしたって教えていいの?」
「うん、元々彼らが野田さんを張っていたのだから
問題ない。おそらく野田さんの姿が突然消えたので慌てて
東京の仲間に連絡をして差し向けたところ
野田さんの自宅の電気が点いていて驚いて
家の中に飛び込んだんだろう」
「そうか・・・」
マギーは亮の推理力に感心した。
「そうだどうしてボードを宮部に見せたの?」
「宮部が誰の命令で動いているか知りたかったから
あの製品を見せれば誰でも興味を持つはず
撒き餌にはちょうどいい」
「じゃあ、野田さんを裏切るの?」
「いや、逆だよ。野田さんを必ず社長にする」
亮は立ち止まり後ろを向いた。
「三瓶くん、一緒に歩きませんか」
「えっ?」
三瓶は亮に声を掛けられ驚いて立ち止まった。
「どうせ付けさせられていたんですよね、
近い方がいいじゃないですか」
「はあ」
三瓶は亮とマギーの間に挟まって歩いた。
「三瓶さん、おいくつですか?」
「20歳です」
「どうしてこの仕事を?」
「去年、勤めていた木材加工会社倒産してしまって
お金が欲しいのでこんな仕事でも・・・」
三瓶は自分の仕事を恥じていた。
「そうですか・・・美菜子さんは彼女ですか?」
「えっ?み、美菜子は妹です」
三瓶は突然自分の妹の名前を亮に言われて驚いていた。
「妹さん美人?」
マギーは亮が聞きたかった事を
ストレートに聞いた。
「高校で一番の美人です」
「いいんじゃない、亮」
マギーは亮を肘で突いた。
「三瓶さん、よかったら妹さんの写真見せてくれませんか?」
「はい」
三瓶はスマートフォンの写真を探して亮に見せた。
「わあ、綺麗な子ねスタイルも良いし」
マギーが褒めると三瓶は喜んで美菜子の踊っている映像を
映し出した。
「どう?亮」
「うーん、まだまだ自己流ですね。
良いインストラクターに付けば伸びると思いますよ」
三瓶のスマートフォンのモニターを
退き込んだマギーと亮が覗きこんだ。
「そうなんです。美菜子は伸び悩んでいて俺、どうしても妹に
東京のダンススクールに行かせてやりたいんです」
「ダンススクール?妹さんダンスをやるんですか?」
「ええ、とても上手くてダンスコンテストで
秋田代表になったんです」
三瓶は自慢の妹の話に熱がこもっていた。
「良かったら僕の方で無料でダンスレッスンを
してあげてもいいですよ」
「團さんが教えるんですか?」
「いえいえ、ちゃんとしたインストラクターが教えます。
もし東京に通えたらの場合ですけどね」
「妹に聞いてみます。夜行バスなら
往復でも1万円掛かりませんから
大丈夫だと思います」
「その金額なら二人運転手のバスですね」
「はい?」
三瓶は言っている意味が分からず首を傾げた。
三瓶は慌てて美菜子に電話を掛けて事の次第を説明した。
「大丈夫だ、俺を信じろ!間違いねえ人だ」
亮を信じた三瓶は必死で妹を説得した。
「兄貴は信用できねえから、直接團さんに会ってみるって
今、リッチモンドホテルの方へ来ます」
「分かりました、ホテルのロビーで待ちましょう」
亮が言うと三瓶は二人の顔を交互に見て聞いた。
「お二人は恋人同士ですか?」
「うん、そうよ。どうして?」
マギーは恋人同士に見られて機嫌よく三瓶に聞いた。
「さっき、マギーさんがナイフを突きつけられた時。
『止めろ!』と言って
必死で止めたから」
「なるほど、そう見えましたか・・・」
亮が『止めろと』言ったのはマギーがナイフを突きつけていた男に
何をするか分からなかったからだった。
「團さん、外人の凄い美人が彼女なんでうらやましいです」
「ありがとう、サンペイ」
マギーは嬉しくて三瓶に胸を押し付けると
三瓶の顔は真っ赤になった。
赤い体操着の少女が自転車をこいできた。
「兄ちゃん」
三瓶を見つけた美菜子は駆け寄って
亮とマギーに頭を下げた。
亮は礼儀正しく、艶のある黒髪を編み
下げにした八頭身の少女が眩しく見えた。
「團です」
「マギーよ、よろしくね」
ニッコリと笑って手を差し伸べたマギーの手を
やわらかく握った。
「家のほうは大丈夫?」
「はい、家族はもう寝ましたから」
亮が美菜子に聞くと美菜子は
恥ずかしさのあまり亮の顔を見ずに
答えた。
「じゃあ、ココアでも飲みませんか。
自転車で来たから寒かったでしょう」
亮は少しでも美菜子の気持ちを和らげて上げたかった。
「僕はRRレコードのプロデューサーをしているんです。
実は12月に来日するブルックの高校生バックダンサーを
育成する予定です」
「本当ですか?」
三瓶が亮に擦り寄って聞いた。
「本当ですか、そう言って私をだまそうとしていませんか?」
美菜子は疑いの目で亮を見た。
「いいえ、僕は君のルックスが気に入りました。部活は陸上?」




