デモンストレーション
「この男の身分証のコピーを見せてください。
立花智也と千葉昭夫です」
「はい、直ぐに」
聖子が立花裕也と千葉昭夫の免許証のコピーを
亮に見せると亮は樫村に電話を掛けた。
「お久しぶりで樫村さん」
「あっ、團警部お久しぶりです。体調はいかがですか?」
「はい、お陰さまで。近いうちにそちらに覗います。
早速ですがちょっと調べて欲しい人間が居るんです。
立花裕也と千葉昭夫、免許証番号が・・・」
亮が電話を切って間もなく美咲から電話がかかってきた。
「どうして樫村さんに電話を掛けてくるのよ」
美咲の声は間違いなく怒っていた。
「すみません、ちょっと個人的な事でなので」
「警察を個人的な事で使われちゃ困るけど
二人には恐喝の前科があったわ、
立花裕也28歳と千葉昭夫32歳は
山田組系の構成員よ」
「やはりそうですか」
「その二人がどうしたの?」
「マッスルカーブに来てクラブ会員さんを
脅かしているらしいんです」
亮は映像を観て立花と千葉の唇の動きを読んでいた。
「裏が取れたら直ぐに連絡して、
威力業務妨害で引っ張ってあげるわ」
「分かりました、直ぐに調べます」
亮は美咲の電話を切ると厳しい顔で聖子に言った。
「聖子さん、オープンの時からいるスタッフを
ここに呼んでください、
それと辞めたスタッフとも話しがしたいんですけどね」
「もう直ぐ、給料を取りに来る早瀬恵里香という
娘がいますから話をしてください」
「早瀬恵里香さん25歳群馬県高崎市出身。
東京体育大学で体操を専攻し
以前は大手スポーツクラブEXSAに勤めていた女性ですね」
「はい、そうですが・・・」
聖子は亮が名前を聞いただけで履歴を覚えていた事に
驚いていた。亮は久しぶりに媚薬を飲んだ。
~~~~~
一方ピョートルとアントンは
スミスマシンでバーベル200kgをらくらく持ち上げて
周りのクラブ会員の注目を浴びていた。
アントンはウエイトトレーニングをしている男を
見てトレーニングのしかたが間違っている事を
ジェスチャーで伝え
「Pull、Push」
だけで意味が通じていた。
空いていたガラス張りのスタジオでは
蓮華と桃華が様々な中国拳法を取り混ぜた
型を始めた。
二人の一糸乱れぬ完全にシンクロされた動きに
クラブ会員達は目を奪われた。
次に二人は韓国のテコンドーのように高くジャンプ
し互いの頭の上を足を通過させた。
「おお」
会員達は声を上げ自分達もやってみたい感になっていた。
「凄いな」
ピョートルとアントンは蓮華と桃華の運動能力に
驚いてスタジオに入った。
「おい、俺達が相手になってやるぞ」
ピョートルが声をかけた。
「うふふ」
格闘技では桃華より強い蓮華は笑って
ピョートルの前に立った。
「マジかよ」
会員達は声を出してトレーニングを止め
スタジオの中を覗き込んだ。
まだうら若き乙女が大型冷蔵庫のような
巨大な男と練習とはいえ、戦うのは誰が見ても
無謀だと思った。
~~~~~
事務所のドアが2度ノックされると
早瀬恵里香が入って来た。
「あっ」
恵里香は亮の姿を見て声を上げた。
「初めまして、代表の團亮です」
亮は立ち上がって頭を下げた。
「あっ、どうも・・・」
「退職してお給料を取りに来たんですよね」
「は、はい」
恵里香は給料を受け取って早く帰りたかった。
「1つ聞きたいことがあるんですけど、
どうして急に辞めるんですか?」
亮はジッと恵里香の目を見つめると恵里香は目を伏せた。
「それは・・・」
「待遇?人間関係?仕事の内容?」
「違います!それには不満はありません」
恵里香は憧れのマッスルカーブに勤められて
まったく不満は無く、亮に強く言い返した。
「では誰かに何かを・・・」
恵里香は亮に言われうつむいたまま涙をこぼした。
「私が夜仕事から帰るとアパートの前に男の人がいて、
ここを辞めるように脅されていたんです」
「えっ!」
「やはりそうでしたか・・・」
聖子が驚きの声を上げると亮は冷静に答えた。
「じゃあ、辞めた他の人も?」
聖子が恵里香に聞くと恵里香は首を横に振った。
「分かりません、この事は誰にも言うなと言われたので
他の人がどうかとは?」
「相談してくれれば良かったのに・・・」
聖子が答えると亮が恵里香に頭を下げた。
「僕が悪かったんです。ほったらかしにしていた僕が」
亮は自分の書いた緊急プログラムに間違いあった事を
認めて反省していた。
「それで脅しは口頭だけですか?」
「はい、アパートの前と途中の道で3回ほど」
文章にして脅迫の証拠を残さない、違う場所で脅して
いつも見張っていると言う恐怖心を与える、
亮は犯人はプロの手口だと確信した。
「それで、犯人はここの会員の人ですか?」
「いいえ、見た事のない凄みのある人でいかに
もヤクザと言う感じの人でした」
恵里香は体を縮め恐怖を露にしていた。
亮はそれを見て恵里香の脇にすわりそっと
肩に手をやった。
「分かりました、僕が責任を持って
必ず早瀬さんを護ります。だから
思い直してここで働いてもらえませんか」
媚薬の効果で亮の全身から漂うフェロモンは
恵里香の心に安心感を与え、恵里香は亮の体に身を寄せた。
「大変です!スタジオで」
スタッフの男がドアを開けて入って来た。
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クラブ会員の見守る中で
蓮華とピョートルの練習が始まった。
スタジオの床はボクシングやプロレスのような
やわらかい床ではなので押し倒すような
格闘技の練習にはならなかった。
互いに打ってくる高速のパンチや蹴りを避けながら
練習をしていると亮がそれを見て笑っていた。
「これは練習ですよ」
「本当ですか?」
亮は呼びに来たスタッフに笑って答えた。
蓮華はサウスポースタイルのファイティングポーズをとった。
左手でピョートルに2度ジャブを打つと
右足の回し蹴りをピョートルのボディを狙って打つと
ピョートルは後ろに下がりそれを避けた。
蓮華はコマのように体を回しピョートルを追い詰めると
ピョートルは蓮華の右足を受け止め
放り投げた。




