入管の謎
「桃華さん、お願いね」
「分かりました」
待機していた桃華はマグを持って事務室を出て行った。
「マギー、本当に大丈夫なの?」
「ええ、亮の指示で作った四塩化炭素と二硫化窒素の混合物質で
マジックや映画の特撮で使うそうです。低い温度で燃えるので
炎は出るけど燃やされた物体には全然影響が無いそうです」
マギーは聖子の不安を打ち消すように
液体の正体を明かした。
「良かった・・・念のために、奴らが出て行ったら
直ぐに消化させるように
準備させておくわ」
監視カメラに映った映像を証拠に二人を放火の罪で
逮捕するための準備は整い、聖子はドキドキしていた。
聖子が見ているモニターにロッカールームの
立花と千葉が着替えを始めた映像が映った。
「着替え始めたわ」
聖子がそれを見て声を上げると
マギーがモニターを見て呟いた。
「やっぱり、亮の体最高!」
「マギーあなたそんな所見ていたの?」
聖子に言われマギーは当然のようにうなずいた。
~~~~~
着替えを終えた立花は千葉に目で合図を送って
ロッカールームを出て行くと
千葉はロッカールームの奥にマグに入っていた
液体をばら撒き火をつけて外へ飛び出した。
「やったわ、聖子さん」
「了解」
聖子は直ぐに渋谷署に電話をかけると
同時に備品室からも火の手が上がった。
立花と千葉は非常階段を駆け下り外に飛び出すと
その目の前にピョートルとアントンが待ち構えていた。
「わああ」
千葉は一瞬後ずさりをするとアントンにビルの壁に追い詰められ
腕を捻り上げられ道路にうつ伏せにさせられた。
立花はピョートルに首を絞められ宙吊りにされ悶え苦しんでいた。
「大した事なかったな、この二人」
アントンが言うと蓮華と桃華が立っていた。
「それは私が前もって関節を痛めておいたのよ、
あなた達に本気でかかって行ったら殺しちゃうでしょう」
「まあ、そうだな・・・ありがとう」
アントンは素直に桃華に礼を言った。
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「亮、犯人を捕まえて警察に引き渡したわ」
「了解、マギー今から秋田に行くから準備してくれ」
「・・・」
「どうした?」
マギーから返事が無くて亮は心配して聞きなおした。
「うれしー」
電話の向こうでマギーが声を上げた。
「おいおい、遊びじゃないぞ」
「分かっているわ、白熊さんたちは行くの?」
「ピョートルとアントンは行かない。
マッスルカーブでまた何が有るか連華と
桃華と一緒に監視してもらわなくちゃいけない」
「分かった、私がしっかりガードするからね」
「15時30分の飛行機だから14時30分に羽田に来てくれ」
「了解」
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ニューヨークのケイトにシンディから連絡が
ありブルーノ・ジャックマンとレストランで一緒に食事をしてた。
「シンディ、ケイト、亮がマッスルカーブの件で
苦戦している。相談に乗ってやってくれないか」
「どうしたんですか?」
「亮から連絡があって何者かに妨害を受けて
会員が減ったらしい、すべて私のせいだ」
ブルーノは自分のトラブルのせいで日本の
ジムに影響を与えたと思っていた。
「彼の事だから相手は直ぐに捕まえるだろうが
、落ちた信用は取り戻せるかどうか」
「そうだったんですか。何も言ってくれないから・・・」
シンディはハイジャック事件以降の亮の事を心配していた。
「一時は危篤状態になって心臓が何回か止まったそうだ。
今は残務整理で奔走している」
「そんな事あったのね、心配していたのに何も言ってこない」
「あいつはそう言う奴だ、心の支えになってやってくれ」
「じゃあ、ケイト日本に行っちゃえば」
「それがいい」
「ジャックマンさんこそがんばってください」
「ああ、そうだな」
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亮は日比谷のTホテルで原巌と美咲と三人で昼食を取った。
「色々大変だったな。お陰で日本はテロに
屈しない態勢を主張できた。ありがとう」
「いいえ、とんでもないです。ところで
怪我をした人たちは大丈夫なんですか?」
「伊藤大使夫妻はマスコミの取材攻撃を受けて
耐えられなくなって退官したよ」
「そうですか・・・」
「神田夫妻も離婚したわ、傲慢な妻の態度に
親戚中が追い出したようよ。慰謝料もほとんど取れなかったみたい」
続いて美咲が神田夫妻の情報を週刊誌のネタの受け売りのような話しをした。
「あはは。夫を踏みつける奥さんはまずいですよね、肩を撃たれた青年は?」
「青年の傷は回復したけど、あの二人は別れたそうよ、なんでも神田さんが献身的な態度にお礼をしたみたい。きっといい事あるわ」
「僕も彼女を評価します。詳しい情報ありがとうございます」
亮は笑いながら頭を下げた。
「再建中のJOLは池森会長、大仁多社長が責任を取って辞めたお陰で風通しが良くなったみたいだな」
「はい、その情報は聞いています」
「実は今回の事件で美咲は対策室をリードしていた事、
私は情報管理の責任者としてかなり立場がよくなったよ、ありがとう。近々警視正への一歩は進んだな」
巌は満面の笑みで亮の肩を叩いた。
ハイジャック事件が乗客の人生を大きく変えた事は事実で
亮はその状況の中にいた事を改めて感じていた。
「そうだ、頼まれていた外国人インストラクターの労働ビザの発給の件だが
直ぐに降りるそうだ」
「何か妨害でも有ったんですか?」
亮は発給が遅くなっていた理由を知りたかった。
「それは何も言わなかったがおそらく現場レベルで
何かがあったのだろう」
亮は巌に聞いたそれはとても悔しく、現場で
発給を遅らせた人間を調べたかった。
「ありがとうございます。助かります」
「うん、美咲に聞いたんだが何者かに妨害を受けているらしいな」
「はい、ヤクザが会員と何者かにスタッフに脅しを掛けられました」
「そうか、警察官を会員に入れたらどうだ」
巌がそう言うと警察OBを顧問にしなくてはいけないのかと
不安になって亮は巌の顔を上目使いに見た。
「あはは、退官者を引き受けろとは言わない。ただ将来
セキュリティ会社を作る事を考えてくれないか。
これはビジネスマンの君に対しての頼みだ」
「ああ、それは以前から考えていました。任せてください」
巌は亮と握手をした。
そして警部昇進の礼をいった
「それで亮を警部して良かったわね」
「何か研修が有るんですか?」
「本当は半年間警察大学に行かなきゃ行けないんだけど・・・」
亮は小さな声で美咲に聞くと美咲が巌の方を見た。
「何日か研修を受けてくれ、後は法律の勉強だ」
「分かりました、法律は大丈夫です」
亮は巌に何日かと聞いて急に顔がほころんだ。
「ところで警部になると何が変わるんですか?」
「そうね、管理職になるだけで亮には関係ないわね。
司法警察員として
逮捕状を請求できるわ」
「そうですか、じゃあ美咲さんの下に
捜査係を作って良いですか?」
亮が言うと美咲は答えられずに巌の顔を見た。
「そ、そりゃあ内容によるが何だ?」
「まだ、決まっていませんが決まったら報告します」
「わかった。任せる」
巌は亮が変な事をするとは思っておらず
亮に任せる事にした。
亮は法務省入国管理局の何者がビザの発給を
遅らせたか理由を知りたかったが
法務省に警察が手を出せるわけが無かった。
それを察した美咲が亮の耳元で囁いた。
「亮、父はああ言っているけどヤバイ事に
手を出す時は相談してね。岡村幹事長の事も」




