シロクマ登場
「あの二人はテニスをやっていたお陰で
踊りのセンスはいいわ、大丈夫だと思います」
亮の真剣な指示に倉沢奈々子が答えた。
「倉沢さんそれで三野美智子さんと神村由香さんは」
「うん、神村さんはダイエットして5kg
減ってスタイルが良くなったわよ」
「それで三野さんは?」
「精神的に悩んでいる、歌が伸び悩んでいるわ」
「高音が安定しないんですね」
「そうです」
奈々子は亮の指摘に驚いていた。
「きっと楽なモデルへ行きたいんでしょうね」
「多分」
「今日、来ますかね」
「連絡を取ってみます」
そこに奈々子がスマフォを持って来た。
「團です」
「こんにちは」
美智子が嬉しそうな声を上げた。
「今夜、食事しませんか?」
「本当ですか?」
「レッスンを受けた後、食事しましょう」
「分かりました、楽しみにしています」
「関口さんは尚子さんとブルックの曲の
タイアップ探してください。ドラマ、アニメ、
映画、CM、難しいかもしれませんが、
よろしくお願いします。尚子さんとブルックのセールスが
成功すればRRジャパンの名が国内に浸透します」
亮が立ち上がって頭を下げると関口営業部長が答えた。
「はい、MTVのプロモーションビデオ、
スポットCMは準備が出来ています。
ドラマ、CM等には広告代理店にプレゼンに行っています。
それとご指示通り、JOLの機内音楽チャンネル、
ヤマト美容室で流してもらっています」
「まだ、弱いですね。それではありきたりの営業です」
亮は厳しい顔で答えしばらく目を閉じて
今まで考えていた企画を話し始めた。
「今、韓国のアイドルは日本だけではなく
全米進出に力を入れています。
彼女達は徹底的な教育を受け、
ダンスはもちろん英語の歌詞も
こなしています。今後RRレコードジャパンは
韓国アイドルに対抗するために、すべて英語バージョンも作ります」
亮の突然の話しに会議室はざわついた。
「確かに韓国アイドルは英語の発音、セクシーさも
アメリカで受けると思います」
奈々子は歌唱力、ダンスパフォーマンスで
日本のアイドルが負けている事を知っていた。
「英語バージョンの楽曲はアメリカ
RRレコードでセールスしていきます」
「面白いですね」
関口は日本の企業が社内通用語を英語にすると言う
方針を打ち出している事にように日本の音楽も英語歌詞によって
グローバル化には賛成だった。
「では早急にこの企画をまとめ、マスコミ各社に流してください。
記者会見が必要ならばその準備も」
亮は会議に出席している社員の顔を一人一人見つめ
亮の意見に賛成か反対かを見極めていた。
「我々で世界に通じるアイドルを作りましょう、
ぜひDCTプロジェクトオーディションで見付け出してください」
「はい、DCTプロジェクトの応募者は2000人を越えました」
「まだ少ないですね。副賞にハワイでの合宿語学、ダンスレッスンとジェシーに写真撮影をしてもらいましょう」
「えっ!そんなに豪華で良いんですか、お金が・・・」
「大丈夫です。合宿の様子はYouTubeで毎日アップを
してデビュー前に人気を上げます。ジェシーの写真ならデビュー前に写真集を販売できるかも知れません」
「なるほど」
「合格者にはジムでのボディメイクとメイク、
ファションの講習をして日常の美を徹底してもらいます」
奈々子が答えると亮は笑顔でうなずいた。
「それで一次合格者は?」
「百人、それぞれに課題を出して1ヶ月後に
2次審査半分に絞り込んでそこからモデル、
歌手及びダンサー、女優の方向へ振り分けます。
もし落選した人で将来性を見込んだ人は研修生として
教育を受けさせ、3ヶ月ダメだったら放校になります」
「網にかかった。魚は逃がさないと言うわけですね」
「まぁ、出来るだけチャンスを上げたいので」
奈々子達は亮の意見賛同した。
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銀座美宝堂から秀樹とピョートルとアントンは
大田区蒲田の研究所に向かった。
「時間をとらせて申し訳なかった、ピョートル」
秀樹は朝のうちに美宝堂で仕事が有って
ピョートルとアントンを美宝堂で待たせていた。
「いや、美宝堂の店内にあったシベリアパインの
家具は最高です。故郷を思い出しました」
「気が付きましたか、マホガニー、ウォールナット、
メイプル、パーチ、チェリー、オークと言う
高級木材と比べてパインは安い木材料ですが、
亮の友人の家具工房が作っているデザイン、機能性
共に最高の逸品です。当社で建築資材としても販売しています」
「おお、すばらしい」
ピョートルはシベリアの木材が日本で
活用されている事が嬉しかった。
秀樹とピョートルとアントン三人が乗った
車が首都高速戸越から第二京浜に降り環八へ出た時
それが起こった。
前方右車線を走っていた車が左車線に入った時
左車線に止まっていたトラックにその車が追突し
運転席までめり込んだ。
秀樹が前の車が激突寸前停車した瞬間
後ろのドアが開きピョートルとアントンは事故現場に
走って行った。
その動きの早さに秀樹が呆気に取られて
秀樹が発炎等を左車線に投げ現場に行くと追突した車にいた
運転者をピョートルとアントンが運び出していた。
「ピョートル、警察と救急車を呼んだ」
「ありがとう」
乗客二人を道路に横にすると
助手席に閉じ込められている同乗者を
ピョートルが覗き込んだ。
「アントン、運転手の顔がエアバッグに
挟まったままだ、窒息するぞ」
「おお」
アントンは自分の上着を脱いで
手に巻き運転席のガラスを叩き割り
エアバッグを鷲づかみにして引っ張り出した。
「大変だ!呼吸が停止している」
アントンが大声を上げた。
「人工呼吸をさせないと」
秀樹が言うとピョートルとアントンが顔を見合わせ
車の窓に手をやって引っ張った。
「うーん」
二人は顔を真っ赤にしてトラックに食い込んだ
ドアを引くと「メキメキ」と言う音を立てた。
「ダメだ、トラックに強く入りすぎている抜かなきゃダメだ。
私の車で引こう」
秀樹は二人が何をしようとしているか分かっていた。
「ダメだ、間に合わない」
ピョートルは事故車両の後ろに回って
バンパーに手をやって引き
アントンはドアをもう一度引いた
「おおおお・・・・」
「バキバキ」
車のドアが金属音を立てて開いた。
消防のセスキューが使っている油圧スプレッダー
で鉄板を折り曲げてドアを開けているが、
人間がしかも素手で開けている
姿は正に巨大な白熊だった。




