ジムの異常
「ああ、そうしよう。せっかくのお前の発明だ、埋もらすには
惜しいからな。お前のアイディアにはいつも驚かされる」
亮の提案に秀樹はうなずいていた。
「ありがとうございます。そう言えばこれは炭素を糸状にして
形を作りそれに圧力を掛けて作った人工ダイヤモンドが発端でしたね」
亮は自分の発明を継続的に研究してくれていた
父親に感謝した。
「これって耐熱性があるのか?」
アントンが驚いたような顔をして亮に聞いた。
「はい、シリコン加工がしてありますのでマイナス70度から
540度まで耐えられます」
亮は簡単に返事をするとピョートルが口を開けて
笑った。
「これなら、アメリカの軍隊で使いたがるぞ」
「そうなんです。でも反社会的人間や
テロリストが使ったらどうしますか?
このスーツは当分我々だけで」
「それがいいかもしれないな、自爆テロをして死なないなら
世界中でどんな事が起こるかわからない」
「ええ、飛行機や車や電車の軽量化に使うのもいいわね」
マギーのアイディアにピョートルが手を叩いてマギーを指差した。
「それはいいアイディアだ、使ってみるよ」
亮がマギーの頭を撫でて褒めてあげた。
マギーが言った事はすでに商品化を進めており
柔軟性をもたらせる事がとても難しいスーツが
最終段階だった。
しかし、亮はマギーを思い切り褒めてあげた
褒める事がマギーに自信を持たせる事に
繋がると思ったからである。
「私も着てみたい」
亮に褒められてマギーは上機嫌だった。
「さあ、蓮華、桃華寸法を取るぞ」
秀樹が美容室で髪をカットして美しくなった
二人に言った。
~~~~~
「警視、今日は警視庁管内でおかしな事件ばかり有りました」
樫村が美咲に報告に来た。
「どうしたの?」
「まず、池袋で引ったくりの男がズボンを下ろしたまま
動けずに立っていたそうです」
「動けなかった?」
「はい、女二人組に首と腰に鍼を刺されたと
言っているんですが傷は無いそうです」
「それで引ったくりの男は?」
「余罪を自供して取調べ中です」
美咲は二人組の犯人が誰だか想像できたのでおかしかった。
「それから、大田区環状8号線で追突事故があって
人命救助があったんですけど変なんです」
「どうしたの?」
「目撃者によると二人の大男がトラックに
突っ込んだ車を手で引っ張り出し
また、手で車のドアを壊して
閉じ込められた運転手を助けたそうです、
しかも蘇生処置までして行ったそうです」
「それで、その人たちは?」
「名前も告げずに去って行ったそうです」
「まあ、素敵!」
美咲は小さく手を叩いた。
「銀座の宝石店で時計のすり替え窃盗があり
店員が犯人を捕まえたそうです」
「まさか、美宝堂じゃ無いわよね」
「はい、團さんの美宝堂です」
美咲はそれを聞いてお腹を抱えて笑いたかった。
「もう1つが・・・」
「まだあるの?」
「山手線に乗っていた客のICカードの
チャージが消えてたと言って
あちこちでトラブルが起きたそうです。
それで乗客たちが騒ぎ出して
JRは原因が何だか調べているそうです」
「それだわ」
美咲は立ち上がった。
「樫村さん直ぐにその状況を詳しく調べて、
事件性があるわ」
「分かりました」
樫村は書類を置いて部屋を出て行った。
その書類には樫村が美咲に報告を
していないジョギング失踪事件の
書類が入っていた。
~~~~~
「亜里沙ちゃん、今夜食事しない?ご馳走するわよ」
桜井亜里沙に秘書課の先輩の木島葉子が声をかけた。
「本当ですか、今朝いやな事が有ったから
葉子さんに聞いてもらいたかったんです」
「ちょうど良かったわね、話聞くわよ。うふふ」
葉子はとても機嫌がよかった。
「ありがとうございます」
「じゃあ、7時に東京駅大手町口でね」
葉子は亜里沙の肩に軽く触って
社長室に入って行った。
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亮は蒲田での用事が終わると
渋谷のマッスルカーブに来た。
ビルオーナーは飯田で1階は
スタジオD、2階は高級美容室マテリアの
渋谷店、その上にマッスルカーブの
日本第1号店があった。
怪我のためにオープニング立ち会えず
朝の一恵の報告で営業状況思わしくないと聞いて
亮は心配していた。
「お客さん少ないね」
桃華は入って直ぐに呟いた。
「確かに・・・」
亮が覗いたスタジオでは
6人の女性がエアロビックをしていた。
「亮、俺達は一汗流してきて良いか?」
「はい、フロントでウエアを、あっサイズが無いか」
「大丈夫、ちゃんと持ってきてある。cmのシューズも」
桃華が笑顔でピョートルとアントン達と
ロッカールームに向かった。
これまでビジネスを順調に進めていた亮も初めてビジネスで
失敗するかと不安になって事務所に入った。
「聖子さん」
「ああ、亮来てくれたのね」
気落ちして生気のない竹林聖子が亮の顔を見て
ホッとしたようで亮の顔を見上げた。
「どうしたんですか?人が少ないし僕の見たリストに
無いインストラクターがいるし」
「それが、アメリカの方から来るインストラクターの
ワーキングビザが下りなくて・・・」
「他の日本人のインストラクターは?」
「半分が辞めてプログラムが空いてしまったんです。それで緊急に
インストラクターを雇ったんですけど」
聖子は責任の重さに耐え切れず涙を流し始めた。
「分かりました」
亮は椅子に座った。
「まず、法務局入国管理局の方ですが
どうしてビザが下りないんでしょう」
「それが何度問い合わせても返事が
明確ではないんです。何度品川に行ったことか」
「変ですね、それは。それにスタッフが
半分辞めた理由は分かりますか?」
「いいえ、2週間前に突然一身上の理由という事で」
「ジムの方もすいていますが?」
ジムはインストラクターの有無に
関わらず来客があるはずであるし
亮は日本のどこにも無い最新トレーニング機器に
自信を持っていた。
「それは、毎日少しづつ減っているので
理由が分からないんです」
「聖子さん、監視カメラの映像観られますか?」
「ええ」
聖子はなぜ亮が監視カメラの映像を観るか不思議だった。
「聖子さんクラブ会員のリストを見せてください」
5倍速で監視カメラ映像を観た亮は聖子に向かって言った。
「はい」
聖子はパソコンのクラブ会員リストを亮に見せて
亮は監視カメラ映像に映ったメンバーと照合を始めた。




